109)リジェとドルジ(遊び-2)

 ドルジの斧による一撃でビルを突き破って地面に叩き付けられたリジェは、出来た地面のクレーターから飛び上がって空中に浮かび上がりドルジを正面に見据えた。



 「今度はこっちから行くぜー」


 そんな間延びした呑気な口調でリジェはドルジに話し掛け、左手を上げる。


 すると、リジェの背後に突然、夥しい数の十字剣が現れた。


 百本以上はざっとある。


 リジェが左手をさっと振り下ろすと、大量の十字剣が全方位より一斉にドルジに襲い掛かる。


 “ドヒュン!!”


ドルジは斧で襲い掛かる十字剣を叩き落とすが、全方位でしかも時間差で向かってくる刃に対処出来なくなり、遂に障壁を展開し全ての十字剣を防いだ。


 “ガガイン!!”


 阻まれた大量の十字剣は、刃先をドルジの方に向けたまま、障壁によって停止させられている。


 しかし、其れこそがリジェの狙いだった。ニヤリと笑ってリジェは叫ぶ。


 「貫け!!」


 すると、障壁の前に集まっていた全ての十字剣は突如真黒い刃を真白く輝かせ、眩い光線を放った。あの高層ビル群を軒並み切断した、刃の光だ。


 “キキキキイイイン!!”


 一斉に切断光線を放たれたドルジの障壁は徐々にひび割れが生じ、そして……


 “ドガガガアァン!!!”


 ドルジを中心に大爆発が生じた。全方位からの切断光線は互いに向き合って放たれた為反応して大爆発が起こったのだ。爆発の火球は数百mの直径になり、その爆発力の衝撃でビルが破壊された。まるで小さな核爆発の様だった。


 この時点でドルジはどう考えても即死の筈だが…… 爆発が収まり、立ち込めた煙が風に流れた其処には、ドルジが空中に浮かんでいた。但しローブは消し飛び、模様が描かれていた胸当てもバラバラになりドルジは上半身剥き出しの姿だった。



 その肉体は鍛え上げられ、見事な逆三角形を示していた。まさしく筋肉の鎧という言葉が彼には相応しい。だがその肉体には古い傷跡が沢山残されており、彼が生粋の戦士である事を示している。

 そして、今、彼の鋼の肉体にはリジェによって与えられた大きな傷が刻まれていた。


 肩から腹に至るまで非常に深い傷であり、心臓や肺に至る様な裂傷であった。そして少なくない血を噴き出している。


 明らかに致命傷だった。


 しかし彼は笑みを浮かべ朗らかにリジェに珍しく饒舌に語った。


 「見事……流石はリジェ……俺の肉体に傷を入れるとは……ククク、楽しくなって来たな」


 そう言って心底嬉しそうな顔をしたドルジはその肉体を一瞬白く輝かせて、その致命傷と思われた傷を瞬く間に完治させた。そして新たな傷痕をその体に刻んだ。



 「今度は、此方から参る……」

 「オウ、来いよ、ドルジ!」

 

 ドルジはリジェの誘いに満足そうな顔を浮かべ、先程と同じ様に己が肉体を輝かせ、一瞬で転移しリジェの眼前に現れた。刹那にあの絶望的な破壊力を持つ斧を振り降ろした。


 “ゴォウ!”


 しかしリジェはドルジの転移を読んでいた様で、斧の一撃を十字剣で逸らして避けた。するとドルジはまた、一瞬体を輝かし転移を重ねた。


 転移を一瞬で繰り返す事でリジェの前にはドルシが分身して攻撃している様に見える。


 多角的に、ほぼ同時に一撃必殺の斬撃を放ってくるドルジに、リジェは流石に余裕等なく、頭上に隙が生まれた。


 「……喰らうがいい」


 そう呟いたドルジはリジェの頭上に転移していた。振り上げている左腕には斧ではなく、眩しく白く輝く20㎝程度の光球が握られている。

 そしてリジェが頭上のドルジを迎い討とうとした刹那に、その輝く光球をリジェに向け音よりも早く放った。


 “キュン!!”


