66)過去編-12 (二人の名前)
弘樹と薫子に引き取られたマルヒトとマルフタは、彼らが用意したシェルターの最下層に住まう事となった。薫子は、子供達が大きくなるまで同じ部屋に住む事にした。弘樹は仕事もあったのでシェルターの上層階に住む事にした。
ここに越してきた子供達は、あるモノを貰う事になった。
それは子供達の“名前”である。
「マルヒト、マルフタなんておかしいよ。だって番号らしいし。そこで僕と薫子で君達に名前を考えたんだ」
「べつに、マルヒトで、いい」
「ぶぶぃぃぇぇ」
子供達の反応はイマイチだ。
「まぁまぁ、聞いてよ。凄く悩んだけど、今までの君達の4年間を全否定するのも、どうかと思って、いいの思い付いたから!」
弘樹は嬉しそうに子供達に言った。
「マルヒトの新しい名前は玲人! マルを玲に読み替えたんだ! 名前の意味は“透明感のある優れた人”だよ!」
「れいと、れいと…… 別にマルヒトとちがわない。マルヒトでいい」
「君は、これから! 大御門玲人だ!」
「…………うん」
反抗するマルヒト改め玲人は、結局弘樹の熱い思いに屈服し諦めた。相手の気持ちを汲み取る事を玲人は仕方なしに覚えた。
マルフタの名前は薫子が決めた。初めは、超可愛らしいのを考えてたが、弘樹に却下され、結局玲人と同じコンセプトで再考した。
「私の可愛い天使。あなたの名前は仁那(にな)よ」
「きぃいいうあ」
「薫子、元の名前のマルフタと関連無いじゃないか」
「違うわ、弘樹兄様。仁那の字の中に数字のニを入れてるもの。“フタ”の呼名で付けれる名前は限られるわ。そもそも大御門の苗字に合わないし。仁那の意味はね、思いやりがあって美しい人を意味するわ。だからこの子にぴったりよ! 私の可愛い天使、あなたはこれから、大御門仁那よ!」
「ろぉぉぐぅきぃいいうあ」
マルフタ改め仁那も反論できず決まってしまった。しかし仁那の場合は、どことなく嬉しそうだった。
こうして子供達は、初めて人間らしい扱いを受け、大御門玲人、大御門仁那、という名前を貰った。
新しい名前を貰った子供達の生活は、二人にとって戸惑う事も多かった。子供達だけでなく弘樹と薫子も同じだった。
普通の子供達でも経験のない弘樹と薫子は大変だというのに、玲人と仁那は、“少々”個性的過ぎたからだ。
来たばかりの玲人と仁那は、弘樹と薫子を警戒し中々、心を開いてはくれなかった。元々、玲人は感情を示さないし仁那も擬音語しか話せない。意思疎通自体が困難な環境だった。
子供達の生活については、子供達を年齢に応じた幼稚園などの教育の場に連れ出したかったが、現状の所は諦めざるを得なかったので、主に薫子が二人の教育係を務めた。
自衛軍が派遣した複数の教育係も居るにはいたが、薫子の熱意には到底及ばなかった。薫子は子供達の為に大学の専攻を変え、医学の道に進んだ。子供達、特に仁那の体を、何とか人の姿に戻したかったからだ。
忙しい学業の合間に子供達の面倒を見る事は大変な筈だが、元々天才肌の薫子は両方を難なくこなした。
其ればかりか薫子は独自に大御門家の過去の知識を洗い直す様になった。仁那と玲人が如何やって生まれたのかが分かれば、仁那の体の事も分ると思ったからだ。
一方の弘樹は、大御門本家の崩壊後、再編した事業を何とか切り盛りしていた。
父や兄達の様な派手で暴利を貪る様な、商売のやり方でなく、信頼性が高く手堅い商売をしたお蔭で、リターンは少ないが確実な利益が確保出来る様になった。
また東条家を初めとする剛三達が相手にしなかった親戚筋の力や、恋人の真紀の父の指導も受けたりして、少しずつではあるが事業は軌道に乗る様になってきた。
こうした弘樹と薫子の努力のお蔭で、玲人と仁那は充実した環境の中で生活する事が出来た。
