116)アンドロイド“アンちゃん”発動計画

 予想外の出来事に驚いた早苗は、思わず呟く。


 「こ、これは……」


 “凄いでしょう! このニョロメちゃんは“中”から動かす事が出来るんです! でも意志力を使って動かすと“外”から無理やり動かす事になるから、どうしても余計な意志力を使う必要が有るし、動きが不自然になるんです!“


 小春の主張はニョロメちゃんを通じて意志力を憑依させた物体に直接送る事が出来る為まるで生き物の様に操作できるという事だった。

 

 其れに対し、意志力を使って動かす場合は操り糸で人形を動かしている様な状態になり、ぎこちない動きになり、尚且つ動かし続けるには絶えず意志力を送り続ける必要が有る。

 

 ニョロメちゃんの場合、最初に意志力で命令を与えておけば動かすのに意志力を与え続ける必要は無く自律行動が可能だった。



 “凄い! ホントに凄いよ! 小春! お母さん、今度私にやらして!”


 (え、えぇ……今、替わるわ……)


 大興奮の仁那に対し何故か、早苗は何やら考え込んでいる。


 「小春! 今度はアレ動かしてもいい!?」


 仁那は興奮の余り、言葉を出して小春に聞いている。事情を知らない他人が見れば、小春が1人で喋っている様に見えるだろう。


 “仁那、声に出さず心で考えて示してくれるかな? 他の人に見られたら変に思われるよ”


 (分った! ねー小春、あの時計を動かしてもいい?)


 “ええ、良いけど壊さないでね”


 (うん! 分った!)


 仁那はそう言ってニョロメちゃんを動かし目ざまし時計に憑依させた。すると目覚まし時計は針をクルクル廻しながらカタカタ動き踊っている。

 目覚ましアラーム音を断続的に鳴らして音楽を奏でながら。よく見れば目覚まし時計の文字盤の所にブサ猫の時同様に目が現れている。



 その様子を見た早苗は、小春に質問した。


 “小春ちゃん、時計の様な機械にも憑依出来るの?”


 “はい、要は意志顕現力の問題なので、強くイメージした事は大体出来るかな、って思います。逆に強い意志力を持っている人間とかは抵抗が大きいと思います。出来なくは有りませんが強い集中力が必要です”


 “それじゃ、小春ちゃん、あのエロメちゃんの大きさは自由に変えれるの? そして数も増やせるのかしら?”


 早苗は何か考えが有る様で、矢継ぎ早に小春に質問する。


 “……早苗さん、何回も言いますがニョロメちゃんです……エロメちゃんは中学二年の私的に拙いので真面目に勘弁して下さい……

 さっきの質問に答えます。ニョロメちゃんの大きさは意志力の問題なので大きさは自由に大きく出来ますが、大きさは憑りつくサイズはそんなに影響ないと思います。要はイメージなので、わたし達が問題ない、て信じればその通りになりますので大丈夫です。

 ただ、数の方は、扱える限界があります。その増やした分だけ意志力の指示や生命力を与えてあげなくてはいけないので、今の私にそんなに数は扱えないです“


 “有難う、小春ちゃん。面白い事考えたので、仁那ちゃん私に体替わって貰えないかしら?”


 (はーい、良いよお母さん、今替わるね!)


 そんな事を考えながら、仁那は早苗と体を替わるのであった。



 小春の体に移った早苗は、徐に小春の携帯端末を取り出して、何処かに電話し始めた。

 

 「もしもし、弘樹兄様? え? 今の私は小春ちゃんじゃ有りません。 早苗です。…………ククク、随分な慌てようね……

 腹違いとはいえ実の妹よ? そんなに怯えなくとも良いんじゃないかしら? 私はあの約束さえ守ってくれたら何も言いません。

 ただもし約束を守らなかったら……フフフ、想像するだけで今から面白い事になりそうね……アラ? 弘樹兄様? どうしましたの? 静かになって……大丈夫ですよ……今の所は及第点の範囲ですから……所で、弘樹兄様に是非お願いしたい事が有りますの、勿論聞いて頂けますよね?」


 早苗が電話を掛けたのは玲人の叔父の弘樹の様だ。早苗は電話口で思いっ切り弘樹に脅しを掛けている。脅しを掛けられている弘樹の怯え様は半端ない様子だ。そんな弘樹に早苗は続ける。


