119)カナメ(ロティ)の過去

 遥かな過去、アーガルムは3つの勢力に分かれて争いを起こしていた。争いの切っ掛けはマールドムだった。


 かつてアーガルムは無力だったマールドムが自らを導く存在として降霊術で高次元から精神体のみ召喚してマールドムの器に定着して生まれた種族であった。やがてマールドムはアーガルムに指導と保護を受けて繁栄した文明を作り上げた。



 その文明でマールドムとアーガルムは長らく共存していた。



 しかし長い平和は怠惰と傲慢を生み、マールドムは堕落し、破滅的な欲望を求めた。


 やがてマールドム至上主義が台頭し、アーガルムを排除したいと望む者達が多く現れた。そして欲深く傲慢な一部のマールドムが禁忌の手段で戦争を起こした。



 ……それはアーガルムの幼い子供を利用して兵器として扱うと言う方法だった。



 アーガルムは成長と共に強大な意志顕現力を持つ。しかし逆に言えば幼い子供の時は、資質によるがその力は上手く扱えない子供も多く居た。

 一部の狂ったマールドム達が行ったのはそうした子供のアーガルム狩りだ。そうして狩ったアーガルムの子供達を特殊な装置で連結させ意志顕現力の発動体として扱った。


 そのやり方は玲人や仁那が経験した方法など比較に為らなかった。玲人や仁那は新見達に使われたが、何の意識操作もされておらず、言わば“流れ”で力の発動を行わさせた。それは単に新見達には意識に干渉する技術が無い為だったが。



 しかし太古のマールドム達が行った方法は残忍極まりない方法だった。アーガルムの子供達の意識に直接介入し、自我を破壊して兵器として運用したのだ。

 

 成長したアーガルムならマールドムなどに支配されないが、子供のアーガルムなら別だ。当時の愚かなマールドム達は自我を破壊して連結したアーガルムの子供達を使って強力な兵器を作り上げ、戦いを始めたのだ。


 その戦いは元来温厚なアーガルムにも混乱が生じ、マールドムと共謀し覇権を狙う者達や、あくまで争いを避けて中立を望む者達、そして真っ向からマールドム側に対抗する者達に分かれ、やがてアーガルム同士が戦う最悪の事態になった。



 そんな無益な戦いの中、カナメの妹がアーガルム狩りに有った。カナメの家族はマールドムの侵略により、カナメの両親は妹が小さい時に亡くなった。その為、カナメが妹の面倒を一人で見ていた。



 そんなある日にマールドムの兵士達がカナメが住んでいた地域に襲ってきた。


 本来マールドム等、強い力を持つアーガルムからすれば敵では無かった。しかし襲ってきたマールドム達は意志顕現力の発動体を利用した強力な兵器を使用し、其処に居たアーガルム達はあっという間に駆逐された。


 その時、カナメも一緒に居て激しく抵抗したが逆に殺されそうになって、抵抗も空しく妹を連れ去られた。大怪我をして死ぬ運命だったカナメはその場で廃棄されていた所に“彼”が助けてくれた。



 カナメは妹を取り戻すべく、“彼”が所属するマールドム側に対抗する組織に参加した。



 弱く、意志顕現力も上手く発現出来なかったカナメは“彼”の指導の元、厳しい訓練を自らに課した。そして徐々に強くなりやがて騎士になった。


 そうしてやっとの思いでマールドムに囚われた妹を“彼”と共に取り戻したが……彼女は既に自我が崩壊し、魂に深いダメージを受けた状態だった。植物の様に物言わなくなった妹は肉体と共に回収された。



 そんな状態の子供達は少なくなく、カナメや“彼”は耐えられない悲しみの中、子供達を回収したのだった。



 戦いはマールドム達の唯一の戦力だった意志顕現力の発動体による兵器も、やがてアーガルムによって対抗策を取られ、その後は一方的にマールドムは虐殺された。そして早々にマールドム達は戦い破れ文明其の物が崩壊した。


 戦えるのはもはやアーガルム達だけであったが、戦いは更に激化し、この星を何度も蹂躙して長い時間を経て戦いは終わった。戦いの後、“この空間に”残ったのは僅かに生き残ったマールドムだけで、彼らは再度文明の焼き直しを行ったのであった……



