112)揺るがぬ想い

 圧倒的な範囲攻撃で一面を破壊したロティはガリアに問い掛ける。


 「こんな感じで良い?」

 

 ロティは事も無げに、大した事はしていないと言った風な様子だった。


 「ああ、此れなら自然災害で破壊されたと奴らも認識するだろう。汚染されたこの区域では奴らも満足に調べ様としないしな。上出来だ、流石はロティ。手間を掛けたな」


 満足そうに答えたガリアにロティは手を挙げて答える。そして次の瞬間には、“激震”で大地を破壊したロティの双頭刃が一瞬で、ロティの傍に転移して、彼の周りを守る様に浮かび整列した。


 ロティの“激震”による破壊の様子を見ていたリジェがロティに感心した風で話し掛ける。


 「ロティ、お前、得物を変えたばかりなのに随分上手く使い熟してるじゃん。でもよ、元のお前の獲物は長らく棍だったろ?そんでもって、その棍の技で12騎士長になったんじゃねーか。そんなお前が何で今頃、得物変えたんだ?」


 リジェの問いにロティは曖昧に答える。


 「いや、その、えーと、リジェと同じで体変わったし、気分と言うか……そんな感じで」


 適当に誤魔化そうとするロティに替わって、ガリアが苦笑してネタ晴らしを行う。


 「察してやれ、リジェ。“彼”いや、今は覚醒前だから“雛”だったな。その“雛”の今の得物が投擲する針なんだ。ロティはその“雛”の得物に合わせて、わざわざ自分の得物を変えたのさ」

 「ガリア! 余計な事を!」


 ガリアのネタ晴らしに怒るロティだったがリジェは呆れ顔でロティを弄る。


 「お前、12騎士長の癖に今でも、“彼”に憧れてんのか? 相変わらず、ガキだなー」

 「リジェにだけは言われたくないよ!」


 怒るロティの肩に大きな手が置かれた。ドルジだ。


 「……恥じる事は無い。男は強く勇敢な者に憧憬を念を抱く……ロティよ。貴殿ほどの男が“彼”を想い傾倒する事は決して恥ではない。“彼”が我らにかつて成して来た事を思えば……俺も貴殿と同じ気持ちだ」

 「……ドルジ……」


 ドルジに慰められたロティは感極まったのか言葉を発しない。そんな二人に脳筋なリジェは空気を全く読まず割り込んで来た。


 「でもよー、今の“彼”は力も記憶も全部忘れちまって、唯の“雛”なんだぜ。“雛”の“彼”が使ってる針って得物も本来の“あの力”を忘れてる為だけの、言わばショボい借りモンだろう? 普通、転生して“雛”に為っちまったアーガルムが覚醒して元に戻るまで大体10、20年掛かるって話だ。

 “彼”の場合あんな形で転生したんだ、完全に覚醒するまで50年位掛かっちまうかもだ。其れをアタシらで何とかしよう、って腹積もりだけど、一切保証はねェ。

 そのいつ覚醒するか分らん間、“彼”は“雛”のままだが、お前其れでもその得物使い続けんのか?」


 リジェはかつての棍で戦うロティの恐ろしく強い姿を知っていた為、弱く覚醒前の状態の玲人が使う“粗末な借り物”のタングステンニードルを、12騎士長のロティが敢えて模倣する意味など無いと考えての、忠告だった。


 リジェに問われたロティは迷わず答えた。


 「ああ、僕は“彼”が目覚めるまでいつまでだって続けるよ、リジェ。“雛”だろうが、転生してどんな姿に為ろうが、何度生まれ変わっても、どんなに弱く為っても、僕には関係ない。だってあそこに居るのは“彼”だからだ。“雛”だろうが何だろうが、“彼”が針を使って戦うって言うなら僕も同じにするさ。いつか僕が“彼”に並び立つ為に……」


 ロティはそう言い切った。対するリジェは一言だけ呟いた。


 「ロティ……お前……」


 ロティはそのまま言葉を続けた。自分の揺るがぬ気持ちを確認するかの様だった。


「僕はかつて、弱くて何度も死に掛けた。昔の僕は意志力を上手く顕現できず本当に弱くてマールドムにさえ殺されそうだった……そう、あの時……“アイツ”が連れ去られた時もそうだった。

 瀕死だった僕は“彼”が助けに来てくれなければ、今此処に居ないだろう……いつだって“彼”が僕を助け、勇気付けてくれた。僕はそんな“彼”に憧れて、其れで弱くても頑張って……今の自分が居る。

 “アイツ”の事も一緒に戦って助けようとしてくれた。結果はダメだったけど……そして今、僕やリジェやアガルティアの皆がこうして生きて居られるもの“彼”が体を張って助けてくれたからだ。だから、“雛”かどうかなんて関係無い。

 “彼”が其処に居るなら、どんな状態でも僕は“彼”の後ろを守るよ。その為に針が必要ならどんな事をしてでも覚えて見せる。いつだって、何処だって……僕は“彼”の……いや、今は、違うな……

