111)ロティ

 漆黒の大剣にて、リジェの十字剣を受け止めているのはリジェ達と同じく漆黒の鎧を纏っている存在だ。顔は分らないが鎧は体に沿って成形されており、その身体つきから女性と思われる。纏う鎧はドルジの様な攻撃特化型では無くバランスの取れた形状であった。


 特徴的なのはその、大剣だ。リジェ達の物と同様に黒曜石状の材質で出来ているが、先ずその巨大さが異常だ。長さが柄を含め2mは超える。

 しかも刃の厚さや幅を考えると重量はドルジの斧同様数百キロ以上は有るだろうが、鎧の女性は重さなど感じていない様に片手で持っている。

 凡そ人が持つ事を考えていない巨大な大剣はその大きさだけでなく刃に幾つもの棘が突き出ており、そもそも恐竜か何かを殺す為の武器の様だ。



 対してドルジの凶悪な両腕の斧を受け止めたのも、身体つきから少年だろうか、小柄な男性の様だった。彼も皆と同じく漆黒の鎧を纏っていて顔は分らない。

 少年の鎧は全体的にバランスが取れている形状だが、彼もドルジ同様攻撃重視の形状だ。少年の場合は、両手両足が強化されている様であり、特に脚力重視の為か両足に棘とげしい外装が集中していた。


 鎧の少年がドルジの強力な両手の斧を受け止めた武具は、宙に浮かぶ黒く肉厚の厚い双頭刃の武器だった。

 形状は双頭槍の様に前後に刃が有るが、一般的な双頭槍と違うのは20cm程度と極端に短い事だ。

その短くて黒曜石状の双頭刃は百本近く有り、其れが彼の周りで浮いていた。

 明らかに投擲される事を目的とした形状の武器で刃先は鋭利な鋸状だった。その内20本程度でドルジの斧を止めている。


 現れた二人の顔面装甲はリジェ達と同じく揺らめく単眼の光が輝いていた。



 黒い大剣を持った女性騎士が顔の装甲を煙の様に消し去って素顔を現した。


 女性騎士は大御門総合病院で玲人達を見つめていたアーガルムの一人、黒い長髪の美しい女性であるガリアだった。そのガリアがリジェとドルジに声を低くして問い掛ける。


 「卿ら、一体どう言う心算か? 廃墟とはいえマールドムの街で力を使う等、言語道断。言い訳を聞こう」


 ガリアに問われたリジェとドルジは完全に気勢をそがれた為、各々の武器を消失させ顔の装甲を解いて素顔を現した。二人とも完全にバツが悪そうで落ち着かない態度だ。


 「「…………」」

 「黙っていては分らないな、リジェ、言い訳を聞こう」

 「……!? 何でアタシに聞く!?」


 沈黙する二人を前にガリアは迷わずリジェを問い詰めた。リジェは納得が出来ないと言った風で反発するが、ガリアは淡々と答えた。


 「一体何年の付き合いだと思ってる? どうせ“マールドムの相手なんて下らねェ”とかお前が言いだしてドルジを“遊び”と称して誘い、一緒になって大暴れしたんだろう? 私の言い分が違ってたら教えろ」

 「……スゲェ 良く分ってんな……」


 リジェの感嘆した声に、ガリアは長い溜息を付き呆れ気味に答えた。


 「ハァァ、お前は本気で再転生して、そのアホな魂を磨いてくる必要が有るな?……私が今此処で引導を渡して遣ろうか?」

 「お! アタシと“遊んで”くれんのか、ガリア!?」


 ガリアは皮肉を言った心算なのに逆にリジェを喜ばせてしまい額に手を当て困惑して呟いた。


 「こんなだから、お前には“こっち”しか出来んのだ……」

 


 「脳筋のリジェは横に一旦置いて、ガリア“此処”どうする? 流石に不自然だ」


 ドルジの斧を止めた鎧の少年がガリアに話し掛ける。


 「……うむ。確かに目立つか……」

 「別にそのままで良いんじゃね? マールドムの奴らは此処には来れないんだし」


 ガリアが少年の言葉に同意した所に、何も考えていないリジェが他人事の様に話す。


 「お前はアホか、さっきのお前らの“遊び”の所為で、流石に検知器等で奴らも気付くだろう。マールドム等恐れるに足りんが、我らの計画の障害になっては面倒だ。何より、またアルマに心配されるぞ……全く、後先考えて行動しろ」