弘樹と薫子は出来るだけの時間を割き、玲人と仁那に接した。薫子は二人を教育し、弘樹は二人に外の世界について説明し、本を読んであげたりした。
玲人と仁那は徐々にであるが弘樹と薫子に心を開く様になってきた。
そして玲人と仁那の“少々”個性的な点もこうした生活の中で少しずつ変化していった。
まず、食事は玲人は普通の食事が出来たが、仁那は相変わらず豚や羊等の生きた動物からの生命エネルギーを摂取していた。
ただ、仁那も加減が分かってきて動物達は、完全に死んでしまう前に摂取をやめる事が出来るようになった。
これにより、動物達はシェルターの一室にて飼われ、ローテーションで仁那に生命エネルギーを与える事となった。なお、食事を続けるうち、仁那の分厚い外套膜の様な組織は徐々に成長を続けた。
能力に関しては、玲人は自在にコントロールして見せた。玲人の力は物体を動かしたり持ち上げたりする能力があるが、訓練の結果自分自身にもその力を付与し、自分の運動能力を大幅に強化する事が出来る様になった。
また、動く物体についても力を付与でき、大きな運動量に変える事も出来た。玲人の能力は安定し、訓練にも非常に前向きだった。
玲人は、まるでこれが自分の役目であるかの様に、誰にも強制されずに進んで行っていた。余りに熱心な姿に弘樹や薫子が訓練を止め様としても、逆に邪魔されるのを嫌がった為、弘樹や薫子は好きにさせていた。
これに対し、仁那は自身の能力の訓練を嫌がった。
仁那が本来持っている能力は集約したエネルギーを増幅する事が出来る事だが、仁那はその能力を使いたがらなかった。
薫子は自衛軍に仁菜が利用されていたことがトラウマになっていると判断し、奥田達自衛軍が苦言を言っても、一切の訓練を止めさせた。
薫子にとって仁那の能力など不要だった。女の子である仁那は、戦う必要など全く必要ないと薫子は強く思っていたからだ。
本来持っている能力を封印した代わりに、仁那は新しい能力を得た。それは自身の分身を作り、新たな目とする事だ。
仁那は首下より成長を続ける外套膜状の組織から目の様な球体状組織を生み出し、それを分離できる様になった。
分離した、その目玉は周囲に生物が居ればその生体エネルギーを勝手に摂取し、独立して生き続ける。
その目玉と仁那の感覚は遠く難れても繋がり続け、仁那は地下シェルターに居ながら、外の様子を見る事が出来る様になった。
また傍に仁那と波長の合う玲人の様な人間が居る場合、目玉を中継してその人の視覚や聴覚等の感覚を仁那が感じる事が出来た。
この能力の発現は全くの偶然だった。玲人と仁那がこのシェルターに来てから暫くした後、訓練の為、玲人が外部に出る事が多くなった。
この頃から子供達は大分自我が成長してきた。玲人は無口だが活動的で、何でも、自分から行動するタイプだった。
それに対し仁那は動く事が出来ない為か、引っ込み思案で大人しく消極的な性格をしていた。
その為、玲人と違って訓練も嫌がり、外に出るのも嫌がっている訳だが、外の世界に興味がない訳でなかった。
弘樹や薫子が語る外の景色を見てみたいが出て行けない事にジレンマを感じている時に、突然外套膜の表面に目玉が生まれ出しその一つが落ちて転がった。
その目玉を偶々そこにいた玲人が拾い上げると、仁那の脳裏には玲人が持つ目玉を起点にして玲人の感覚が拾える様になった、と言う訳だった。
その事は初め誰も分からなかったが、玲人が訓練で外に出る際に仁那が、何かモゴモゴ言って目玉を渡している事に弘樹が気付いて、周囲に知られる事となった。
この仁那の新しい能力に奥田達自衛軍は、非常に興味を持ち、色めき発ったが薫子が頑として立ち塞がった。
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