10章 動き出す者達
102)次の日
大御門病院に入院している小春は薫子によって検査を受けていた。検査の目的は仁那と融合した事で、小春の体に異常が無いか調べる為だった。
結果は肉体的には全く問題が無く、寧ろ以前より健康になった様だと、薫子は小春に告げた。
そんな小春の横には、常に玲人が付き添っており、小晴としては寝巻の様な入院着の姿を、玲人に余り見られたくない、という想いが有ったが基本朴念仁の玲人は何も感じていない様で、小春としては其れも複雑な気分だった。
全ての検査を終えた時は昼過ぎで、遅めの昼食を小春と玲人は一緒に食べていた。
ちなみに、今小春の体を使っているのは、小春本人だった。
その日の朝まで小春の体を仁那が使っていて、朝の内に仁那は漸く修一(玲人が体を修一に替わった)に出会う事が出来た。
初めて出会った二人は感激の涙を互いに流し、手を取り合って暫く一緒に過ごしていたが、小春の体を検査する時間となり、薫子が仁那に検査の内容を説明した。初めは興味深く聞いていた仁那だったが、検査で痛い事(血液検査等で)をすると分った瞬間、修一に別れを告げて小春に体を譲った。
いきなり体に戻された小春は、目の前に居た玲人の体に修一が現れている事に恐縮(義父に当たる事より)し、シドロモドロで修一に挨拶した。
小春の慌て振りに修一は苦笑し、薫子と小春に挨拶して玲人に替わったのであった。なお、早苗は“今日の夜、忙しいから”とか言ってシェアハウスでゴロゴロしていた。
そんな訳で検査を終えた小春と玲人が病院の個室で食事をしていると、薫子が病室に入って来た。
「仲が良くて微笑ましいわね、お二人さん」
そんな事を言いながら二人に笑い掛ける。
「べべ別に、仲が良いとか、その、普通です……」
「まぁ、仲が良い方だとは思う、婚約したしな」
「……!!」
薫子のからかいに、小春は動揺して返したが、玲人は何時もの調子で、事実だけをオブラートに包まず率直に言い放つ。その玲人の言葉に横に居る小春は真っ赤になって固まった。
固まる小春を余所に玲人が薫子に問い掛けた。
「薫子さん、小春は退院して良いのか? 小春の母さんも心配しているだろうし」
「丁度、その事を相談しようと思っていたのよ、玲君。昨日の話で、まず小春ちゃんのお母さん達にある程度の事情を説明する事になったでしょう? 此れについては今日、小春ちゃんのお母さんが来られた時に先ず私と弘樹兄様が説明しようと考えているの。
小春ちゃんの退院はその後の方が良いかなと思って。それに……」
此処まで薫子は話して小春をチラリと見遣る。
「?」
見られた小春は意味が分らなくて、玲人に答えを求める。玲人は小春に代わり薫子に尋ねる。
「薫子さん、何か拙い点でも?」
問われた薫子は苦笑して二人に答える。
「やっぱり分って無かったか。小春ちゃんの瞳の色よ! 金色になっててカラコンしている様に見えるの。その恰好では学校には行けないわ」
「……あー」
「別にいいんじゃないのか?」
今更ながらに、小春は呻き玲人はそもそも問題していない。
「ダメよ! 一応私は此れでも教師なのよ。瞳の色が急に変わったら化粧している事になっちゃうわ。私は良くても生活指導の先生がね……彼は裏工作でも靡きそうにないし」
薫子は“困ったわ”と言う感じで首を傾げる。玲人は“散々裏で色々やっていた癖に今更……”と薫子に皮肉を言っている。
そんな二人を笑って見ていた小春だが、薫子に話し掛ける。
「大丈夫です、薫子先生! コレ、見て下さい!」
小春は、自身の瞳を指差す。黄金色となった美しい瞳だ。
「……綺麗な金色ね。困った事に……」
「先生、見てて下さい」
薫子が困り顔でため息を付いたが、小春は自信満々で答える。やがて瞳の色が変わりだし、小春の瞳は仁那と同化する前の黒い瞳に戻った。
「瞳の色が、変わったわ……」
薫子は小春の瞳の色が変化した事に驚いている。小春は薫子に次いで聞いてみた。
「先生、此れで問題ありませんか?」
「ええ、小春ちゃん。問題ないわ……だけど、どうしてそんな事が出来るのかしら?」
「えーと、良く分らないけど、思った事は大体出来ると言うか、何て言うか……目の色を変えたい! って思ったら出来ました」
「……凄いわね……其れもアーガルムの力って事なのかしら? でも此れで学校の方は大丈夫ね。うん? どうしたの玲君?」