 「……先日、自衛軍の安中さんが此方に来られて小春ちゃんの技官としての自衛軍参加が決まったでしょう? その事で大至急用意して欲しいモノが有りますの。

 私達は玲君達の傍で戦いたいけど、今の所小春ちゃんのお母様に止められているから、代わりに玲君達の傍で戦える“体”を大至急用意して頂きたいの。頑丈な体……つまりはロボットですわ」

 


 早苗の考えとしては、玲人の傍で戦いたいが戦えない現状を改善する為に、自分達の代わりになる“頑丈な体”を弘樹に用意させようとした。要はアンドロイドだ。この時代、ロボット産業も大いに発展し、2足歩行するアンドロイドも様々な分野で利用されていた。


 早苗が考えたのはアンドロイドをニョロメちゃんを通じ自分達が操縦する事だ。


 「……それで出来れば頑丈な体のロボットが良いですわ……軍事用のアンドロイド? その辺細かい点は弘樹兄様にお願いします。

 私の要望としては、玲君の鎧と同じく透明に出来る体で、形状は女性の体が良いわ。予備を含めて最低3体必要よ。あと……武器は必要ありません。小春ちゃんや仁那ちゃんの考えに反するし……何よりどうとでも出来ますから……

 えぇ、えぇ、細かい所は大御門の技術の方にお願いします。それと納期も急がしてくれますか? え? 難しい? だって玲君の“お仕事”は急に発生するんですよ? 待ってなんかくれないわ。其処は弘樹兄様のお力で最大限何とかして下さい……

 あと、安中さんには弘樹兄様の方から説明して貰えますか? 私があの人に話すと“殺っちゃう”雰囲気に為ったらイヤですから……弘樹兄様と同じでね……フフフ、“今の所”冗談ですわよ……其れでは何卒お願いしますね……」


 微妙に強力な圧力を弘樹に掛けて早苗の電話は終わった。


 “早苗さん、早苗さんの考えが“伝わり”ました! わたしも無人機なんかにニョロメちゃん憑けて操る気でしたけど、ロボットを使って玲人君の横で戦う事までは考えられませんでした”


 (フフフ、此の方法なら、私達が玲人君の横に何時も居るのとそんなに変わらないでしょう? それに弘樹兄様が用意してくれるのは軍事用のアンドロイドらしいの。

 弘樹兄様は自衛軍に卸の仕事もしているらしく色々詳しかったわ。用意してくれるアンドロイドは軍事用だけあって頑丈で山道なんかも平気らしいの。手続きと、改造とかで納期掛かるって言われたから頑張るよう指示したけど)


 “お母さん、弘樹叔父さんにあんまり酷い事したらダメだよ!”


 (アラアラ、違うわよー仁那ちゃん。私は玲君達と人類平和の為に貢献しようとしてるだけよー。そんな仕事に無理やりでも働けて弘樹兄様、スッゴク喜んでたと思うよー)


 “……早苗さん、わたしには散々脅してタカっていた様にしか聞こえませんでしたが……まぁ後でわたしと玲人君の方から弘樹さんにきっちり謝っておきます。所でロボットの件ですが……”


 (ロボットじゃ無いわ、アンドロイドよ。小春ちゃん)


 “そう、其れです。アンドロイドです。届くまでにわたし達で先に上手く使える様に訓練する必要が有りますね”


 (確かにそうね、分りました。練習に使う為に汎用品のアンドロイドを一体廻す様に弘樹兄様に指示しましょう)


 “ねーねー小春ー、ロボットにも名前付けようよ!”


 “そうね、仁那。それじゃアンドロイドなので“アンちゃん”にしよう!”


 “……“アンちゃん”……いいよ! 流石小春! それが良いわ!”


 (……ホント、小春ちゃんのネーミングセンスは残念ね)



 こうして、小春達は戦闘用アンドロイドの“アンちゃん” 発動計画を立ち上げた。


 通常、軍事用アンドロイドは特殊技能分隊の志穂隊員の様にオペレーターの制御が不可欠でアンドロイド自体が本当の意味で自分で考えて行動する事は出来なかった。しかしニョロメちゃんを使えば全く状況は変わってくる。

 

 ニョロメちゃんを通じて小春達は周囲の状況を把握でき、能力の発動も自在だ。簡単な動作なら自立させられ、アンドロイドの性能以上の動きが可能だ。


 なにせ運動機能の無い、時計やぬいぐるみすら自在に動かせるのだ、その運動性能は比較に為らない。



 そして、小春達が立ち上げた戦闘用アンドロイドの“アンちゃん”発動計画は、改めて小春から“アンちゃん”の有用性を確認した弘樹から、自衛軍の安中に伝えられ即決採択の上、大特急で準備されたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る