90)訪問者

 その頃、タテアナ基地では慌ただしく、玲人達を訪ねる者が居た。


 『玲人! 中は如何なっている!? 此処を開けてくれ!』


 聞こえたのは坂井梨沙少尉の声だ。タテアナ基地の最下層は大御門家の関係者しか入れない為、ドアフォンから呼び掛けている。小春や仁那の事が心配で駐屯地から駆け付けてくれた様だ。


 対する玲人は小春によってミノムシ状態だった為、薫子が一階上の階層に上がってドアを開けると、数人が慌てて下に降りてきた。


 「玲人! 仁那ちゃんや小春ちゃんはどうな……うん? 何してるんだ? 玲人?」

 「……よく分からんが、大丈夫か? 大御門准尉?」


 薫子に連れられて来たのは、坂井梨沙少尉と安中大佐だった。玲人はミノムシのまま、回答する。


 「はい、大佐殿。事情により上から失礼します。状況は一人の勇敢な少女のお蔭で幸い良好な方向に落ち着きそうです」

 「む、そうか……所で准尉、其処から降りてくれないか? 如何にも私が落ち着かん」

 「玲人、何やってんだ? そんなトコで?」


 真面目に回答する玲人に対し、安中と梨沙は訝しげにミノムシ玲人を見る。


 「……それについても、此処で起こった状況についても、全て私が説明するわ」


 生真面目に吊り下げられている玲人に代わり、薫子が安中と梨沙に説明する。


 「……仁那ちゃんと小春ちゃんが融合して1人の人間になった!? その中に、仁那ちゃんのお母さんも居る? そんなバカな話信じられないわ……」

 

 「……梨沙、大御門家は昔から科学を超えた世界の事ばかり研究してたの……今回の件も科学的根拠としては全く乏しいわ。だから再現も立証も出来ない。でも、私は仁那ちゃんを救う方法だったら魔法だろうが、科学だろうが何でも当てにする心算でずっと邁進してきた。

 梨沙、貴方も知ってる筈よ。玲君と仁那ちゃんの誕生の経緯を。暫定政府の依頼で新戦力を求められた、大御門家は呪術を中心に、様々な試行錯誤の研究を重ねたわ。その研究の結果、生まれたのが玲君と仁那ちゃんだった。

 だから私は今回、大御門家の技術と現代技術とを駆使したの。そして小春ちゃんに“助けて”貰って、仁那ちゃん達を助ける事が出来た」


 親友でもある薫子の説明に納得しかねると言った顔の坂井梨沙少尉に、薫子は説明を重ねた。対して梨沙は安中拓馬大佐に聞いてみた。


 「……どう思う、拓馬? いくら薫子の話でも、アタシは流石に信じられないよ……」


 安中は、少し黙って考えてから口を開いた。

 

 「事実かどうかは、其処にいる石川君に聞いてみれば分る話だ。まぁ、偶然か必然かは別にして……それに准尉や仁那技官の事は本来、大御門家の問題だ。過去の契約も有り、我々の立場は大御門家のそう言う“技術”とやらに一切介入しない事なっている。我々としては、その能力の管理が出来れば言う事は無い」


 「アタシら自衛軍としてはそういう事何だろうけど、今回の薫子のやり方は、その、犯罪になってしまうのかな?……」


 坂井は薫子の方を見て心配そうに安中にこっそりと呟く。安中は微笑みながら自分の恋人である梨沙を安心さす様に囁く様に話す。


 「大丈夫だろう。内容を聞けば臓器摘出を目的とした営利目的等拐取罪が適用されそうな事案だが、何より石川君は全く元気そうだし、誰も被害者も居ない様だ。特に問題ないだろう。また、仁那技官の融合云々に関して、誰も立証出来ない時点で、完全な法的対応は不可能だ。

 大御門家としては全面的に石川君に対し誠意を持って償うと言っているし、後は大御門家と石川家とが話し合う事だと思う」


 「そ、そうか……」

 「まずは石川君の話を聞かないとな」


 そんな話を安中と梨沙がしていると部屋の真ん中にあったディスクチェアに座っていた小春? が“うーん!”と背伸びしながら立ち上がった。その姿はまだ、鎧姿だった。


 「あれ? 大佐さんに梨沙さん、だよね?久しぶりです!」


 小春とは思えないテンションで話し掛けてくる様子に戸惑いを覚えた梨沙だったが、横に居た安中は薫子に確認する。


 「随分と変わった衣裳を着ているが……目の前の石川君の中身は仁那技官、という事で間違いありませんか? 大御門主任」


 「ええ、そう思います。今の貴方は仁那ちゃんで間違いないかしら?」

 「うん! 私は仁那よ! 今はお母さんと小春に小春の体を譲って貰ったの」

 「……梨沙の言うのも確かに分る。簡単に信じられるものでは無いな。君が仁那技官と信じて、幾つか質問したいが構わないか?」


 目の前の状況としては、小春の体に居る仁那が喋っている、という事だが、今来たばかりの安中達にしては小春自身が口調を変えて話している様にしか見えない。


 その為、安中は仁那しか知り得ない軍の機密情報や過去の話等で取敢えず本人かどうかを確認する事にした。

 

 「……此処まで情報が符合したら信じざるを得ないな……何より能力の発動、此れは誰でも出来る事では無い……良いだろう、私としては君を仁那技官として認めよう」


 「だから、初めからそう言ってるでしょ。相変わらず真面目過ぎるよ、大佐さんは」

 「ところで仁那技官、君が説明の中言っていた“マールドム”について説明してくれないか?」


 安中が仁那にそう質問した際に、丁度、向こうで事情説明していた薫子と坂井が安中の方に戻ってきた。


 「うん、でも私より小春の方が上手に説明出来ると思うから、一旦小春に替わるわ」


 そう言って仁那は目を瞑り、小春に変わったのだった。



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