100)見つめる者達

 玲人が自身の心の世界から戻ってくると、個室内の簡易ベットで寝ていた事を思い出した。玲人は体を起こし、寝ている仁那(体は小春)の様子を見る。


 静かに、そして幸せそうに寝ているその姿を見て玲人は心底安堵した。


 (本当に……小春には頭が上がらないな。小春が仁那を助けてくれなければ、母さんも、きっとそのまま仁那と同じく崩壊していただろう。

 もっとも母さんの状態は魂の存在だからこの世には留まれない、って事が正しいかも知れないが。とにかく、明日からは小春達の傍に居て彼女らを守る事が大事だな)


 

 玲人はそんな事を考えながら、ベッドに備え付けられている時計を見た。時刻を見ると全く時間が進んでいない。


 さっきまでの出来事は“向こう”では相当時間が経過していた筈だが、現実世界では全く関連が無い様だ。


 (夢と同じ理屈か? ただ、夢と異なるのは“こっち”と繋がりが有る事だな。俺と父さんは何時でも体を交換できるし、心の世界である“向こう”には今すぐにでも戻れる)


 玲人は先程まで居た心の世界について思案する。そこである事を思い出した。


 (……この、心の世界に行き来する能力は仁那しか使えなかった筈だ。余りに自然だったが、何故使える様になっている? ……違う、そうじゃない……本来の“力”を徐々に取り戻している……そんな感じだ)

 

 玲人は自身の能力の変化についてそう結論付けた。仁那しか使えなかった系統の能力が、仁那の衰弱に合わして“思い出す様に”使える様になっていたが、今日のは極め付けだった。小春が仁那達と同化した瞬間に、急激に自分の能力が増強されたのだ。



 ――其れと、玲人が予想した通り……



 (……多分……使える……アレを。仁那しか使えなかった筈の……あの、力を)



 玲人は、据え置きの小さなテーブルライトを見つめた。LEDの為、僅かだが電力が使われている。


 ……テーブルライトを見つめ、ほんの僅かに力が強まるイメージを送った瞬間……


  “ボン”


 そんな音が生じて、突然テーブルライトが爆発した。玲人はこんな簡単にエネルギーを増幅出来るとは考えて無かった為、この結果は予想外だった。


 幸い、ライトは小さく爆発音も大きくなかった為、横に居る仁那は起きなかった。個室で有る為、看護師達は気付かなかった様だ。玲人は一先ず安堵し、爆発し焦げたライトを片付け、ゴミ箱に入れながら玲人は考えていた。


 (……やはりそうだ。この“増幅する力”を使うのに違和感が全くない。元々俺が使えていた力の様だ。何故……このタイミングで使える様になった? 小春により仁那が元気になった事に関係が有るのか? ……まぁ、考えても答えは出ないな。仁那しか使えなかった能力が使える様になった事は、小春達に負担を掛けずに済むか……)


 玲人は“悪い事では無い”と考え、簡易ベットに横になった。そして寝ながら、今日得られた情報を自分なりに整理してみる。 


 

 (アーガルムとマールドムだったか……小春の話ではマールドムが人類で、アーガルムが人外の存在。俺も……そして小春達もそうらしいが……確かに、この能力は人の技では無いな)



 玲人はふと、横で安らかに寝ている仁那の姿を見る。(もっとも肉体としては小春だが)



 (小春の話ではマセスというアーガルムが仁那の心の奥に居たという話だったな。又、小春はエニという過去世を生きて、マセスと一緒に居た事が有ったとも言っていた。

 そして……俺の中に居る“彼”か。マセスや過去の小春と縁深い存在だった様だが、一体どんな奴だったんだろう? そして他にも アーガルムは居ないのか? これ程の力を持った種族だ、一体何処から来た? 何故こんな力を持っている?)



 考え出すと玲人は止らなくなってきた。確かに謎だらけだ。



 (過去に存在して居たならその痕跡とか、何か残っていないのか。やはり……全て滅んでしまったのか……)


 玲人がそんな寂しい思いを抱いた時だった。玲人の頭の中に突然、澄んだ女性の声が響いた。



  “大丈夫……貴方が、皆を救ってくれたのよ……”



 その声を聞いた瞬間、玲人は急に眠気に襲われ意識を失ったのであった。




 大御門病院の上空、月夜の中に3人の男女が佇んでいた。



 但し……空中で浮かんだ状態だったが。


 全員ローブを着込んでいるが、フード部は被っておらず素顔が見れる。ローブの男女はローブの下に不思議な紋様が刻まれた金属製の胸当てを装着している。彼らの姿は現代には存在しない騎士の出で立ちだ。

 


 3人の内、切れ目の黒い瞳で長い黒髪を持った美しい美女が口を開く。


 「……“雛”への過度な干渉は止めてくれ、アルマ」

 「だってガリア、見てられなくて。こうして眺めてるだけなんて余りに悲しいわ……」


 アルマと呼ばれた女性も非常に美しく、透ける様な白い肌を持ち、サイドダウンされたプラチナブロンドを靡かせている。そしてその優しげな瞳はマセスと同じく黄金色だ。


 「まぁ、気持ちは分るが……だが、本来お前は十二騎士長の中でも後詰で、“器”の安定状況を確認し来たはず。“雛”の健全な成長は現場の我々が責任を持って対処する」


 「フフッ姿は変わっても相変わらずね、ガリア。……でも、相変わらずと言えば、“雛”となった“彼”も転生して姿も形も違う筈なのに、言動とか仕草とか……本当に変わらないわ。貴方もそうね、ドルジ?」


 ドルジと言われた短い黒髪の男は、身長は軽く2mを超えた大男だ。着込んだローブの上からでも分る程、鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体を持っているが、その割に顔は優しげだ。ドルジはアルマに一言だけ答える。


 「…………うむ」

 「貴方も相変わらずだわ、ドルジ」


 アルマはドルジの呟きに苦笑する。ドルジの代わりにガリアが答える。


 「当然だ、肉体は魂を彩る器だ。魂の本質は変わらない……それに私やドルジの場合は破壊され転がっていた器を再生し再利用しただけ。だから記憶や能力はそのままだ」

 

 「確かにね。所で……“器”と言えば……マセス様の器として“選ばせた”マールドムが、まさかエニの転生体だったなんて……」


 そう呟いたアルマは悲しげに俯いた。


 「あの子の強い想いが、それを成したのだろう……本当にあの子も相変わらずだ……」


 そしてガリアは病室で眠る小春を微笑を浮かべて見つめる。


 ガリア以外のアルマとドルジも暖かい眼差しで小春を見るのだった。

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