62)過去編8(殲滅兵器)
大戦が始まり、大量破壊兵器による環境変化により発生した食糧難による争奪戦は各地で混乱を生じた。使われた大量破壊兵器は小型戦術核であり、都市部を中心とした攻撃だった為、環境変化は長期化しなかったが、一度生じた綻びは簡単では無かった。
特に人口の多い国は深刻で、各地で生きる為の争奪戦が始まった……内乱だ。もはや国の行政など意味がなかった。
大国は分解し幾つもの組織に分かれ、軍事力によって資源を争奪する状況となっていた。
大きな被害を受けたこの国も無関係では無なかった。この国自体の備蓄食料が少なく、元々他国より食料を輸入していた状況より、大きな混乱が生じた。幸い民間人は銃器を持たず、国民性もあってか内乱は生じなかった。
食糧備蓄や大量破壊兵器の直接被害のなかった国からの支援で凌いでいる状況だった。しかし、国外ではそうではなく、分裂した軍事組織が資源を求め、群発的な侵略行為を行う様になった。
国家としての体を成して無い為、外交的な抑止力は全く意味がなかった。そんな中、他国軍事組織による本州日本海側で本格的な侵略が行われた。
2084年6月18日の事だ。
今までの侵略行為は警備艇に追い回されて諦めるケースが殆どだったが今回は違った。
敵勢力は駆逐艦2隻と大型の揚陸艇の艦隊による本格的な戦力での侵攻だった。
日本の警備艇は駆逐艦の攻撃により撃沈され、揚陸艇により歩兵大隊と戦闘車両による上陸がまさに行われる所であった。
これに対し、日本側は警備艇が撃沈された後、不思議なほど無抵抗だった。飛行隊からの攻撃もなく、護衛駆逐艦すら姿を見せなかった。
敵勢力側は、日本の自衛力が崩壊していると判断し迷い無く侵攻を進めた。
敵勢力が本州日本海側の海岸より上陸を始めた時、敷設された移動式前線基地に、新見と安中は居た。
「漸く初めての実戦だな、安中。使い物になればいいがな」
「大丈夫でしょう。あれから十分な訓練とシュミレーションを続けてきました。彼らとて我々の期待に応えてくれるでしょう」
「相変わらず楽観的だな、安中。ところでマルヒト、マルフタは前線に到着する頃か」
「はい。もう間もなく奴らの鼻先に着陸します」
安中の言葉通り、大型ヘリが箱状の物体を運んで来た。頑丈な装甲に包まれた、3m角の正方形の鉄製の箱だ。よく見れば四隅に小さな噴射口が付いている。
正面と思しき側に頑丈なシャッターが装備されている。
大型ヘリは上空から運搬ワイヤーのフックを外し、敵戦力の前方に物体を落下させた。物体は地上に激突する前に噴射口からジェット噴射により、大きな衝撃もなく着陸した。
“ズズン!”
敵戦力の歩兵部隊は、いきなりの物体落下に驚いたが、すぐに気を取り直し、物体の周囲を取囲んだ。
すると何やら内部から信号音がして箱のシャッターが素早く開いた。箱の内部は分厚いガラスが貼ってあり、
中に居たのは……
三歳位の男の子が座っている。とても可愛らしい子だ。その膝には、首だけの目を瞑った女の子が……
「ウゥ!」
「ウワァー!!」
予想だにしていなかった光景に慌てた、敵歩兵は機関拳銃で一斉に発砲した。
“ダダダダダダ!!”
しかし、全ての弾は箱の前で停止し、そして地面にボタボタと落下した。箱の中の男の子が薄く笑って手を差し出している。
「「「!!」」」
敵歩兵は手りゅう弾を投付けた。
“ドカン!!”
手榴弾は爆発したが何故か、衝撃波が広がらず、空中で1m程度の球状のまま止まっている。敵歩兵達はパニックになり、皆一斉に手持ちの機関拳銃や手りゅう弾で攻撃した。
“ダダダダダダダダダダダ!!”
“ドカン!!” “ドカン!!”
しかし一切の攻撃は当たらない。箱の手前でピタリと止まり、爆発の衝撃波は幾つもの球状となり空中で浮かんでいた。
そして、箱の中から信号音がした。まるで見計らったように。
“チーチチチ”
すると首だけの女の子が目を覚まし、一言呟いた……
「ゴゥゥィエァ……」
そして、あれが再現された。箱の前方に集められた球状のエネルギーは真白く発光し、常識外の強力な白い光が敵勢力側に放射された。
“ドゴゴゴォン!!!”
圧倒的な爆発が生じ、上陸していた歩兵大隊約400名と戦闘車両12台が消滅した。
展開していた地上部隊の殲滅を確認して敵戦力の艦隊は旋回し、戦線を離脱しようとしていた。しかし、箱の前に集められた白い光は消えていなかった。
箱の中では男の子、マルヒトが手を真上に挙げた。
すると集められた白い光は、箱より垂直に立ち上がり、3方向に分かれ護衛艦2隻と大型揚陸艇に光が突き刺さった。
瞬間、艦隊は轟音を立てて爆発し炎上した。
“ドガガガァァァン!!!”
そして艦隊は一瞬で消滅した。こうして敵の侵略作戦は子供達、マルヒト・マルフタが到着してから、数十分で終了した。
「……予想以上だな。マルヒトが集めたエネルギーをマルフタが増幅し、マルヒトが指向性を与える。ただの推察だったが間違いは無かったようだ。実地訓練では再現が出来ていたが、漸く実戦でも有効性が確認された。十二分に殲滅兵器として使える」
「自分も、これほど効果的とは思えませんでした。我々が彼らを引き取って1年半ほどでこの成果とは。訓練の結果、エネルギーをある程度指向性を持たした範囲にする事が出来たことが大きいですね。
ところで大佐殿、奥田少将への報告はどうなさいますか? 今までの経緯も含めて再三の状況報告を求められており、このままでは不信がられます」
「俺の方で適当に上手くやっておく、お前はつまらん事を気にするな。それより実戦経験をもっと積み上げないとな。ふふふ、本当にこいつ等の成長が楽しみだよ」
「……そうですね」
上機嫌な新見とは対象に安中の表情は暗い。元々暴走気味だった新名の行動が、子供達と出会ってから更に歯止めが効かなくなった。
安中はこうした新見の行動を懸念しているようだった。
最初の本土進攻を防止したのち、敵勢力は懲りずに何度も何度も本土進攻を繰り返した。
戦略的な判断が取れず、闇雲に行動している様だった。
その度、マルヒト、マルフタが出動させられ殲滅作戦を繰り返した。そして二人の目の前で大勢の人間が死んでいった。
マルヒトは何も感じていない様だったが、マルフタの方はその光景をみて、暗い表情をする様な変化を見せ始めた。
そんな時、問題が生じ始めた。
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