65)過去編-11(歪な家族)

 この機を境に、子供達は大御門の弘樹と、薫子の元に預けられる事となった。


 その為にクーデター後、新見に成り代わり奥田が、安中を連れ添って今までの顛末の説明と今後の対応の為、弘樹と薫子の元に来た。


 弘樹と薫子はクーデター前に何度も新見に子供達に面会を要請したが、結果色々な言い訳をされて、まともに会わしてくれなかった。


 今回、敵勢力の度重なる侵略や新見大佐のクーデター等、自衛軍での子供達の今迄の生活と能力について自衛軍が知る全てを奥田と安中より聞いた。


 「……ですので、子供達の能力は現状、この国の防衛に極めて重要です。彼らの活躍がなければ、この国は取り返しの効かない数多の犠牲が生じた事でしょう」

 「それは! あなた方の都合です! 第一国の防衛とかはあなた方の仕事で、この子達がやる事ではありません!!」


 安中が全てを説明する中で、薫子が至極まっとうな意見を興奮しながら言った。


 「御嬢さんのおっしゃる通りです。しかし我々自衛軍は、第三次世界大戦の影響で大幅に戦力を無くした状態から発足しました。

 未曽有の危機の中、私達や現政権にとって出来る事は余り無かった。その為、不幸な事件で偶然不思議な力を得たお子さん達に、助けて頂くしかなかったのです。その事は深くお詫びします」


 奥田は、薫子と弘樹の目を見てしっかりと謝罪した。だが弘樹と薫子は納得しなかった。


 「今更、謝られた所で仕方がない。あの子達には辛い思いや、したくも無い戦争の経験を味あわせてしまった。まだ3歳位なのに」

 「その事については弁解のしようもありません。今後彼らに積極的に軍務に就かせる事は強要しないとお約束します」


 弘樹の呟きに奥田はそう言って続けた。


 「ですが、お二人がこの子達を引取られるならば我々自衛軍としてあなた方にお願いがあります。

  一つ目は、子供達の力に対し対応できる環境を作る事です。彼らの力は強力なのは、お二人もお屋敷の事でご存じでしょう。子供達の力に耐えれるような強固な構造の施設が必要だと思います。

  二つ目は、子供達について我々自衛軍の監視を受け入れて頂く事です。今回、お話した通り子供達は成長と共に自我が生まれています。その事は大変素晴らしい事ですが、逆にどんな影響を周囲に与えるか分かりません。その為、万が一に備え我々に見させて頂きたい。

  三つ目は、子供達の能力を訓練する事です。子供達の力は本当に危険です。万が一にも暴走などあってはいけません。これは子供達の将来の自立の為にも不可欠です。その為に我々の方から安中を付けて訓練をさせます。

 最後は子供達の状況について安中を通じて私に教えて頂きます。我々自衛軍としては子供達の状況を最低限、常に把握する必要があります。これらの条件を考慮頂ければ、子供達を大御門家の元にお戻り頂いて構いません」

 

 奥田の言葉は静かだが重みがあり誠実な響きがあった。薫子はじっと話を聞いていたが頷いて語りだした。


 「……奥田さん。お話を伺って納得できない所ばかりですが、確かにあの子達は危ない力がある事はよく分かりました。ですが、今この場で約束して下さい。あなた方は二度とこの子達に戦いを強要しないと。特に女の子を戦争の道具にするなんて絶対に許せません」


 「大御門弘樹さん、薫子さん。自衛軍の奥田誠司少将としてお約束します。我々自衛軍は子供達に軍務を強要しない事を約束します」


 奥田の誓いを受けて、弘樹と薫子は一応の妥協点とした。


 彼らとしては新見に翻弄され子供達が戦争の道具にされた事や、傍にいた安中が新見の暴走を、止めなかった不信(監視役だったと奥田に聞いたが)等、許せない事も多かったが、子供達を手元に帰して貰う事が弘樹と薫子にとって何よりだった。