 放たれた超高速の光球をまともに受けたリジェは凄まじい速さで光球ごと落下し地上に激突した。


 “ガガガガアァン!!!”


 甲高い爆発音を上げ、地上にも数百m級の火球が形成され爆発の衝撃により地上の廃ビル群は軒並み倒壊した。


 リジェは爆発で生じた豪炎の中に居る筈だ。


 ドルジはこの時点で圧倒的有利な筈だが、全く油断せず次の一手の為、右腕を高く上げて、手の平を広げた。軽くドルジが意識を向けると、右手平の上に浮いた状態で、あの黒曜石状の斧が生み出された。


 しかし大きさがおかしい。その斧は大きさが10m位の巨大な斧だった。


 ドルジはその巨大な斧を、リジェに投付ける気だった。そして、ドルジが軽く意識を巨大な斧に傾けると、巨大斧はリジェの十字剣の様に白く輝きだした。


 “キイイイイィン!”


 その質量と込められたエネルギーでとんでもない破壊が生じる事は間違いない。ドルジは迷う事無く、白く発光する巨大な斧を思いっ切りリジェに放り投げた。


 “ゴヒュン!!”


 その投げられた速度は凄まじく、瞬く間に地上のリジェに接近する。投げられたこの斧により更なる大破壊が生じる事は間違いないと思われたが……



 “ギキン!!”



 今まさに破壊の大斧が燃え盛る炎の中に居るリジェに到達する所で、炎の中から真白い光の刃が飛び出して投げられた大斧の真っ二つに切断した。

 切断された衝撃で大斧は二つに分離し、各々があらぬ方向に飛んで行き地面に激突して大爆発を起こした。


 “ドドドガガアァン!!!”


 リジェの居る地点から大きく離れた地表で分離した大斧による大爆発が生じ、2か所で巨大な火球が形成され、爆発の衝撃波で光球の爆発により生じた豪炎は吹き飛ばされ搔き消えた。



 豪炎があった所に障壁を展開した黒い何かが居る。その黒い者はドルジに軽やかに話す。


 「……いくらアタシでも、男のお前に素っ裸晒す訳にいかねーから、思わず“着ちまった”……勘弁しろよな?」

 「……ああ、構わない」

 「しかし、流石だな、12騎士長張ってるだけ有って、やっぱ強えわ」

 「……そなたも12騎士長が一人であろう?」

 「そういや、そうだったなー、ははは」


 リジェとドルジは本当に何でも無い様に楽しげに世間話をしているが、周囲の状況はそうではない。リジェが切り飛ばしたドルジの大斧が落下した所は、真っ赤な豪炎が立ち上がっており、リジェが立っている所も巨大なクレーターが出来ている。


 周囲の廃ビル群も放射状に倒れ、核攻撃を受けた様になっている。



 そして異様なのは、リジェの姿だ。全身真黒い黒曜石状の鎧を纏っている。鋭角な形状の其れは先程までリジェが着ていた紋様が入った胸当てとはまるで違う。


 尖った甲虫の様な形状の鎧はリジェの女性らしい体に沿ってラインを描いて成形されている。更に特徴的なのはその顔面の装甲だ。


 顔の形状はリジェの美しい顔の形に合わして形成されていたが顔面の目に当たる部位には目が無く、代わりに真白く光る目の様な光の紋様が輝やいており、其れは巨大な単眼に三又の光が現れていた。


 その単眼の光は形状を一定化せず、まるで炎の様に絶えず形を変えていた。



 この甲虫の様な鎧は、リジェやドルジの武器と同じで彼らアーガルムが自らの意志で生み出して装着していた。従って、自在に形を変える事が出き、鎧を纏う事で自身の防御力や身体機能の大幅な向上が図れた。何より鎧は意志顕現力の向上が図れる為、攻撃力も劇的に上がるのだ。



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