薫子は小春の瞳が戻った事に安堵したが、横に居た玲人が思案している顔だった為気になって声を掛けた。
「いや……そう言えば仁那の体は小春に同化したって事だったが……小春、君は仁那が生み出していた“目”を作れるか?」
玲人に言われた小春はちょっと考えて答えた。
「うーん、多分出来るよ。わたしは仁那と同じ存在になったから、仁那が出来た事はわたしも出来るし。一度やってみようか?」
「ああ、お願いする」
玲人に頼まれた小春は、両手を前に出し精神を集中する。すると小春の手の平に光が集まり、形を作っていく。やがて光が収まると小春の手の平には、あの“目”が生まれていた。
「凄いな……俺には此れは出来ない。小春はこの“目”と感覚が共有出来るのか?」
「えっと、ちょっと待って……今、やってみる……うん! この“目”と感覚が繋げれるよ!」
「そうか……それじゃ、此れは出来るか?」
そう言って玲人はデスクスタンドを指差して話を続ける。昨日玲人が壊して新しく入れ替えた物だった。
「このライトの電力を増幅させれるか? 以前の仁那は出来ていた」
玲人は何か、確信が有るみたいで小春に増幅能力を確認させてみた。
「ちょっと待ってね、仁那の記憶を読み取ってみるよ……これ、もの凄く危ない能力だね……気を付けながら、やってみる」
そう言って小春は目の前のデスクスタンドのLEDライトに精神を集中させる。
すると……
LEDライトの光は明るさが急に増したが、それ以上は何も起こらなかった。
「あれ? 仁那の時と違って何か全然“増えない”なー?」
小春は不思議そうに呟く、小春は仁那の力を受け継いでいる筈なので、仁那が出来ていた事は小春も出来る筈だったが、仁那が持っていた破滅的なエネルギー増幅能力“狂騰”は著しく劣化していた。
その様子を見た、玲人は一人呟く。
「やはりか……」
「どういう事なの、玲君?」
今までのやり取りを見ていた薫子が意味が分らない様子で聞いてきた。
「恐らくだが、薫子さん……仁那の能力は一部の能力が凄く弱くなっている。逆に仁那しか使えなかった筈の能力が俺にも使える様になった」
玲人の回答に、薫子は顔を上げて暫く考えていたが、徐に小春に聞いてみた。
「……小春ちゃん、仁那ちゃんや早苗は元気よね? 小春ちゃんと一緒に為ってから、その二人の健康面と言うか、意識面で問題は無いかしら?」
薫子の問いに、小春は深い深い溜息を付きながら答えた。
「はぁぁ、先生……二人がどうか何て、先生が一番知ってるんじゃ無いですか? 早苗さんは制御不能に無双するし、仁那は子供に戻っちゃって食べ捲るし……元気さで言えば太鼓判ですが、意識面ではあの二人は超危険人物です」
小春の“心底疲れています”という困り顔を見て薫子は苦笑しながら玲人に答える。
「私は、3人が元気なら能力なんて無くても良いと思うわ。玲君もそうでしょう?」
薫子のもっともな意見に玲人も納得する。
「確かにそうだ。小春達が元気なら其れが一番だ」
そう言いながら、玲人は頭の中で別な事を考えていた。
(そうだ、此れで良い。小春達にあのエネルギー増幅能力は無い方が良い。アレの所為で小春達は狙われ続ける。狙われる標的は、俺一人で良い)
玲人が考えている姿を、小春はジト目で見つめる。その様子に気付いた玲人が小春に問い掛ける。
「どうした、小春?」
「……仁那達と一緒に為ったお蔭で、大体玲人君が考えてる事が“伝わる”様になったよ。
今、こう考えてたでしょ。“標的は俺一人で良い”って……今のわたしなら分るんだから変な事考えたらダメよ!」
玲人は小春の言葉に正直驚いた。玲人の考えていた事が伝わったからだ。この能力はアーガルムが基本的に持っている“心通”能力で、相手の考えている事や感情などが、言葉などを発せずとも伝え合う能力だ。
ちなみに相手が“心通”を強力な意志顕現力を持って拒絶すれば、伝え合う事は困難だった。
「薫子さん、前言撤回だ。小春は別に強力な能力を身に着けた様だ。小春の前ではもう、悪巧み出来ないぞ」
「あら、怖いわね。でも私はもう、悪い事する必要無いから関係無いわよ? 玲君が気を付けるべきじゃ無いかなー?」
薫子は冗談ぽく玲人に返して、その言い方が小春は面白くて声を上げて笑った。
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