106)動き出す者達
小春と玲人が居る大御門総合病院から、遠く離れた関東地方の元首都外辺部の廃ビルに集まる者達が居た。
彼らは真国同盟の主要メンバーで、今は彼らの拠点に大切な上客が来ている為、その応対をしている所だった。真国同盟が拠点としている場所は、第三次大戦に使用された核兵器により放棄された元首都外辺部の都市部だった。
その中で、彼らが拠点とする廃棄された高層ビルの地下室が今日の会場だ。
会場と言っても何もない、風化されボロボロとなった地下ショッピングモールの広いフロワだ。ただ、異常な雰囲気を醸し出しているのはその地下室に集まる兵士達の眼光の鋭さだ。鍛えられた屈強な身体つきをしており、皆自動小銃を装備している。
兵士達は十字の赤い極光を模した真国同盟のシンボルマークが描かれたマスクを装着していた。
そんな兵士達が集うフロアの奥に武骨に置かれたテーブルセットに座っているのが真国同盟の首魁である新見元大佐だ。薄い顎ヒゲを生やしており、その目は鋭い眼光を放っていて、強い存在感を放っている。右腕は玲人の能力により失われた筈だったが、代わりに武骨な機械の義手が装着されている。
新見の横には、かつて新見を脱獄させた藤堂元大尉が控えている。
新見達の前に座っているのが、大陸系の軍事組織である統一人民師団の仲介役を務める男で、李と呼ばれているが、恐らく偽名と考えられる。李は細いが薄い眼差しをした黒スーツの中年男性だ。
統一人民師団は第三次大戦時に大陸の共和国が分裂した際に生じた軍事組織で、大陸系の分裂した軍事組織の中では最大の戦力を有している。
大戦が始まってから、この国は幾度となく侵略行為を受けているが、その多くは統一人民師団からの軍事行動だった。そして統一人民師団はマルヒト、マルフタによる殲滅作戦で一度も本土侵略を成功出来なかった。
逆に言えば統一人民師団としてはマルヒト、マルフタの戦力を手中に入れさえすれば、この国の侵攻作戦は容易になると考えていた。
其処で統一人民師団は李を通じて真国同盟に接触し、自衛軍のマルヒト、マルフタを自衛軍から強奪させる心算だった。もっとも彼らは真国同盟の首魁である新見こそが殲滅作戦を指揮した訳だが、李は知ってか知らずか、その件は触れもしない。
仲介役の李の後ろには統一人民師団の護衛が二人が立っている。そして李の左右に男女が座っている。
女の方は20代前半位だろうか、黒髪のかき上げられたミディアムヘアを持った、目つきはきついが小顔で目鼻立ちも整った大変美しい女だった。頭は出しているがローブを着込んでいる。
男の方は大御門総合病院で玲人達を空中から見ていたドルジと呼ばれた男だった。彼もまた、全身ローブ姿だった。広めのソファーとはいえ巨漢のドルジが座ると他の二人は窮屈そうに見えた。
仲介役の李の方から新見に切り出す。
「先ずは此れを。当面の支援金です」
そう言って、李は護衛の男から渡されたキャッシュケースを新見に渡す。新見は渡されたキャッシュケースを藤堂に確認させながら笑顔で答えた。
「李先生、いつもご支援有難うございます。所で先生、横の御二人は?」
「ああ、同志新見。彼らはスポンサーからの派遣でね。この国の殲滅兵器であるマルヒト、マルフタ強奪における共闘を指示されている。我々もそのスポンサーから以前より少なくない支援を頂いていて、そのご意向には逆らえん。
其処であなた方は彼らと協力し合って強奪作戦に望んで貰いたい。そして強奪したマルヒト、マルフタは彼らに引き渡して頂きたい」
李は殆ど表情を変えず、新見に答えた。新見は困り顔で答えた。
