108)リジェとドルジ(遊び-1)

 新見と李が繁華街にある高級クラブで密談を交わしていた頃、山猫と呼ばれたキツイ目の美女とドルジは首都近郊の爆心地付近に居た。爆心地は高濃度の放射能により生物が生きれる環境では無い筈だが、何故か二人は防護マスクも無しに平然と過ごしている。


 彼女らは、核兵器の破壊力で倒壊し崩れて斜めになった高層ビルの頂上部に座っていた。普通の人間なら一瞬たりとも生きる事も出来ない筈の環境に、山猫は鼻歌を歌いながら足をプラプラして飛び出した鉄骨に座っている。


 横に居るドルジは何も考えていないのか、全くの無人で漆黒の中、三日月を見ていた。



 そんな中、突然光が生じ2人の前に“透明な少女”アリエッタが現われた。



 「御苦労様です、リジェ卿 ドルジ卿」


 アリエッタは二人に声を掛け、恭しく頭を下げる。リジェと呼ばれたキツイ目の美女は、笑顔でアリエッタに返答する。


 「よっ! アリエッタ! キツネ野郎と李はどうだった? 大方アタイらの予想通りだろ?」

 「はい、見事な程に寸分の狂いなく我々の思惑通りに動いています。彼らは結託して、リジェ卿、ドルジ卿のお命を狙うものかと……全く持って無意味な事ですが」


 アリエッタにその様に言われた山猫、もといリジェは高笑いしてアリエッタに答えた。

 

 「アハハハッ 奴らには夢見させてやんな。奴らはアタシらアーガルムがどんな存在か全部忘れちまってんだからな。

 適当に遊んで、最後に絶望させてやる。所で、どーせ“雛”に対しても奴ら、約束なんざ守る気ねーんだろ?」


 判り切っている、といった表情でリジェはアリエッタに問い掛ける。


 「はい、リジェ卿。嘆かわしい事に彼らはリジェ卿が煽られた通り、“雛”の独占を目論んでいます。殆ど笑い話ですがリジェ卿、ドルジ卿を亡き者にして、我々が“設定”したスポンサーとの契約を反故にする算段です。

 いずれにしても、彼らは我々の計画通りに“雛”だけを注視し行動するでしょう。そして今は両組織とも結託していますが、最終的には互いに潰し合うと考えられます」


 無表情で有りながら口調に嘲りが出るアリエッタにリジェは苦笑して応える。


 「……千年経っても、一万年経ってもマールドムのアホどものやる事は変わらんな……マジでつまんねーわ、此処の“現場”は」

 「……同意する」


 やっと一言喋ったドルジを見たアリエッタは可笑しくて微笑みながら二人に言った。


 「御二方、私は大変、申し訳有りませんが“雛”と“器”の御傍で控えさせて頂きます」


 アリエッタはそう言いながら悪戯っぽく笑った。言われたリジェは恨み言を返す。


 「ちくしょう、“そっち”は和やかで良いよな! “こっち”と変わってくれよ!」

 「其れはウォルス卿の采配です。私にはどうにも出来ませんので。其れではリジェ卿、ドルジ卿、良い夜を」


 ニコニコしながらアリエッタは二人に言い残して消えて行った。

 


 「あー、憂鬱だな……また、マールドムのアホどもの腹芸に付き合わんといかんのか。思わず皆殺しにしたくなるぜ……」

 「……同意する」

 「じゃ! 殺っちまうか!? アタシが李の所、全員ぶっ殺してやるから、ドルジ、キツネの所、全員頼むわ!」

 「……同意……したいが、“雛”の糧に奴らは必要……」

 「……だよなー。なぁ……奴ら、狩れねぇなら、ちょっと“遊ぼう”か!?」

 「……! 同意する!」



 そう言って喜喜とした表情を浮かべた二人は、突然、飛び上がって互いに距離を大きくとる。



 そして二人は、お互いに其々別な高層ビルの崩れた頂上部に降り立った。互いの距離は300mは離れているだろうか。


 二人は満面の笑みで見合ったまま、互いの武器を出現させる。リジェの武器は真国同盟のアジトでテーブルを切断した十字剣だ。ドルジの獲物は巨大な鎚の様な斧だ。二人の武器は黒曜石状の材質で出来ている。


 実は彼らの武器は何処かより呼び出しているのでは無く、自らの意志力で“生み出して”いた。従って状況によっては形状が変わったり複数生み出す事も可能だった。



 十字剣を持ったリジェが笑顔でドルジに叫ぶ。


 「此処ならよ!! 元々ぶっ壊れてるし、誰もいねぇから、多少更地にしても構わねぇよな!!」

 「……うむ!」

 「じゃ、いくぜー!!」


 実に楽しそうにそう叫んだリジェは手にした十字剣を構える。リジェが十字剣に意志を込めた瞬間、真っ黒だったその剣は白く輝き光を放っている。


 “キイイイン!!”


 「あらよーっと」


 気の抜けた掛け声と共に、リジェは白く輝いたその剣を振り下ろす。


 すると――


 剣より、巨大な真白い光の刃が超高速で放たれた。


 “バヒュン!!”


 大きさは数十m有るだろうか、放たれた光の刃は刹那に瞬時にドルジが居る廃ビルに到達し、そして……


 “ドドドドドン!!!”


 ドルジの居た廃ビルを袈裟切りに切断し、後方のビル群を軒並み切断し、ビル群は轟音を上げながら倒壊していく。切断されたビル群の切断面は非常に美しく磨かれた様だった。


 辺りは倒壊するビル群により濛々と地煙が舞っている。


 普通の人間ならビル群の倒壊で圧死している状況であるが、ドルジは全く平気そうに浮かんでいる。


 そして彼の左右には、リジェが切断したビルの上層階部分が浮かんでいる。ボロボロに崩壊した其れは、各々が数千トンは有りそうな巨大さだ。



 ドルジは自ら浮かべた、その巨大質量兵器をリジェに対して順に投付けた。


 “ゴオウ!!”


 そんな風圧と共にビルの上層階部分がリジェに迫る。しかしリジェはそんな絶望的な状況の中で笑いながら叫んだ。


 「こんな、ベタな攻撃、効くかっつうの!」


 そう言い放って、十字剣を白く光らせて投付けられたビルの上層階部分を細切れに切断していく。切断された上層階部分は綺麗な切断面を見せながら、地上に落下していく。


 “ドドン!! ドドン!! ドン!!!”


 細切れにされた破片群は個々の重量が数百トン程の質量が有り、盛大に大音響を立てながら土煙を上げる。リジェは投付けられたビル群の切断が今、まさに終わらんとした時に叫んだ。


 「はいよ! 此れで終わり……」


 そう言って最後のビル群を切断しようとした時、投付けられたビルの中から予め潜んでいたドルジが突如飛び出し、あの巨大な斧でリジェに切り掛かった。


 「……!!」


 “ギイイン!!”


 リジェは咄嗟に十字剣で受けたが、巨体のドルジが振り回す斧だ。リジェの体ごと、思いっ切り吹き飛ばされて、背後の廃墟ビルに激突した。


 “ドゴオオォ!!”


 そんな轟音と共にビルに激突したリジェは勢いが止まらず、激突したビルを貫通してそのまま地面に激突した。この時点で普通の人間なら“染み”になっているだろう。



 ……しかし


 

 「あー、不意打ちで良いの食らっちまったわー あははは」


 楽しくて仕方ないと言った風でリジェは笑いながらドルジに返答する。リジェがビルを貫通し地面に落下した衝撃で5m程のクレーターが地面に生じている。


 凄まじい衝撃だった筈だがリジェは平気そうだ。


 リジェのローブはボロボロになっているが、体には全くダメージが無い様だった……

 


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