114)小春のやり方

 恵理子としては、自衛軍の参加など言語道断だった。その為、例え後方支援の予備隊でも認める事は出来なった。


 母の言葉を受けた小春は、どうしようか考えたが、自分の考えは初めから決まっていた為、母の目を見て話し掛けた。


 「……ママ、わたしの事、心配してくれて本当に有難う。でも、わたしは皆の為に軍で戦う玲人君を守る為にどうしても玲人君の横で自衛軍に参加したいの」  


 恵理子は小春の目を見て、小春が本気である事は良く分った。そしてその覚悟も……

 


 だからこそ、恵理子の答えは決まっていた。


 「小春、此れだけは絶対ダメよ。小春の婚約や、玲人君のお姉さん達の事とかなら、ママは小春が其れを望むなら反対はしません。だけど、此れだけは小春が幾ら望んでも認める訳にはいかない」


 恵理子の強い拒絶を受けて小春は何て答えようか悩んだ。今回は小春の中の早苗も坂井の時の様に恵理子に意見する事は無かった。


 早苗も同じ母親として、恵理子の考えに共感したからだった。恵理子の言っている事は理屈では無かった。“自分の娘を危険に晒したくない” その想いだけだった。その想いは早苗としても完全に同意していた。

 

 小春もシェアハウスに居る早苗の考えていた事が直接伝わった為、どうしようか思案していると……


「小春、此処は君の母さんに従うべきだ。勿論、小春の想いも実力も俺は知っている。だが、無理を通して小春の母さんに心労を掛けるべきではない」


 玲人が小春に優しく諭した。対して小春は困り顔をして玲人に話す。


 「で、でも玲人君、わたしは玲人君と……」

 「ああ、小春の気持ちは良く分っている。だから、俺の横で戦闘活動に直接参加せずとも、小春しか出来ない方法で俺達を支援できる事が有る筈だ」


 玲人はそう言って持っていた“一つ目ちゃん”を小春に示した。


 「……! そうだね! 其れが有った!」


 そう叫んで、小春はじっと考える。


 (そうだ……一つ目ちゃんからリンクしてわたしが力を玲人君達に送れば、色々助ける事が出来る筈……そして今のわたし達なら一つ目ちゃん自体に“あれこれ”させられる筈だ……)



 考えが纏まった小春は恵理子の目を見て静かに語る。


 「ママ、分ったよ……“今の所”わたしは玲人君の一緒に居る為に直接戦いの場に行く事は諦める」

 「……そう。ゴメンね、小春。我慢させる事になるけど……」


 恵理子は正直、安堵しながら小春の肩に手を置いて慰めた。小春は恵理子の手に自分の手を重ねて、言葉を続けた。


 「……でも、せめて玲人君が軍のお仕事している時は、“お守り”をわたしが作って渡すわ。そしてその“お守り”に玲人君達を守る様にお祈りする位は許してね」

 「もちろんよ! 玲人君に是非そうしてあげて!」



 小春が選んだ“やり方”はベストでは無かったがベターな方法であった。


 小春が玲人の提案を受けて考えた方法は次の様なモノだった。


 今の小春は“目”に様々な機能を付加させる事が出来る。以前の仁那では“目”を通じて玲人の五感を受け取る事と、自らの力を付与する事だった。


 しかし、今の小春は以前の仁那が使えた機能以外に“蘇活”(再生能力)や“掠奪”(対象の生命力を奪う能力)等々、アーガルムの基本能力全てと、小春にしか使えない強力な増強能力“扶翼”を、玲人に渡す“目”に付加する事が出来た。


 但し、大規模破壊を起こす“狂騰”は小春自身、この能力が大幅に劣化していた為に付加する事は出来なかった。

 

 この時点で小春の能力は自衛軍にとって絶大な効果を生む事になる。


 小春の“目”は元の仁那同様、複数生み出せる。仮にその“目”を複数の兵士に渡せば、“目”を通じてその兵士は超人化出来る。

 具体的には兵士自体は障壁等で防護され、仮に致命傷を受けてもあっという間に再生する。そして敵性対象を武器を用いず無力化出来る。

 もっとも小春の能力の限界により付与出来る対象の人数は限られる事と、小春にとって支援する対象は何と言っても玲人が第一だった。


 また、小春は“目”を渡すだけでは無く、それ以外に“目”に新たな機能を与える心算だった。其れは“目”を通じて対象を動かす、もしくは“目”自体を動かす事だ。此れは小春が仁那と同化する事で出来る様になった新たな能力だ。