「先生、この国の事は我々に任して頂きたいのです……勿論、お約束の通りあなた方を苦しめた殲滅兵器のマルヒト、マルフタは、必ずお渡しさせて頂きますが、戦力は特に不足しておらず、共闘頂く必要は有りませんが」
「其れは拙いよ、同志新見。君らが今まで手にしていた支援金や兵装類はスポンサーから廻されていてね。何せ我々も祖国の問題で手が一杯だ。
そんな時に我々もスポンサーからの支援を頂き随分助けられている。そんな訳で……断れる訳が無いだろう?」
李は細い目を一層細くして、新見に圧力を掛ける。しかし対する新見は変わらず笑顔で李に応対する。ただその態度は嘘くさく軽薄な態度だ。
「分っていますとも! 李先生。頂いている支援の件も忘れた事等有りません。必ずやマルヒト、マルフタをお渡しさせて頂きます。
ですが……御客の御二人に血生臭い戦闘行為に参加して頂くなど……男性の方はともかく、此方のお美しい御嬢さんでは野太い兵士と一緒ではご負担も大きいかと。ですので我々の方で快適な環境を用意しますので、其方にゆっくりとお待ち頂ければ……」
「…………」
スラスラと言葉を並べる新見だったが、要は“外野はすっこんでろ”と遠まわしで言っていた。“御嬢さん”と言われたキツイ目つきのローブの女は黙って聞いていたが、徐に立ち上り右手を挙げた。
全く見えなかったがキツイ目つきの女の右手には黒曜石の様な材質の不思議な形をした刃が突然現れて握られていた。
その刃は長い黒曜石を割って刃にした様な形状をしており刃の短い十字状の刃だった。女は突如現れたその刃を刹那に軽く振り上げた――
“シュン!!”
全ては一瞬の事だった。
“ゴトン!!”
そんな音と共に、ソファーセットのテーブルが、まるで初めからそんな形状だったかの様に、綺麗に切断され、倒れた。いや、テーブルだけでは無い、鉄筋コンクリートの床も女が振るった剣筋に沿ってぱっくりと切断されていた。
切断面は非常に美しく、光沢さえ見られていた。女が刹那に手にした真黒い刃は新見の首筋に当てられている。
「野郎っ!!」
「てっめぇ! 唯で済むと思うな!」
新見の状態を見て、激高した周りの真国同盟の兵士達は自動小銃を構えて女の前に詰め寄ろうとした。
しかし、李の横に座っていたドルジが、ゆらりと立ち上がり、頭に血が上った兵士達の前に立った。そして、右手を振り上げるとドルジの右手には女と同じ様に、いつの間にか武器が握られていた。
まるで、魔法か手品の様だ。
手にした武器は、真黒い黒曜石の塊のような武骨な巨大な斧の様な武器だ。斧なのか岩の塊か判断に悩む形状をしているが、塊の外辺部には割れた黒曜石が示す様な鋭い刃面が見られた。異様なのは其の巨大さだ。直径1m位ある円状の刃が付いた平たい塊に同じ材質の野太い柄が有る。
材質が金属なのか岩石なのか分らないが、体積から判断して数百キロは有るだろう。ドルジはその塊をプラスティックのバットの様に軽々と片手で持っている。
ドルジは“生み出した”その斧? を軽く振り下ろす。
“ヴォン!!”
そんな風切り音と共に大きな風圧により、ドルジの前に居た数人の兵士が体勢を崩し、座り込んだ。その様子をつまらなそうに見たドルジは静かに呟く。
「……やるのか? 俺は構わんぞ……」
そう言って巨大な斧を片手で振り回し地面に軽く突き刺す。
“ゴゴゴン!!”
その衝撃でビルが揺れ、立っていた真国同盟の兵士達や統一人民師団の護衛達は足元をすくわれ、よろめいて座り込んだり、膝を付いたりした。天井からはパラパラと破片が落ちて照明も一瞬明滅した。
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