110)リジェとドルジ(遊び-3)
黒い凶悪な鎧姿のリジェは、その姿とは裏腹に陽気にドルジに声を掛ける。
「じゃー、またアタシからなー?」
まるでカード遊びをしているかの様な気軽さだ。
いや、実際彼らは遊んでいた。軽くキャッチボールをしている様な状態で全く本気では無かった。彼らにとっては何て事の無い遊びでも周囲の状況は、未曽有の大破壊だったが。
リジェの気の抜けた掛け声と共に、リジェは自身の右手に意識を集中した。するとリジェの十字剣は長さが2m位まで巨大化し、刃の形も分厚く鋸の歯のような、きざみ目の付いた凶悪な形になった。そして右腕の小手の部分が十字剣と溶け合って一体になり、右腕から恐ろしげな刃が生えている様な形状となった。
その姿になったリジェは腰を低くして……鎧によって強化された脚力で一瞬して飛び上がった。
“ドン!!”
瞬く間にドルジに肉薄したリジェは、強化された十字剣でドルジに切り掛かる。
“ガイン!!”
リジェのその恐ろしい一撃を何とか斧で受け止めたドルジだったが、その刃が真っ白に輝いた事に気付き、慌てて回避行動を取った。
“キイイイイイン!!”
リジェは強化された十字剣を横なぎに振り払った。
“ゴヒュン!!”
轟音と共に十字剣から巨大で眩い光の刃が放たれる。
……すると、リジェが見据えた正面側の廃ビル等の建造物群が、まるでハサミでちょん切られた様に全て同じ高さで切断され崩れ落ちた。
“ドガン!! ドガガン!! ドゴン!!”
リジェの正面に立ち並んでいた廃ビル群一面が全て同じ高さになってしまった。恐ろしい切断能力だった。そして切り取られ滑り落ちた廃ビル上層階部位の落下衝撃で濛々たる地煙が立ち上っていた……
大きく距離を取って回避行動を取ったドルジだったが何時の間にかリジェの姿が見えない。危険な雰囲気を察知して警戒するドルジだったが、突然眼前に転移して現れた真っ黒い鎧姿のリジェの斬撃を斧で受け止めるのがやっとであった。
“ガガギン!!”
鎧を纏っているリジェの膂力は凄まじく、ドルジは斬撃を受け止めたが力負けしそうだった。だからこそ、リジェの次の攻撃に対して対応が遅れた。
「さっきのお返しだ!」
そう叫んだリジェとドルジの真上に突如、切断された廃ビルの上層階が現れた。
リジェが切断した破片を転移させた物だ。質量1000tは有ろうかと思われる大質量兵器がドルジに迫る。
「ぬぅ!」
ドルジは斧に意識を送り瞬時に白く発光させた。そして頭上の廃ビルに斧による渾身の一撃を与え破壊する。
“バガガアアァン!!”
落下してきた廃ビルはバラバラに破壊されたが……
「漸く! 隙が出来たぜ!」
リジェはそう、嬉しそうに叫んだ。そして反応が遅れたドルジに、鎧で強化された渾身の斬撃を放った。
“ガギギン!!”
リジェの強力な斬撃は完全に不意打ちだった。ドルジは何とか斧で受けれたが、鎧により強化されたその一撃はドルジの膂力を持っても相殺できず、後方に吹っ飛ばされて背後の廃ビルに激突した。
“ゴゴゴン!!”
激突した衝撃で凄まじい轟音を立て、その衝撃により廃ビルが崩れていく。
空中に浮かぶリジェは右手と一体になった凶悪な十字剣に意識を軽く送る。すると十字剣は真白く光輝き、光の刃が長く成形された。
「此れが本命だぜ……味わいな!!」
そう叫んでリジェは突きの構えを取った。
今迄のリジェの攻撃は斬撃が多かったが、この突き技“穿光”は集めた断絶の力を貫通力に変えている。今は“遊び”なので無論全力ではないが、リジェには本気で放てばこの技で大地の地形すら変える自信が有った。
リジェは刹那に真白で巨大な光の刃“穿光”を付き放った。
“ボヒュン!!”
