60)過去編-6(子供達との出会い)

 修一と早苗の亡骸を見て激しく後悔をした弘樹と薫子は新見と安中に対して、大御門家の事を語った。しかしその情報は新見と安中が知る以上のものではなかった。


 元々大御門家に関わろうとしていなかった二人は、この裏の事業に関しては全く情報を持っていなかった。


 そこで新見は例の“子供達”について確認させる事にした。



 “お見せしたいものがあります”



 と、新見に言われて連れてこられたのが、先ほどの部屋より下層の部屋であった。古い地下壕を改造して作られたというその部屋は頑丈な扉がありその前には武装した兵士が左右に緊張した様子で立っていた。


 「……実は先ほど“事故”が生じまして。警戒態勢に入っています」


 新見に同行する安中が弘樹と薫子に語った。


 「詳しい事は中で」


 不安そうに顔を見合わせる二人に新見が軽く制した。


 「安中、扉を開けろ」

 「了解しました」


 安中が新見の指示で壁に埋設されたキーボードから暗号を打ち込み、扉を開いた。


 部屋の中は教室程度の広さで、大きな保育器が置いてあった。その脇に、この場に不自然だが、石でできた祭壇と砕けた石の玉が置いてあった。


 「どうぞこちらです」


 新見に促され部屋に入る二人。


 「先に申し上げますが、アレを見ても大きな声を出したりしないで頂きたい」


 そう言われて見せられたのは、保育器で眠る一歳くらいの男児と、男児に抱えられて眠る女児だった。但し女児は体がなく、代わりに動物の足のようなものが何本も生えていた。


 「ヒッ!!」

 「ウワッ!」

 「お静かに!」


 大声を出しそうになった二人を安中が制した。


 「驚くのは分かりますが、どうかお静かにこの子達は危険です」

 「この子達は大御門家の爆発現場より発見されました。いや、むしろ我々はこの子達こそ大御門家の爆発要因だと考えています」


 「……何、言ってるんですか? そんな事出来る訳ないでしょう!」

 「弘樹さん、落ち着いてください。我々も信じがたい状況ですが、この子達をこの駐屯地へ運び関連性が確認されました……少なくない犠牲も生じましたが」

 「どういう、事です?」


 安中の説明に疑問を持った弘樹が聞いた。


 「順番にご説明します。まずお二人とも、この子達の顔をよくご覧になってください。誰かに似ていると思いませんか?」


 「初めて見るが、この顔は……早苗と修一君の子供か!?」

 「……ですが、弘樹お兄様、早苗が修一君の子供を妊娠した事は聞きましたが、確かまだ4か月目だった筈です」


 弘樹と薫子は驚きを隠せず、戸惑いを見せた。それは当然であろう。目の前の子ども達の顔は明らかに修一と早苗に瓜二つと言っていい程似ている。しかし生れでる時期では無いのは明らかだった。その様子を見た新見は安中に二人に説明をさせた。


 まず、遺伝子検査を行った結果、子供達が修一と早苗の子供である事が間違い無い事を説明した。


 次に爆心地付近を捜索した結果、研究室跡より爆発直前の画像記録が見つかり解析した事。そしてこの駐屯地で起こった事を説明した。


 「2082年4月21日の事故発生当日の画像記録からの解析により、あの爆発はこの子供達が起こしたものと考えられます。もっとも、爆発の以前に女児が目を覚ました際、多くの者が昏倒した様子が記録されています。その昏倒した事実をみて大御門の研究員達は子供達を焼却処理しようとし、結果あの爆発が生じたと考えられます」


 「ちょっと待ってください! ニュースでは僕らの家は敵性軍事組織のテロにより爆破された可能性が高いとありました! そもそもこんな小さな子供に一体何ができるっていうんです!」


 安中の説明に我慢できず弘樹は反論した。そこに新見が割って入った。


 「情報はフェイクです。お二人はご存じないかと思いますが、あなた方の父の剛三氏は政府の要請を受け、敵性勢力への対応を一部担って頂いておりました」

 「……どういう事ですか? 意味が、意味が分りません」


 青ざめる薫子に新名が説明を続ける。


 「つまり大御門剛三氏は政府の要請を受け、新兵器開発を行っていました。結果、剛三氏は新兵器の開発には成功したものの、あの爆発を引き起こしたと言う訳です。

 テロの情報がフェイクなのは当然でしょう。まさか政府の要請で地方財閥とはいえ、個人の大御門剛三氏に新兵器開発を依頼し、その結果、暴走させたとは政府としては発表出来ません。

 従って政府上層部はこのフェイク情報を喜んで採用されました。その方が今の“民意”に沿っていると」


 新見は自らの説明に敢えて自衛軍の関与をぼかして二人に説明した。


 「腐っている!!」


 弘樹は強く憤慨した。しかし新見はどこ吹く風で説明を続ける。


 「ですが、あなた方お二人にとっても、その方が都合がいいと思いますよ」

 「……どういう意味ですか」


 「分かりませんか? 今回、大御門剛三氏が起こしたこの実験による事故。死者行方不明者は分かっているだけで350名以上だ。被害総額は軽く見積もっても300億円以上でしょう。中枢陣が瓦解した大御門家ではとても対応出来るモノでもない」


 「そうかも! そうかもしれませんが!」


 「あなた方二人が遺産相続を廃棄すれば、あなた方の責任は回避できるかも分かりません。しかし政府の発表はあなた方が何をしようと、今更変わらないでしょう。今、我々にとって問題なのは其処では無く子供達の処遇です。あなた方が子供達を引取る権利を放棄するとなれば、あの子供達は我々が預かる事になるでしょう」


 ここで新見は薄く笑った。新見の言葉に噛みついていた弘樹も漸く新見の真意が分かった。


 だが、答えは決まっていた。弘樹もそして薫子も。


 「私達は大御門家の問題からもう逃げません。そして早苗と修一君、二人の子供さんは大御門家が責任を持って面倒見ます」  

 「薫子、僕も同じ気持ちだ。早苗と修一君の子は僕らが守るべきだ」


 二人の決意を聞いた新見は本当に嬉しそうに笑みを浮かべ、横に居た安中は気まずそうに俯いた。


 「良かった! 本当に良かった! 大御門早苗さんと 八角修一さんのお二人のお子さんはやはり、ご家族の縁に近い方に面倒見て頂いた方がお子さんの教育にとっても良い判断だと思います! ……それが普通の子供ならばね」


 ワザとらしく新見が心底嬉しそうに語る姿に弘樹と薫子は気味が悪くなった。


 「お子さんは余りにも元気すぎまして。コンクリート地盤ごと搬送した際は良く眠られていましたが、駐屯地に着いた所で目が覚めた様で、途端に28名が昏倒しヘリと、軍用車がおシャカになりました。

 幸い昏倒した28名は処置が良かった所為か、呪いが弱かったのか一命は取り留めましたが、昏倒した乗務員によりヘリと軍用車が誤発進しました次第です。

 寝起きで2個小隊を壊滅させるなど将来が楽しみなお子さんです!」


 新見の嫌味に、弘樹と薫子はフリーズした。


 「新見大佐、お戯れが過ぎます。幸い、死亡事故は無く物的被害のみです。我々としても危険は覚悟した筈です。むしろこの程度で済んで僥倖だったと思われますが」


 新見の悪い癖を制した安中が弘樹と薫子に語りかけた。


 「我々としては大御門家の協力が得られることは大変有り難いと考えています。お二人には例の“子供達”の状況を確認頂き今後の対応を考えていきたいと考えています。まず、発見当初の様子ですが……」



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