 奥田に提示された条件の内、一つ目の子供達を受け入れる環境については、吟味した結果、大御門家がオーナーを務める総合病院の裏庭に大規模な地下シェルターを建設した。


 わざわざ病院の傍にしたのは、地下シェルターの安全性が高いと確信していた事と、不測の事態の対応の為だ。また、自衛軍の駐屯地からも近いという立地上の条件もあった。


 分厚いコンクリートの隔壁を持つ地下シェルターは、細長い構造をしており、円形の部屋が20層程垂直に並ぶ円筒形のシェルターだ。丁度、丸い高層ビルが地中に埋まっている様な形状だった。


 シェルターは何層にも分かれており、各層には子供達の事を研究する施設や、奥田の言う訓練施設や自衛軍の為の施設も用意した。そして最深部の部屋に子供達の部屋を設けた。


 シェルターは新見に初めて会った際から計画し建設を始めていた。


 新見は元々、子供達を大御門家に帰す気が無かった為、シェルターの要求は無茶だらけだったが、弘樹と薫子は子供達を迎える為、と信じ必死に要求に答えた。


 資金準備と建設工事に時間が掛かった為、結局新見にはこのシェルターの情報は伝わって無かった。


 正確には安中は知っていたが、安中は新見の動向が危険な兆候だった為、あえて実態を教えずダミー情報を伝えていた。このシェルターの建設費は何十億円も掛かったが、剛三や兄達が所有していた会社やビルを処分した費用で賄った。


 大御門家の主な親戚もあの事件のとき死亡しており、剛三や兄達の全ての資産運用は弘樹や薫子には出来なかったので、自分達が対応できそうな企業や不動産以外は売却処分し、子供達の施設や、事件での補てん金に充てた。

 

 弘樹や薫子にとって、剛三や兄達が私利私欲で作り上げた汚い財産よりも、その最大の被害者である、子供達の対応の方が遥かに大切だった。


 そうして漸く、子供達を迎えられるすべての環境が整った。丁度、子供達が生をうけて4年目の2086年4月の事だった。


 弘樹や薫子は子供達が居る駐屯地まで迎えに行った。久しぶりに会う子供達は、二人とも大分大きくなっていた。


 マルヒトは4歳児の割には大きく、しっかりしていた。端正な顔は本当に修一そっくりだった。


 マルフタも長いルーズウエーブの髪型と、その美しく愛らしい顔は早苗そのものだった。首から下は相変わらず動物の足状のモノや触手状のモノが何本も生えていたが、様子が変わった所があった。


 首から分厚い膜状のスカートの様な皮膚というかカタツムリの外套膜の様な組織が生えていた。動物状の足や触手は、分厚い外套膜のスカートに巻かれている様になっていた。丁度テルテル坊主にグロテスクな足が何本か生えている様子だった。


 極めて奇異な姿で、誰もが恐怖を抱く姿であろう。しかし薫子は、そんなマルフタを優しく胸に抱き、そして頬を撫でた。


 「会いたかったわ! 可愛い私の天使」

 「るるぅぅぉぉお」


 抱き寄せられたマルフタはくすぐったいのか身を捩るが嫌がってないようだ。


 一方のマルヒトは、そんなマルフタの様子を眺めて、無表情で立っていた。その様子を見た弘樹は話しかけた。


 「久しぶりだね、マルヒト君」

 「……? 誰?」

 「僕は君の叔父に当たる大御門弘樹だよ」

 「おじ? なに、それ?」

 「分かんないかな? いいや、とにかく、僕は君達の家族だよ!」

 「かぞく? はじめてきく、それ」

 「きっといいものだと思うよ!」


 弘樹は自身も家族のいい思い出としては遠い昔、実の母が居た時しか知らなかった。その後は弘樹にとって辛く悲しい思い出ばかりだった。

 

 だからこそ、薫子と共に、早苗と修一の忘れ形見であるこの子達と、もう一度家族というものを自分で作る心算だった。


 弘樹は薫子とマルフタと、そしてマルヒトを見まわし、笑顔で皆に言った。


 「皆で帰ろう。僕達の新しい家に!」


 こうして、少々歪だが新しい家族が大御門家に誕生した。



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