 「はいよー」


 ガリアの小言に特に気にした風も無くリジェが応える様子を見た、ドルジが事も無げにガリアに言った。


 「……俺がやろう。俺ならばこの廃墟を一瞬の内に消滅して見せよう」

 「おー! 其れが良いぜ!! ドルジ、アタシも手伝ってやんぜ!」

 「……だから、問題解決になって無いだろう、其れは。ハァ……もういい、私がアリエッタに連絡してアガルティアの機能で不自然が無い様ある程度再生して貰う」


 溜息を付きながらガリアがそう呟くと、鎧の少年がガリアに提案する。


 「ガリア、其れには及ばない。アガルティアの機能なら確かに出来るけど、元々壊れていた都市を再生する等、そんな無駄な事に時間と労力を割く必要は無い……だから僕がやる」

 「一体どうするんだ、ロティ?」


 ガリアにロティと呼ばれた鎧の少年は穏やかにガリアに言う。


 「僕の“激震”でこの付近一帯だけに地震を起こす。そして粗方廃ビルを倒壊させ、痕跡を消す。地震が多いこの国なら、局所的に地震を起こしても不自然では無いだろう。

 後は適当にアリエッタに情報操作して貰い有耶無耶にすれば、マールドム達に取って致死量の汚染物質に溢れたこの爆心地にわざわざ調査に来ない筈だ」

 

 ロティと呼ばれた少年の提案を聞いたガリアは“ふむ”とその美しい顔で頷いて、ロティに応えた。


 「……現状ではその案が妥当だな……済まんがロティ、頼まれてくれないか」

 「うん、分ったよ」


 頼まれたロティは鎧姿のまま、ガリア達から少し距離を取り空中で両手の平を水平に広げた。そして軽く精神を集中する。


 すると、彼の横に浮かんでいた黒い刃先だけの双頭刃が、規則正しく動き彼の前に整列した。


 ロティは広げていた両手を胸の前に合わせて黒い双頭刃に軽く意識を送った。


 “キイイイイイィィン!!”


 次の瞬間、真黒い黒曜石状だった100本近い双頭刃は急激に真白く光出した。先程までの

リジェ達の“遊び”を振り返ると明らかに危険な状況だ。


 「……行け」


 ロティが小さく呟くと、全ての双頭刃は恐ろしいスピードで分散して飛び上がり、ロティを中心に放射状に矢の様に地上に飛んで行った。


 “ギュン!!”


 全ての双頭刃はロティを中心に半径数キロメートルの範囲で等間隔で地上に突き刺さった。


 “ドス!” “ドガ!” “ドン”


 双頭刃の刃には真白い光が残ったままだ。


 ロティは両手を胸の前に合わせたまま、全ての双頭刃に意志力を送り、呟いた。


 「……“激震”」


 すると、瞬間地上に突き刺さった全ての双頭刃の光が急激に増した。



 “ギキキイイイイイイィン!!”



 すると、全ての双頭刃を起点に恐るべき激震が発生した。全てを振動で破壊する圧倒的な破壊の力だ。


 “ドドドドドドドドドドオオォン!!”


 其れは双頭刃を中心に生じた破壊の衝撃波だった。その衝撃により半径数キロに渡り大地が破滅的な激を起こし、その範囲の廃ビルは全て倒壊した。


 “ガガァン!!” “ドゴオォン!!”


 倒壊により又も凄まじい土煙が生じ、立ち上がっていた豪炎は倒壊により火の手が弱まった。



 廃ビルが倒壊した事でリジェとドルジが“遊び”で残した未曽有の大破壊の痕跡は倒壊した建造物により分らなくなった。


 ……先ほどのリジェとドルジの“遊び”を上回る想像を絶する広範囲の破壊だった。


 そして最も恐ろしい事は、この半径数キロに渡る壊滅的な破壊自体がロティもリジェとドルジ同様、全く本気では無く片手間程度の事だった……


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