 そんな過去を思い出しながら手を繋いで横に居る晴菜を見る。嬉しい為か何時もの何倍もはしゃぎ良くしゃべる彼女を見て……


 (……この子も全てが始まったら、多分生きられない……“彼”が目覚めたら、あの時の続きをする筈……それは誰も止められない……だけど、この子は……この子だけじゃない、お祖父ちゃんやお婆ちゃん……学校の皆も……)


 カナメは脳裏に口煩いが暖かい祖父や、いつもニコニコしてカナメを愛してくれる祖母の姿を思い出していた。学校の友人達もカナメに良くしてくれてる。カナメは彼らの姿を思い浮かべると何とも言えない気持ちになった。


 (……何を悩む事がある。奴らはマールドムだ! 敵なんだ! 奴らの所為でアイツは……其れは分ってる、絶対許せない事だ……だけど……アイツをあんな目に合わしたマールドムの奴らは僕と“彼”達で全員殺してやった。

 だから……今を生きるマールドムには関係ない話だ……いや、忘れるな、アイツはまだ“あんな状態”でアガルティアで安置されている。そうだ、何も終っても無い!……)

 


 そんな事を考えながらふと、前を見ると早苗と修一(体は小春と玲人)が神社の奥の方に向かうのが見えた。二人で何処か静かな所へ行くのだろう。


 カナメは早苗達の事情は知っていたので放って置こうと思ったが、横に居る晴菜はそうでないらしく、興味津々だった。


 「ねぇ、ねぇ……小春達何処に行くのかな? その……心配だから付いて行って見ようか?」

 「えーっと 邪魔したら悪いんじゃないかな?」

 「大丈夫、大丈夫! 見守るだけだから!」


 晴菜は、そんな事を言いながらカナメを引張って行った。向かうは小春達の向かっている神社の奥だ。


 カナメは内心、“コレだからマールドムは……でも、アイツもそんな所あったよな“とか考えていた。



 小春達を追って神社の奥に行った晴菜とカナメだったが、其処に居たのは小春達だけでは無かった。


 どうにもガラの悪い連中が3人おり、気の弱そうな少年の胸倉を掴んでいた。その連中が小春達(早苗と修一)を見て、いきなり絡みだした。


 「あぁん? 何だおめぇら……見せもんじゃねぇぞ!」

 「其処の女、置いてけよ? 俺らが遊んでやるからよ?」


 言われている早苗と修一は全く慌てていない。アーガルムである彼女達ならどうとでも出来るからだ。


 典型的な間抜けな姿に見ていたカナメは呆れ果てた。絡まれている修一達は“雛”と“器”とは言えアーガルムだ。脆弱なマールドムが敵う訳が無かったからだ。


 だからカナメは修一達の心配は何もしておらず、其れよりも目の前の愚かなマールドムをどう始末しようか考えていた。


 (相変わらずマールドムはゲスだらけだ……しかし放置し“雛”の彼が下手に力使って、自体を大きくする位なら僕が奴らを始末するか……内臓を軽く“搔き混ぜる”だけで脆弱な奴らは勝手に悶え死ぬだろう……)



 そう決めてガラの悪い連中を静かに始末しようとした時……


 「アンタ達、あたしの友達に何する心算よ!!」


 カナメが止める前に横に居た晴菜が飛び出していった。


 「なんだ? この女……お前も俺らと遊んでくれんのか?」

 「へっへ、そりゃいいわ」

 「其処のガキ! 財布置いてどっかイケや!」


 ガラの悪い連中はそう言って晴菜に迫る。


 「何する心算よ!!」


 身の危険を感じた晴菜は姿勢を低くして男の顔に平手打ちをかました。


 “パン!”


 平手打ちを食らった男は激高して、拳を握って早苗に殴り掛かろうとした。


 「この!クソアマ!!」


 晴菜が身の危険を感じて目を瞑り体を屈めると、誰かが晴菜の前に立ち塞がった様だ。晴菜がそっと目を開けると其処には……



 カナメが晴菜の前に立ち、男の拳を何処から出したのか黒い石の様な棒で受け止めていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る