99)明日に向けて

 皆の説明を聞いた後、玲人が早苗に質問する。自衛軍の参加についてだ。


 「母さん、母さん達は本気で自衛軍に参加する心算なのか?」

 「ええ、玲君。私達は本気よ。いくら玲君が止めたって今回は引かない。私達は玲君と修君を守る為に戦うわ」

 「しかし、母さん……」

 「玲人」

 

 玲人が自衛軍の参加について考え直す様、早苗に対して話そうとした時、修一が割って入った。


 「玲人、早苗姉さん達は止まらないよ。彼女達は僕達を守る為に戦う。そして其れは、彼女達の中に今も眠る、大昔に生きたマセスって人の存在意義でも有ると思うんだ。僕達が彼女達の為に生きるのが当然な様に彼女達は僕達の為に生きるだろう。その方法の一つが戦うって事なだけだ」


 「……だが、俺は彼女達を危険に晒したくない……」


 「当然だ、玲人。僕達は彼女達を危険に晒さない。彼女達が僕達を守る為に前に立つって言うなら僕達は彼女達の、その前に立つ。何にも、誰にも、彼女達に触れさせない。その気持ちは玲人も同じだろう? ……そして“彼”も同じ筈だ」



 修一がそう言い切った時、突然地面の揺れが急に生じた。



 “ゴゴゴゴゴゴゴゴ!”



 「きゃっ じ、地震なの?」

 「な、なんだ!? 大丈夫か、母さん、父さん」


 急な揺れに流石の早苗も驚き横に居た修一にしがみつく。玲人はそんな二人に声を掛ける。


 今の今迄、このログハウスには定期的に起こる地震は伝わらなかったのに、突然生じた大きな地鳴りの様な振動は、まるで修一の言葉に答える様だった。

 

 「……如何やら“彼”も僕達と同じ気持ちみたいだよ? 玲人、覚悟を決めよう」

 「ああ、分ったよ、父さん。小春や仁那、そして母さんには指一本触れさせない。彼女達が戦うなら、俺達が剣となり、盾となって俺達が眼前の敵から彼女達を守る……無論“彼”と一緒にな」



 “ゴゴゴゴゴゴゴゴ!”


 

 玲人が腹を括って、修一に語った直後にも突然、地鳴りの様な振動がログハウスに伝わった。丁度玲人の言葉に答えた様だった。


 そんな様子を見た修一が皆を見渡して語りだす。


 「僕達の考えは纏まった様だ。それで明日以降なんだけど、先ずは小春ちゃんに迷惑を掛けない様にしなくちゃね」

 「ああ、其処は完全に同意するよ、父さん。小春にも言ったが仁那の事は小春が負担となる必要は一切ない」


 「……玲君、小春ちゃんの気持ちを代弁すると、仁那ちゃんを助ける事は小春ちゃんがは過去にエニとして生きた時からの誓いだったの。だから、彼女は負担とかは思っていないわ。“玲君達”が“私達”の為に今まで頑張ってくれた事は負担だったかしら? 違うでしょう。それと同じよ、だから心配は不要なの」


 早苗はもはや自分自身となった小春の気持ちを玲人に説明した。


 「……確かに俺は、今まで仁那の事を負担に思った事は無い。そうか、分ったよ母さん。だけど小春や仁那や母さんを放置する事は出来ないよ」


 対する玲人は小春達の気持ちは理解出来たが自分の中の譲れない決意を伝える。早苗は玲人の方に手を置いて語る。

 

 「ええ! しっかり私達を傍で守ってね! 充てにしてるわ、玲君!」

 「ああ、任せてくれ。母さん」

 

 早苗と玲人のやり取りを微笑ましく見ていた修一は改めて明日以降について自分の考えを伝える。


 「所で明日は小春ちゃんの家族に対して経緯を説明しないとダメだろうね。小春ちゃんは何時までも病院に居る訳にいかないし。小春ちゃんの自宅に行った時、小春ちゃんの体で早苗姉さんや仁那ちゃんが元気過ぎる態度を出したら、多分ビックリするだろう」


 「でも、修君、小春ちゃんのママになんて説明するの? まさか、仁那ちゃんを助ける為、小春ちゃんを人身御供で捧げた結果、小春ちゃんは超人になって、しかも小春ちゃんの中に二人、いえ正確にはマセスを入れると三人が住み着く事になりました、って説明する訳にいかないわ」


 「母さん、大佐が言っていた通り、マセスと言う存在の事等々は公言しない方が良いと思う。小春の母さんへの説明は大佐や弘樹叔父さん達に上手く考えて貰うしか無いだろう……其れより俺達はさっき言った通りで、護衛も含め、常に母さんや小春達の横に居る事が大切だと思う」



 3人は其々が自分の意見を言い合い、概ねの方向性を決めた。小春の家族への説明は自衛軍や弘樹達に任せ、小春達の横には常に玲人達が控える事とした。


 とは言いながら、流石に小春の家に転がり込む訳にいかないので、弘樹が進めている小春宅の両隣りの買い取りが完了するまでは、キャンピングカーで小春宅付近に住まう事で弘樹に調整して貰う心算だった。


 「……という事で明日以降の方向性が決まったので俺は此処から出る心算だが、母さん達は……って聞くまでも無いか」

 「ええ、玲君。私と修君は今から大事な話が有るから……玲君はお休みしなさい?」


 「……此処まで露骨だと寧ろ清々しいぞ、母さん」

 「まぁまぁ、玲人、早苗姉さんと会えたのも久し振りなんで……積もる話も……多分、有るから」

 「一応そう言う事で納得するよ、父さん。ただ、現実世界で黙って俺と小春の体を使ってそういう事は、小春達の為にも止めてくれ」

 「流石に、玲君は小春ちゃんと違って大人ね? もう少し小春ちゃんを見習って狼狽えてくれたら面白いのに」


 「実の息子に何を期待しているんだか……一応保健体育の知識位は有る。とにかく母さん、小春達が困る様な事は止めてくれ」



 玲人は溜息を付きながら、ログハウスを出る為に立ち上った。


 早苗は嘘泣きで“玲君に怒られた……”と修一に抱き着いている。修一はそんな早苗を支えながら玲人に話す。


 「……玲人、僕はあの場所に行って“彼”との対話に挑戦する。“彼”とはさっきの地鳴りで意思疎通が図れそうな事が分ったし。それとこの世界の調査も引き続き行うよ」

 「ああ、お願いするよ父さん」

 「玲君、私も仁那ちゃんや小春ちゃんが寝ている時は“こっち側”に来て修君を手伝うわ!」

 「有難う、母さん。それじゃ二人とも、俺は小春達の所に戻るよ」


 そう言って玲人は精神を集中し、現実世界へと戻るのであった。


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