11章 夏祭り

113)新生活

 リジェやドルジ達が爆心地で“遊んだ”日から数日が過ぎて、小春は退院して自宅に戻ってきた。


 小春の家では、母恵理子が妹の陽菜や祖母の絹江に小春の事情を説明した。



 当然混乱が生じ、陽菜からは、“まさか、小姑と姑がダブルで憑りつくとか……どんな罰ゲームなの……此れが大御門家の呪いか……”と本気で心配され、絹江からは、“も、もしや、狐憑きかー!? は、早く煙を焚け!”と、逆に絹江自身が錯乱しかけた。


 そんな時は、すぐに近所のアパートで仮住まいしている薫子が都度重ねて石川家の面々に説明を繰り返し混乱が収まって来た。何より、小春の中に“住んでいる”早苗や仁那達の努力も大きかった。



 例えば早苗は……


 「……お婆様、兄の大御門弘樹よりお婆様の為に最高級玉露を取り寄せさせましたので淹れてみました。其れと羊羹を作って見ましたの、宜しければご賞味下さい。お口に合えば良いのですけど……」

 「いやいや、早苗さんや……あたしの様に老い先の短い婆にそんな気を使わんでも……」

 

 早苗が小春に替わっている時は仕事をしている母恵理子に成り代わり石川家の家事や料理を率先して行い、特に祖母の絹江に尽くして気に入られていた。その為、祖母絹江を中心に早苗の地位はうなぎ登りの上昇していった。もっとも早苗の腹積もりは別にあった。其れは……


 「お婆様は石川家の宝です。お婆様有っての石川家です……所で私の息子の玲人と娘の仁那の事ですが、お婆様にも是非に可愛がって頂ければと……」

 「おお、あの詩吟の好きな坊と、小春の中に居る元気な子じゃね。早苗さんや、何も心配せんでエエ」 


 早苗は、石川家で影の支配者である絹江に上手く取り入り、石川家における自分の子供達の地位を盤石にしていたのであった……



 一方、仁那はと言うと……


 「ねぇ、陽菜ちゃん。早くダイヤの8出してよ。私、次出せないよ」

 「……耐え忍ぶ事も人生ですよ、仁那ちゃん。別にダイヤの8に拘らなくてもこの、スペードの5なんかどうですか?」

 「陽菜ちゃん、其れ、私持って無いの知ってて言ってるでしょ! だったら私ハートの10、絶対出さないんだから!」

 「むむむ、根競べですね。どちらが折れるか勝負です!」


 仁那(体は小春)は陽菜とトランプの七並べをして仲良く遊んでいた。


 小春と同化してからの仁那はすっかり健康になったがその分、幼くなってしまった為、小学生の陽菜とはすぐに仲良くなった。

 陽菜にしても、初めは姉の小春に居る仁那や早苗の存在に戸惑ったが、母譲りの勘の良さにより仁那と早苗が“本物”である事を理解した。そして、仁那は本当にいい子だったので意気投合し、本当の姉妹の様に仲良くなった。


 母の恵理子は二人の遊ぶ様子を見て“もう一人娘が出来た様ね!”と、凄く喜んでいた。



 こうして、早苗と仁那の存在は最初は石川家に混乱をもたらしたが、すぐに大切な“家族”として受け入れられたのであった。



 そして、受け入れられたと言えば、もう一人、朴念仁な“彼の人”も居た……


 “彼の人”である玲人は結局、薫子と同じ近所のアパートで仮住まいしていた。初めはキャンピングカーを弘樹に借りて貰って寝泊りする心算だったが、そんな車を駐車出来るスペースが石川家周辺に無かった為だ。

 弘樹が進めている石川家ご近所買い取り計画が完了し、引っ越しが終了するまではアパート住まいする予定だった。


 もっとも、小春の母、恵理子からは、“パパの部屋、余ってるから一緒に住んじゃいなさいよ”と言われていたが、玲人は流石に遠慮した。


 気持ちは有り難かったが、玲人にはある心配が有った。其れは小春の中に住んでいる、“制御不能な猛獣(=早苗)”と玲人の中に居る“猛獣には甘い羊(=修一)”を一つ屋根の下に閉じ込めると、倫理的に拙いと息子ながらに心配した為だ。


 そんな訳で、玲人は石川家から徒歩7分の薫子と同じアパートに住んでおり、毎日石川家に奉公に出ていた。今日も石川家に奉公に来ていたが、奉公と言っても行っている事は、祖母絹江の話し相手や、陽菜の遊び相手が多かった。と言うより絹江や陽菜に呼ばれて相手させられているといった感じだったが。



 そして今日、石川家には特別な来客が予定されていた。今は8月に近づき小春達は既に夏休みの時期だった。その為、石川家には小春や陽菜の子供達が全員居た。その来客は主に小春に会いに来るのだ。



 そして、お昼過ぎに彼らは来た。


 “ピンポーン”


 石川家のインターフォンが鳴り、護衛でもある玲人が応対した。


 ドアの向こうに居たのは……


 スーツ姿の安中大佐、そして坂井梨沙少尉の自衛軍関係者と弘樹と薫子の大御門家の代表者だった。本来、自衛軍の説明には奥田誠司中将が行くと言う話が出ていたが、安中が奥田の参加を見送る様上申した。理由は早苗が奥田を見て暴走した場合収拾が付かなくなると懸念した為だ。


 従って奥田と小春との会合は今回の打ち合わせ後に改めて設ける事となり今回の石川家への訪問は一度、早苗と面通りしている安中と坂井が妥当と判断された。



 リビングに集められた4人と相対するのは石川家の母恵理子と小春、そして玲人だった。


 この大人数で石川家に集まるのは手狭だったので薫子は大御門総合病院での会合を恵理子に提案したが、当の恵理子が固辞した。

 恵理子としてはお世話になり過ぎている大御門家に対する多少の遠慮と今日の話は石川家でしたい、との意向からだった。



 恵理子や早苗(体は小春)によって綺麗に片付けられている石川家のリビングルームに集まった一同の内、弘樹が議事進行を行った。


 「……本日、大勢で石川さんのお家に寄せて頂いたのは小春君の事でして……」


 そんな風に弘樹は切り出し、以下の要点を全員を代表して述べた。


 ①小春は仁那達と一緒に為った事より不思議な能力が芽生えた事。

 ②玲人も不思議な能力が有り幼い頃より自衛軍にテロ犯罪殲滅に大いに貢献している事。

 ③小春が自衛軍で働く玲人の為、手伝う事を強く望んでいる事。



 まずはその3点を語った。次に自衛軍としての対応を安中が語った。


 ①自衛軍としては小春に芽生えた不思議な能力の確認が必要である事

 ②自衛軍として小春の能力の管理が必要である事

 ③自衛軍として石川家に玲人以外の護衛を付ける考えである事

 ④自衛軍としては小春が軍務に就く事を絶対に強要しない事

 ⑤最後に、小春が自衛軍に協力してくれると言うのなら、後方支援の予備隊として参加し直接戦闘には出さない事を約束する。


 以上 5点を安中が自衛軍を代表して語った。以上の説明を受けた母、恵理子は厳しい顔をして安中に告げた。


 「お話は伺いました。小春に芽生えた能力の確認や管理については小春に危険が伴わないという条件で有れば行って頂いて構いません。そして護衛の件は有り難くお受け致します。でも、私の娘を戦いの場に向かわせるという事は認める事は出来ません」


 そう言い切って真っ直ぐ安中の目を見据えたのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る