そんな風切り音と共に破滅の光が解き放たれた。リジェとドルジ達の“遊び”の中でも“穿光”は最大の攻撃だった。
破滅の光はドルジが居る廃ビル跡に迫り、そして光の軸線上の廃ビルを全て貫通した。
“ガガガガガガガガガガン!!!”
“穿光”の光が過ぎ去った後の廃ビルは、直径50m程の大穴が何処までも真っ直ぐに開いていた。地面対して水平に放った為、地面も円弧上に削れている。
リジェとしてはかなり加減していたが其れでも、この貫通孔は恐らく数キロに渡り続いているだろう。
この技を喰らったドルジは幾らアーガルムとて絶命していてもおかしく無い筈だった。
だが……
彼は“穿光”の直撃地点に佇んでいた。但し彼もリジェと同じく障壁を展開し黒曜石状の鋭角な甲虫の様な鎧を纏っていた。
しかし、彼の鎧はリジェの鎧とは明らかに形状が異なる。リジェのは鎧として防御力を強化する為に、均等な厚みで鎧は肉体を覆われていた。
だが、ドルジの纏う鎧は明らかに違う。
彼の鎧は、両手足、特に両腕に甲虫の外殻の様な棘とげしい鎧の外装が集中し、本来の鎧として守るべき胴体部の外装は薄く明らかに防御力は薄そうだ。
顔はリジェ同様に、顔の形に合わして形成され目に当たる部分が炎の様に絶えず形を変える真白い光の単眼紋様だった。
そして彼の両腕には、巨大な刃だけの斧が装備されていた。その斧の形状も一切の丸みは無く鋭角な攻撃的な形状をしていた。ドルジの攻撃一辺倒スタイルに合わせ、その鎧や武器は明らかに攻撃に特化された物だった。
近付くだけで気の小さな小動物などは即死しそうな凶悪過ぎる出で立ちだ。
「……“穿光”……加減してこの威力。恐るべき絶技よ……此れは俺の技も見せねばな……」
ドルジは実に満足そうに呟いて静かに宙に浮き上がった。その様子を見たリジェは黒い鎧姿のままドルジに不満を言う。
「今の“穿光”本気じゃ無いにしても、結構イケてた筈だけどなー 余裕で耐えてんじゃん」
「いや……危険と判断した為、纏わざるを得なかった。恐るべき技よ……」
「そ、そうか? ちっと照れるなー」
ドルジに“穿光”を褒められたリジェは鎧により表情は見えないが、照れてる様だ。ドルジはそんなリジェを見ながら言葉を繋げる。
「……まだ、付き合ってくれるのだろう?」
「オウよ! まだ“遊び”足りねーぜ!」
リジェの返答を受けた、ドルジは自身の両手の巨大な刃を各々軽く振り降ろした。
“ブオン!!”
軽く振り払っただけなのに、凶悪な刃から迸る衝撃波で眼下の廃ビルがドルジを中心にして左右にドミノの様に破壊され倒壊した。
“ドドドドドドドドオォン!!!”
異常な筈の光景をさも当たり前の様にドルジは何も感じていない。そしてリジェに向かって静かに言い放つ。
「……12騎士が一人、ドルジ、参る!」
「……同じく、お相手致す!」
ドルジの掛け声に、リジェも応えて叫ぶ。
漆黒の凶悪な鎧と武器を纏っているドルジとリジェの間に緊迫した空気が流れ、一瞬間を置いた二人だったが、同時に超高速で移動し、再度切り結ぼうと刃と斧を互いに振り降ろそうとした刹那――
“ガギン!!” “ギン!!”
ドルジとリジェの二人の前に、各々立ち塞がりその凶悪な刃と斧を武器で受け流す者達がまるで電光の様に現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます