61)過去編-7(其々の思惑)

 安中は弘樹と薫子に子供達の現状を知って貰う為、発見状況の説明から始めて、現場で発見された記録映像も二人に見せた。


 この映像は一切編集されていないため、ショックが激しく弘樹は嘔吐し、薫子は気を失いかけた。


 だがこの映像により、子供達が不可思議な事ではあるが、早苗と修一の子供である事が良く理解できた。


 同時に、剛三を初めとする大御門家の人間達が早苗と修一に行った残虐行為についても、その所業が明確になり、弘樹と薫子は改めて子供達を自分達が守る決意を強く持ったのである。

 

 「安中、ここで子供達を調べた結果について説明して差し上げろ」


 「はい、まず男児の方ついて説明します。物理的な原理は全く不明ですが、意志の力により流れを変える、防ぐといった所謂“念動力”とでも言う様な能力が確認されました。また、肉体的にも見かけ上一歳児に見えますが、身体能力的、精神的に年齢を凌駕しています。尚且つ、自然治癒能力も非常に高く、検査の為に与えた傷も数秒で完治します。

 女児の方は我々の常識を完全に超えた存在です。まず女児には人間が本来必要とする、心臓、肺、肝臓、腎臓、脊椎等々生きていくのに必要な臓器がありません。この状態であれば、生きている事など有り得ないのですが健康で、しかも意識もしっかりしています。

 代わりに首から下に生えている足もしくは触手というべきものか、判断つきかねますがこの足状のものには重要な臓器類は含まれておらず何の為にあるのか不明です。

 この女児が生存を続けている理由として、彼女の能力に有ると考えられます。

 彼女はある一定の期間で、周囲の生物より精気とでも言いましょうか、何らかのエネルギーを直接吸い取る様なのです。

 一番最初は女児が生まれた際に、その能力は発揮されました。その際には一瞬で相当数の人間を昏倒させています。その後、この駐屯地で目覚めた際に、任務中の28名を昏倒させた為、大至急隔離致しました。その後試験的に軍用犬を近づけたところ、昏倒現象が確認された為、養豚場より豚を買い上げ定期的に与えると、安定する様になりました。

 必ずしも人間である必要な無い様ですが生物から定期的な何かしらのエネルギーの吸収を自ら行うことで生命活動を行っている様です」


 「「…………」」


 淡々と説明する安中に弘樹と薫子は言葉を失っていた。何と言えば分からなかった。この子達は人間なのか? そんな思いよりどうにも言葉が見つからなかった。

 

 安中は尚も報告を続けた。


 「女児の保有する能力はエネルギーの享受、増幅、放射等が可能な様です。我々には全く理解出来ない現象ですが。大御門家の地下実験場を吹き飛ばしたのもこの能力の様です。エネルギーの検知自体が我々には出来ない為推察ではありますが、恐らく、目覚めた際に集めた周囲の人間のエネルギーにて火炎放射器の熱量を増大させ一気に放射したと見受けられます。

 ……根拠も何も無いファンタジー領域の推察ですが、報告を終わります」


 「「…………」」


 説明を終えた安中に対し弘樹と薫子は、まだ一言も発せずにいた。


 「どうかされましたか? 怖くなりましたか」


 新見が挑発するように問いかけた。


 「……何でもありません。子供達の顔をもう一度良く見させて貰っていいですか」


 薫子が気丈に答え、自ら子供達が入っている保育器に近づき覗き込んだ。


 とても可愛らしい男の子が、可愛く綺麗な顔をした首だけの女の子を大事そうに抱いて眠っている。とても安らかな寝顔で。


 その顔は修一と早苗に本当にそっくりだった。


 「……修一君、早苗……」


 薫子は二人の子供達を見て涙した。早苗と修一はどんな思いで死んでいったのであろうか。その無念を思うと泣けて仕方なかった。


 そんな時女の子が目を覚まし、薫子の顔を見て、天使のように笑って、


 「るぅぅぉぉうぅ」


 と語りかけた。


 ……薫子は居た堪れなくなり激しく泣いた。


 その涙は謝罪なのか、喜びの涙なのかよく分からなかったが、間違いなく目の前の二人の子供達が大切に、大切に思えたのは間違いなかった。


 その様子を弘樹は黙って見ていた。


 「あの子達を連れて帰ります」


 薫子は新見と安中にそう告げて、本当に連れて帰ろうとしたが、安中に制止された。


 「お気持ちはよく分かりました。しかし、この子達の対応には十分な配慮が必要で、万が一を考えた隔壁が必要でしょう。また、子供達にはその能力のコントロールと調査が不可欠です」


 「ですが、あなたの上司である新見さんは先ほど僕達に面倒を見て欲しいとおっしゃいましたが」


 弘樹は此処ぞとばかりに言い返したが、当の新見は笑みを返して反論した。


 「無論、そう思っています。家族は出来る限り一緒に暮らすべきだ、と私は思います。しかし、この子達は余りに特別すぎるでしょう。何の準備も無い中で、彼らが能力を発動させてしまったら、今度は何人犠牲になると思いますか?」


 「何が仰りたいのですか」


 薫子は憮然として新見に聞き返した。


 「はっきり申し上げましょう。我々としては、あなた方にこの子達の能力に対し対処は出来ないと判断しています。低威力核兵器に匹敵する能力に地方財閥とはいえ民間人のあなた方に対応は不可能だ。

 かといってこの子達の問題を我々に押し付けられるのも困るのです。その為にこの子達については、我々とあなた方大御門家で協力し合って対応したい」


 「……僕達がこの子達を連れ帰る事は、どうしても出来ないのですか? この子達の問題は大御門家と八角家とで解決するのが、本筋でしょう」


 新見の回答に弘樹が戸惑いながらも反論したが新見は尚も続けた。


 「普通の幼児ならご指摘の通りでしょう。しかしあの子達は危険すぎる。今後も同じ規模の被害が出る可能性が十分あります。

 また先ほども少し話した通り、大御門剛三氏は戦力を確保する為に政府より莫大な資金援助と特殊な資材提供を受けています。

 その石の様もそうです。映像記録を見る限り、その石が子供達の誕生に大きく起因していると判断します。我々としても政府の命を受け、協力をして来ました。そういう意味でこの子供達の存在は、政府及び我々にも無関係ではありません」


 「……お話は分かりました。具体的にどうすれば宜しいの?」


 「大御門家には当面、出来る限りの資金提供をお願いしたい。そしてこの子達の能力研究も協力頂きたいと考えています。我々は政府と協力し防衛面での環境整備と子供達の能力のコントロールを行います。

 子供達には当面の安全の為、この駐屯地の地下施設で生活頂きます。ここなら万が一にでも民間人に危険が及ぶことはありませんので。

 軍の設備ですが、あなた方には特別に面会できるよう配慮しましょう」


 新見と薫子のやり取りを聞いた後、弘樹も納得せざるを得なかった。


 「状況的に簡単では無いのは納得しがたいですが理解できました。ですが……子供達はいつか我々の元で暮らせる日は来ますか?」


 「大御門家のお力で、我々が納得出来る強固な防衛面での環境整備を準備頂き、我々の常時監視を受けて頂けるならば、前向きに検討いたしましょう」

 

 “……一度帰って整理させて頂きます”


 そう言って弘樹と薫子はハイヤーに送られ帰って行った。新見と安中は保育器の前で、まだ話していた。


 「まさか連れて帰る、と言うとは予想出来なかった。ビビッて金だけ出すものと思ったのだがな。大御門家に欲以外で動く奴らがいるとは思わなかったな」


 「……“いいひと”達なんでしょうね。また、彼らは大御門剛三氏に共感していなかった様ですので、その影響が大きいでしょう。ですが、我々にとって良い結果になりました。剛三氏やその取り巻き連中であれば、一筋縄ではいかなかったでしょう」


 「確かに。あの若造兄妹なら御しやすい。この子供達を扱い切るには政府予算だけでは動きが取れんが、大御門からの継続的な資金提供があれば概ね解決する」


 新見は眠っている子供達を見て満足げに呟く。


 「まずは、こいつ等を使ってこの国を脅かす敵性戦力を駆逐する。俺はその為の準備に取り掛かる。安中。お前は大御門の残党のケツを叩いて金を入れさせろ。適当にご機嫌取りながらな。

 外野が落ち着いたら、次は国取りだ。無能な暫定政権にこの国は任せられん。こいつ等の能力で一掃し、この国を立て直す。分かっているな安中……死なば諸共だぞ」


 「……了解です。大佐殿」

 「さて、こいつ等の呼び名を考えねばな。マルヒト(01)、マルフタ(02)とするか」

 「名前を付けずに、彼らを数字で呼ぶのですか?」


 「こいつ等を人間だとでも? 男の方はともかく、女の方はどう見ても化け物だぞ。人の名で呼ぶ方が違和感しかない。男の方をマルヒト。女の方をマルフタとする。

 マルヒトは身体能力が高いとの事だったな。その特徴を生かした訓練させる。また、こいつの能力についても実戦で使えるよう対応させる」


 「女児の方はどうされるのですか?」


 「……とりあえず豚を食わして落ち着かせながら、能力の検証をさせる。正直危険極まりない存在だが、戦力としての価値は得難いものだ。とてつもなくな。何とか有効活用できる様、全力で当たらせる心算だ」


 自信ありげに語る新見に対し、安中が呟いた。


 「……我々はパンドラの箱を開けようとしているのでは無いのでしょうか」


 「かもな。だが人間とは元来そういう生き物だ。恐れては何も始まらん。それにな、安中。開けたのは大御門剛三だ。そして、箱の災いを受けるのは我々ではない。だから何も問題はない」


 安中は長い溜息をついて、子供達を見つめた。こうして二人の子供達は、恐れを知らぬ愚か者達の元に預けられ、利用される事となった……


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