104)本日はお日柄もよく
小春の現状を説明する為、大御門総合病院の大会議室に小春の母、恵理子が招かれていた。祖母の絹江は腰が痛い為、この様な場は辛いとの事で陽菜と一緒に留守番していた。
相対するのは、弘樹と、薫子、そして玲人と小春だった。
小春の現状説明は、医者でもある薫子が小春の状況をフェイクも交えて其れなりに説明した。安中大佐からの強い要望もあり、事実を説明する訳にいかないという事と、玲人からの提案もあり、ある出来事をでっち上げて小春の現状説明を作り上げた。
「……という訳で、ここに居る大御門玲人の姉、仁那が昨日他界しましたが、仁那はこの玲人と同じく不思議な能力を持っていまして、そして、その、信じられないのですが、生前……特に懇意にして頂いた小春ちゃんにその、憑依と言いますか、精神のみが同居している次第です。また、此れも不可思議なんですけど仁那ちゃんと一緒に死んだ仁那ちゃんのお母さんである早苗も、一緒に小春ちゃんの中に居るみたいなんです。こんな事科学的に私達も上手く説明出来ないのですが、どうも間違い無いみたいで……」
薫子の嘘くさい神妙な態度を見ながら、目を白黒させている小春の母、恵理子は遠慮気味に弘樹に聞いてみる。
「あの……大御門さん、薫子先生は……本気で、今の話を言われているのですか?」
問われた弘樹も神妙そうな顔で答える。
「……ええ、姪の仁那がずっと具合が悪く病院から出られない状況でして……玲人と仲良くして貰ってる小春さんが、生前の仁那とも仲良くなりまして……そんな中で仁那が昨日亡くなりまして、その際に小春ちゃんの所に行ってしまったものかと……母親である早苗と一緒に」
「…………ええと……玲人君、その、皆さん……私をからかう為に、あはは、冗談言ってるんでしょう?」
薫子と弘樹が神妙そうな顔で説明する内容は、普通では受け入れがたい事であり、恵理子は苦笑しながら玲人に助けを求める。
「……小春のお母さん……信じがたいだろうが小春の中に、俺の姉、仁那と俺の母、早苗の意識が“住んでいる”事は事実です」
玲人は、嘘を付く事が出来ない性格なので事実だけを述べた。玲人が今回の恵理子の説明で、拘ったのは仁那が“死んだ事にする”という一点だ。
そうする事で、仁那を狙っていた者達は矛先を玲人一人に向けるだろうという目論見だった。だから、玲人は仁那は死んだ、と明言して欲しいと頼んだのだ。実質仁那の不完全な肉体は小春に吸収され、無くなっていたのは事実な為、玲人の提案は間違いでは無かった。自衛軍の安中も小春への負担軽減の為、玲人の提案を推奨し、この設定は採用された。
恵理子は玲人からも梯子を外され、最後は娘の小春に助けを求める。
「小春……皆さんが言っている話ってどうなの?」
小春は母の問い掛けに内心、申し訳ないと思いながら、設定話を進めていく。
「えっと……ママ、信じられ無いだろうけど本当の事なの。わたしの中に、玲人君のお姉さんの仁那とそのお母さんの早苗さんが居るのは……」
そう言って小春は母の恵理子の顔をじっと見る。恵理子は小春の顔を見て溜息を付いて一言、言った。
「……小春が本当だって言うんなら本当なのでしょうね。その……小春の中に居る人達に私は会えるのかしら?」
「うん、今、替わるね……」
そう言って小春は目を瞑り、まずは仁那と替わった。
「……初めまして、かな。小春のお母さん、私は仁那。玲人のお姉ちゃんです。小春に助けて貰って、小春の中に私のお母さんと一緒に住んでる。私はずっと小春のお家で皆で暮らせる事、夢見てた……此れから、どうか宜しくね」
「……本当に、本当に小春じゃない?」
躊躇い気味に話す小春? の様子に恵理子は目を丸くする。恵理子に挨拶した仁那は次に自分の母親である早苗に替わった。
「どうも初めまして、私は八角早苗。此処に居る仁那ちゃんと玲君の母親です。そして、極めて不本意な事ですけど其処に突っ立てる弘樹兄様と薫子姉様の妹でもあります。とても複雑な事情が有って小春ちゃんの中で仁那ちゃんと一緒に生涯住む事になるけど、何卒宜しくお願いします。
あと、全ての責任は大御門家に有るので其処に居る弘樹兄様と薫子姉様に遠慮なく頼って下さい。もしその対応に不満が有る様でしたら小春ちゃん通じて言ってくれれば私が責任を持って改善させます。
それと私自身は家事全般は一応出来ますので私が小春ちゃんの体使ってる時はその辺、どうか遠慮なさらず任して下さい」
早苗は梨沙の時と打って変って、丁寧な言葉使いで、恵理子に応対した。長らくお世話になるだろう石川家に対する早苗也の誠意だった。そうして早苗は小春と、また替わったのだった。
「……信じられない、話だけど……一目で分った……さっきの人達は小春じゃ、無かったわ……多重人格の人、みたいだけど……同じ様な、事……なのかしら……」
恵理子は信じがたい状況に絶句していたが姿形は同じでも、先程現れた仁那や早苗が小春とは別人である事は、母親の直感で理解出来た。
他人の言葉より、自分で見た事実の方が受け止られ易かった様だった。恵理子の様子を見た弘樹は、此れからの事を説明する。
「この様な事になり、ご心配でしょうが小春君の為に大御門家として全力で支援させて頂きます。今回の件は、先程妹の早苗が言った通り小春君に非は全く無く、当家の問題です。
小春君には寧ろ妹の早苗と姪の仁那を保護して頂いているお立場です。従いまして大御門家としてはその、お詫びとして、小春君の生涯に渡る保障をさせて頂きます。其れ以外に以下の支援をさせて頂く所存です」
弘樹は小春の母、恵理子に大御門家として具体的な補償内容を説明した。
其れは、以下の様な内容であった。
一つは小春が存命する限り、石川家に生活の保障をする事と、医者であり、カウンセラーである薫子が石川家の隣に居を構え、小春の状態と石川家の健康状態の確認をする事。
今後石川家が医療機関に掛かった場合全額負担する事。
小春と、陽菜の成人するまでの学費を大御門家が全額負担する事。
また、玲人が小春の護衛兼世話係として小春に尽くし、石川家の隣に居を構える事を説明した。
そして弘樹が一番大事な事を恵理子達に話した。
「……以上の様な事を簡単では御座いますが、小春君の生涯に渡り対応させて頂く所存です。無論、この様な単純な事でなく、必要に応じ都度、対応させて頂きますので遠慮なく指示為さって下さい。此れは大御門当主、大御門弘樹として明確にお約束させて頂き、後日公的な書類として提出いたします。
そして……此れが最も大事な事なのですが
本人達の強い希望を受け、大御門玲人と小春君の婚約を考えております。玲人の気持ちは固く、そして肝心の小春君自身の気持ちも強いと聞いています。素晴らしいご縁と考えておりますので、何卒ご検討下さい。先ずは小春君本人の気持ちをご確認頂き、前向きにご検討頂くよう、平にお願い申し上げます」
「…………」
明瞭にとんでもない事を語る弘樹に、恵理子は言葉を失った。
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