 僕は……“彼”の、カドちゃんの横に並び立ち、共に戦いたいんだ。この気持ちだけは何が有っても絶対に揺るがない……リジェ、君は違うの?」


 そう言ってロティは顔面の装甲を煙の様に消し去った。其処に居たのは東条カナメだった。カナメの両目は涙が溢れていた。 


 「……ば、馬鹿野郎、ア、アタシを泣かすなよ……」


 リジェは忠告した筈のロティ、いや東条カナメの心に迫る言葉と“心通”で伝わった強い感情に思わず涙した。リジェも“彼”には並々ならぬ思いが有る様だ。“心通”で皆に伝わったのか、よく見ればリジェだけでなく、ドルジも顔を上に向け涙を堪え、沈着冷静なガリアですら目頭を押さえている。


 アールガルムの騎士達は、そのまま暫く月夜の中で思い出話に花を咲かせた。話題はもちろん“彼”についてだった……


 暫く四人で昔話に花を咲かせた後、リジェが突然言い出した。


 「よーし! 何か気分も良くなったし、アガルティアに行って“遊ぼう”ぜ! なぁ、ロティ! お前も付き合えよ!」

 「まぁ、良いよ、少し位なら……あっ、ダメだ! 大事な用事あったんだ!!」

 「何だ、大事な用って?」


 随分慌てた様子のロティ(=カナメ)にガリアが尋ねる。


 「今日は“超絶爆誕! アースロボ”の放映日だったんだ!! ガリアが“心通”で急かすから録画予約も出来なかったし。だから今日は直帰するよ!」

 「「「…………」」」」


 「えーと? ロティ、何だって?」


 ガリアがカナメ(=ロティ)に質問する。


 「知らないの? “超絶爆誕! アースロボ”だよ? 弱い少年主人公が、強いロボットに選ばれて一緒に戦うってアニメなんだ。 主人公が成長する所なんか、凄く共感出来るって感じなんだ。学校でも凄く流行ってるよ! 知らないならガリアにも今度録画した奴、見せて上げるよ」

 「いや、別に、その、遠慮しておこう……」


 戸惑い顔のガリアを横に、カナメ(ロティ)は一人続ける。


 「其れにお祖父ちゃんにあんまり遅かったら凄く怒られるし。何より明日カドちゃんにあのアニメの面白さを伝えないといけないから、もう帰るよ! また“アジト”に遊びに行くから! じゃあね!」  

                                        

 そう言って、カナメは恐ろしい速度で飛び立ち、すぐに体を発光させ転移して消え去った。


 「……色々大丈夫か? アイツ?」


 呆れ顔でリジェがガリアに問い掛ける。


 「いや、其れを言うならお前も相当だぞ? フフフ、ロティの奴もマールドムの連中の生活にハマっている様だ。だが、大丈夫だろう。リジェ、忘れたのか? あの時の事を」

 「そんなの、忘れる訳がねぇさ」


 「そうだ、あの時、愚かなマールドムのお蔭で、一万数千年ぶりに封印石から我ら“始まりの6人”が魂の解放を成した時、事を起こす為に破壊されたマールドムの器を再生し転生した。

 その際、同時に目覚めたアリエッタの調査で我らは各々にとって都合の良い最適な器を選んだ。そして我らは選んだ器をまともに使える様に自分なりに意志力で作り変えた」


 「ああ、だけどロティは違ったんだよな」


 ガリアとリジェは当時を思い出す様に語り合った。


 「その通りだ。我らの中でロティだけは違った。マールドムの赤子に転生し“雛”となった“彼”を導き支える為、自分もわざわざ破壊されたマールドムの赤子を選んで再生し転生した。記憶と能力は変わらないにしても、赤子の時は肉体の不自由さと脆弱さは免れない。

 しかも下等で下賤なマールドムに養って貰うなど、私からすれば耐え難い屈辱だ。しかし、ロティは皆が反対する中、何の躊躇も無く迷わずその道を選んだ。ただ“彼”の為に……そんな奴が道を外すとは思えん」


 「確かに、そりゃそうだな!」

 「……うむ。ロティこそ篤厚の騎士の鏡と言えよう」


 ガリアとリジェがロティについて話した後に黙っていたドルジが最後締め括った。


 「其れで卿等、今日の所はアガルティアに戻るのか?」


 ガリアがリジェとドルジに尋ねた。


 「……俺も今日はアガルティアには寄らぬ。梅松に参る」

 「は? なんじゃそら?」


 リジェが首を傾げてドルジに質問する。


 「……梅松とは、マールドムの連中が作った湯治場“梅松の湯”の事だ。今日の疲れを取るには丁度良い」

 「ドルジもマールドムの悪習慣に毒されつつ有るか……リジェは大丈夫だろうな?」

 「アタシはドルジみたいに、単純じゃねぇさ! まぁ“遊び”足りねェから茶店でスーパーメロンパフェでも自棄食いする! お前も付き合えよ!」

 「ハァ……お前達こそ、色々心配だぞ……」

 

 ガリアは本日二回目の盛大な溜息を付いて西側の都市部に有る“アジト”に戻ろうとしたが、結局リジェにスイーツ自棄食いに付き合わされ、しかも、奢らされたのだった。




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