64)過去編-10(奥田少将)
新見達が作戦決行場所に到着すると、その場所に誰かが立っている。安中だ。
「安中。どうだ、問題はないか?」
「はい。新見大佐、特に問題はありません」
「審議が始まるのが予定通りヒトキュウマルマル時(19時)からだ。従って作戦実行も予定通りヒトキュウサンマル(19時30分)からとする。A班、B班、D班の班長は周囲の状況を報告しろ。C班はマルヒト、マルフタの起動準備に掛かれ」
「…………C班、了解しました」
「繰り返すA班、B班、D班の班長は状況を報告しろ」
「「「…………」」」
「どうやら、問題が起きた様だ。安中、様子を見てこい。俺は此処で作戦実行を見届ける」
「いいえ、新見大佐、問題は生じていません」
そう言って安中は拳銃で新見の左肩を打ち抜いた。
“ダァン!”
新見は左肩を押さえ、公園のフェンスに寄りかかった。
「グゥゥ!! ……ハァッ、ハァッ……まさかお前が裏切るとはなッ! 安中ァ!!」
「新見大佐、誤解です。自分は裏切ってなどいません。初めから此方側の人間です」
安中がそう言うと、背後から3名の男が現れた。真ん中の男は軍服を着ており初老だが体格のいい体つきをしていた。顎には白髭を生やしており、威厳が感じられる風貌だった。
その男の左右に居たのは黒メガネ、黒服の体格のいい男達で、真ん中の男の護衛の様だった。
「堕ちたものだな、新見。もはや弁明も出来んぞ」
「……奥田少将、安中を、うッ……二重スパイに使うとは、恐れ入る……」
「別に安中だけではない、後ろを見てみろ。新見」
奥田少将と呼ばれた初老の男、奥田誠司少将は、そう告げて新見に後ろを見る様促した。
新見が左肩を押さえながら振り返ると、丁度マルヒト、マルフタの起動準備を終えたC班のメンバーが同じC班メンバーに銃を突き付けられ横ばいになっている姿が見えた。
「ぐッ……初めから、手の平の上だった、という……訳か、はぁ…… はぁ……」
「お前の行動は以前から問題視されていた。別に安中拓馬少尉だけでない。お前が思っている以上の人員が、お前を監視していた。
信じられんだろうが、これでも私はお前を評価していたのだよ。新見大佐。だからこそ、多少の目に余る言動も目を瞑っていた。
しかし、今回お前は超えてはならない一線を越えた。国を守る立場の我々が、守るべき国を脅かして何とする!!」
「ははッ はぁ……はぁ…… 詭弁だな。奥田、貴様も、あの暫定政権の、ぐッ 無能さに、呆れていただろう」
新見は痛みによって息を荒くしながらフェンスに背を預け、辛うじて奥田に答えた。
「……例え、貴様の言う通りであったとしても軍事力で解決して如何する。この国は民主国家だ。解決するのは国民の意志だろう」
「はぁ…… はぁ…… そんな、生ぬるい事を言っているからこんな状況に、なってんだろうが!」
「もはや、何を言っても通じんか。お前の言い分は法廷で聞いてやる。連行しろ」
「俺の、革命は終わっていない! 奴らを殲滅してからが始まりだ!!」
新見は右ポケットに隠していた遠隔通電装置のリモコンで、子供達に電気ショックを与えた。
「「ギャン!!」」
マルヒト、マルフタは同時に叫び声を上げた。
”ゴゴゴゴ!”
コンテナが激しく振動し、白い光が集まりだした。
「こッ これは!」
「まずいです!」
奥田も安中達も危険な兆候を感じ取り、驚きを隠せない。
「あははははッ 安中ァ! 言ったろう! 死なば! 諸共だ!」
新見は子供達に外部からの激しい痛みを与える事で力の暴発を誘発させ、自分諸共、臨時国会議事堂を壊滅させようとした。
しかし……
コンテナの振動は徐々に収まり、集まっていた白い光も霧散した。新見がコンテナ内のマルフタを見上げると、彼女は痛みに震えながら、新見を拒絶するように目を伏せた。
「こッの! 化け物が! 俺の! 言う事を聞けェ!!」
新見は痛みも忘れ怒り狂い、再度遠隔通電装置のリモコンを再度押そうとした。
その時……
”グシャ!!”
嫌な音を立てて、新見の右腕はリモコン毎、圧潰された。
「ギャアアアアア!!」
さすがの新見もあまりの痛みに転倒し、そのまま昏倒した。
事態が呑み込めなかった奥田と安中達が、コンテナの子供達をみると、マルヒトが、マルフタを何時もの様に左手で大事そうに抱えながら右手を前に差し出し、グッと手を握っている様子が見られた。
マルヒトがマルフタを守る為、新見の右腕を握り潰したのであった。
2085年11月9日の夜、新見の企てたクーデターはこうして未然に防がれた。新見は命に別状は無いものの、重症である為、警察病院に運ばれた。治療後、拘置所へ護送されるだろう。
マルヒトとマルフタはコンテナの中で眠っている。椅子に座っているマルヒトはマルフタを両手で包み込む様に抱いている。
そんな二人に前に、奥田が安中に問いかけた。
「彼らを如何すればいいと君は思うかね」
「彼らは非常に有益な戦力です。しかし、彼らには自我が芽生え始めており、今と同じ環境では彼らの情緒が不安定になると、自分は思います。
新見大佐は彼らをモノとして扱おうとして結果、今回の事件の様に失敗しました。其れを間近で見て自分は改めて思いました。
彼らは“多少”奇異な姿や能力がありますが紛れもなく人間です。自分としては、子供である彼らを我々、軍に身を寄せるのでなく、家族である大御門家と一緒にあるべきだと思います」
「そうだな……」
奥田は自分が溺愛する孫娘の事を思い返し非常に愛らしいマルフタの寝顔を見て、思わず目が潤んでしまった。
「安中、彼らの事は君の意見の通りとしよう。但し次の事を守らしてほしい。
一つ目は、大御門の受け入れ態勢の確認だ。
二つ目は、我々自衛軍の監視を受け入れる。
三つ目は、君が彼らの能力を訓練したまえ。
最後に、君が私に彼らの事を定期的に報告する事だ。後は君の考えと、保護者の大御門の考えを尊重したまえ」
「ハッ了解いたしました。奥田少将閣下!」
安中は尊敬の念を込めて敬礼した。
その上空、月夜の中じっと、マルヒトとマルフタを見つめる者が居た。彼はまるで足場が有るかの如く、空中に浮かんでいた。
その姿はローブを着こみ、ローブの間からは、紋様が刻まれた金属製の胸当てが見える。剣こそ持っていないがその姿は騎士、其の物だった。広い肩幅の逞しい体つきより男である事が分る。
顔には単眼を象った様な不気味な模様の仮面を被っており素顔は分らない。
空中に浮かんだローブの男は、マルヒト、マルフタの二人がコンテナから大切そうに運ばれる姿を見届けると、一瞬体を輝かせその場から転移して消え去った……
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