 まだ、試してはいないが、小春が考えていたのは無人機等に“目”を付着させ、操ったり“目”自体に体を与えて動かす事が出来ないか、と考えていた。


 其れにより、小春自身の体は自宅に有りながら無人機などに“目”を通じて意識だけを飛ばして玲人の横で支援出来る事になる。


 もっとも“目”自体は生命エネルギーを与えないと死滅するので、小春が“送る”か“掠奪”で周囲から吸い取る必要が有ったが、健全なアーガルムになった小春は基本能力が大幅に強化された為、この新たな能力は出来ない事では無いと考えていた。


 (今の所は出来る事を少しずつ進めるしかないわ。そして何時かママにも理解して貰って、わたしも玲人君の横に居られる様に頑張ろう)


 小春は現状の所、“目”を通じた支援を玲人に行う事で取敢えずの及第点と考えた。無論、いずれは玲人の横に駆け参じる心算だったが。


 玲人と小春のやり取りで彼らの考え(“目”で支援する事)が分った安中大佐は恵理子に話しを進めた。


 「お母様のお気持ちは良く分りました。小春さんは未成年であり、例え本人の強い希望が有っても保護者の方の賛同が無ければ、例え後方部隊とはいえ予備隊の参入は出来ません。

 ですが、冒頭に申し上げた、小春さんの能力の管理と確認は定期的に、近くの駐屯地に来て頂き行って貰います。お母様、その点は問題ありませんか」


 「はい、安中さん。小春が戦いに直接参加せず、小春に絶対危険が及ばない事をお約束頂ければ問題有りません」


 安中の説明に、小春の母恵理子は一応の納得した。恵理子のそんな顔を見た、安中は更に説明を続ける。


 「小春さんのお母様に自衛軍の中部第3駐屯地に所属する安中大佐として改めて次の事を約束させて頂きます。小春さんを軍務に就く事を絶対に強要致しません。そしてお母様のご承認頂けない限り、小春さんを戦場に連れ出す事も致しません。

 従って小春さんには戦火が飛び火する事が有りませんので安心して下さい。

 なお、先程ご説明した通り、小春さんは定期的に駐屯地に足を運んで頂く訳ですが、身分を証明する必要が有ります。小春さん自身の能力の管理と確認の為、軍のお手伝いと言う立場より小春さんには技官として採用させて頂きます。

 技官は戦場に赴く事の無い非戦闘員で、栄養士や薬剤師の様な特殊な技能を有している人が対象になります。小春さんには一切危険が無い様、最大限配慮致しますので、どうかご理解下さい」


 安中の言葉を受けた恵理子は暫く目を瞑って考えていたが、意を決して安中に語った。


 「……分りました、安中さん。小春に出来るだけの協力はさせますが小春に危険が及ばない様に重ねてお願いします」

 「はい、必ずお約束お守り致します」


 安中は小春の母、恵理子に再三約束をした。もっとも、安中としても初めから小春に直接戦闘に参加させる気は無かったが、小春の強い気持ちを知っていたので敢えて“技官”という立場に為れる様、調整した。


 小春が、仁那同様に“目”の能力を使える事は事前に玲人から聞いていた為、遠距離からでも玲人の支援が出来ると考えたからだ。


 こうして、小春は母恵理子から非戦闘員の技官と言う扱いで自衛軍の参加を何とか認めて貰った。



 安中と梨沙は玲人と小春に見送られて石川家の玄関を出た。その別れ際、梨沙が小春に話し掛ける。


 「小春ちゃん、小春ちゃんの能力の管理と確認の為に駐屯地に来て貰う事になるけど、その送迎は基本的に私がするからね。其れから、小春ちゃんが駐屯地に来てくれる時は出来るだけ玲人の部隊の模擬戦をさせるから、小春ちゃん“応援”してね」


 「はい、分りました坂井さん。色々此れからお願いします」

 

 梨沙は安中の意を汲んで小春の“目による応援”による支援を玲人を中心に特殊技能分隊に適用できないか模擬戦で確認する考えだった。


 梨沙は小春とそんな言葉を交わして安中と駐屯基地へ戻って行った。



 後に、小春の“応援”は特殊技能分隊全体に絶大な戦力になるのであった。


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