45)石言葉
二人は都心部にある大きなショッピングモールに行く為、電車に乗った。小春達が住まう町から目的地まで大体30分位掛かる。
小春は沢山の人が集まる所は苦手だったが母恵理子が好きな雑貨店がショッピングモール内にある為、母のプレゼントを買うならその店にしようと考えていた。
もっとも半分以上は玲人と一緒に出掛ける為の自分への言い訳だったが。
ショッピングモールに着いた小春達は立ち並ぶ洒落た店舗を眺めながら、目的の雑貨店に向かう。その途中アクセサリーショップでとても可愛らしいネックレスを見つけた。
定番のオープンハート型のモチーフだが、ハートの中に美しい桜色のシャンパンガーネットがハート型に加工され輝いている。
少し子供っぽいデザインだがそれを調和する様に桜色のガーネットが余りに美しい透明感を魅せている。
「……」
小春は我を忘れてそのネックレスに魅入っていた。しかしネックレスの値札を見て一瞬で現実に戻された。その金額は小春のお小遣い一年分以上だったからだ。
小春は小さくため息を付いて店を離れようとトボトボと歩き出したが……
「……そのペンダントを貰おう」
後ろから玲人の声がしたので慌てて振り返ると、玲人が店員にお金を払っていた。
「えええ! れ、玲人君! なな何してるの!?」
「小春のペンダントを買った」
「そそそうじゃなくて! あのペンダントはとっても高いのよ!」
小春が金額の事を気にして慌てて制止しようとしたが、満面の笑みを浮かべた店員が“有難うございました“とお金を受け取り、あの桜色ガーネットのネックレスは別な店員がケースから出そうとしていた。
「玲人君! あああんな高価なモノ、受け取れないよ! 真紀さんにもこの服買って貰ったし、幾らなんでもいけないよ!!」
「気にするな、小春。俺は君に礼がしたかった。本当は叔父と良く行く寿司屋に連れて行こうとしたが、レストランに替わったからその代りだ」
そう言って玲人は小春の頭を優しくポンポンとはたく。
「それに仁那からも小春自身が喜ぶ事をしてやれ、と言われていた。俺は食い物以外浮かばなかったから、小春があのペンダントを欲しがるなら丁度良かった」
小春はここに居ない仁那の気持ちに感謝したが、同時に高額な金額がどうしても気になって食い下がる。
「だけど、わたしあんな高価のモノ貰う訳には……やっぱり駄目だよ……」
「大丈夫だ。小春は薫子さんから俺の事をある程度聞いていると思うが、俺は軍の仕事をさせて貰って10年近くなる。こう見えて其れなりの収入と貯蓄がある。だからそんな心配は不要だ」
「……だからって……わたしこんな事して貰って何も返せないよ」
「小春からは既にして貰ってばかりだ、俺だけでは無く仁那も。だから気にする必要は無い。それとも迷惑だろうか?」
「迷惑な訳なんか無いよ! ……その、こんな高価なの、本当に貰ってしまっていいの?」
すると玲人はまた、小春の頭を優しくポンポンとはたいて言った。
「元より俺にはいらないし、知っていると思うが仁那にも使えない。だからそれは小春のモノだ」
「……ぐすっ、うう……嬉しい……れい、と君……本当に、本当に、有難う……」
小春は玲人の“小春のモノ”という言葉がとても嬉しく思った。玲人は仁那の事を常に最優先に行動している。
だから、このネックレスも仁那から小春に礼をする様頼まれたからこそ自分に渡したのだと小春は分っていた。
しかしそれでも、小春だけの玲人のプレゼントは本当に嬉しかった。
「お客様? 今着けられますか?」
アクセサリーショップの店員が小春に促す。
「はははい、お願いします……」
小春は店員に玲人からプレゼントされた、桜色のガーネットのネックレスを付けて貰った。
「お客様、ガーネットには秘められた石の力が有ると言われています。その力は「情熱・熱意」です。恋愛においても、一途な愛を貫くことでパートナーと固く結ばれると言います。頑張って下さい」
付けて貰いながら店員にそんなエールを頂き、このネックレスをプレゼントして貰い本当に良かったと思った。
そして胸に輝くガーネットにそっと左手を添えて玲人へ自分の言えない気持ちを心の中で伝えるのだった。石言葉の様に固く結ばれる事を願って。
その後、小春と玲人は目的の雑貨店にて、小春の母、恵理子の誕生日プレゼントを購入した。散々悩んだ小春だったが結局、いつも仕事で頑張る母の為にと少しでも疲れが癒せるようにとお洒落な感じのリードディフューザーを選んだ。
玲人も何かプレゼントする、と言ったが気持ちだけという事で小春は断ったが、高価な物で無いからと押し切られ、結局綺麗なエプロンを恵理子の為に、そして“妹さんにも”という流れにより可愛らしい財布を妹の陽菜を為に其々玲人に買って貰った。
目的の買い物を済ました二人は、ショッピングモール内の喫茶店にて寛いでいた。丁度ショッピングモール1階のガラス張り正面ホール近くの喫茶店だった。正面ホールその外側はバスも巡回する大きな駐車場になっていた。
小春はキャラメルマキアートを、玲人はコーヒーを頼んだ。小春はさっき玲人から貰った特大のプレゼント効果もあって、テンション高く会話を続け、玲人は聞き役に徹していた。そんな時、玲人が急に険しい顔をして立ち上がりガラス張り正面ホールをじっと見つめる。
「…………」
小春は急に雰囲気が変わった玲人に驚いて玲人に問い掛ける。
「……どうしたの、玲人君?」
「……嫌な感じ、がする。激しい敵意……極度の緊張、焦燥と憎しみ……」
「え、なんの事……」
“ガシャーン!!”
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