33)模擬戦-6
そう呟いた前原は一本背負いで投げられ、仰向けの状態だったエクソスケルトンを立ち上がらせようと状態を起こすと……
カン!
甲高い金属音の後に、突然視界が派手な蛍光色の何かに奪われた。ペイント弾によりエクソスケルトンの頭部に設置されているカメラが視界不良となった結果だった。
「クソ! カメラが……赤外線カメラも!」
『前原さん……降伏してください』
玲人が投降を呼び掛ける。ペイント弾により視界を奪われ、このままでは出来る事は殆ど無い。
しかし、前原はこの程度で諦める男ではなかった。
「甘いよ! 玲人君!」
そしてエクソスケルトンの頭部と胸部を開放した。エクソスケルトンは頭部を後方に跳ね上げ胸部を開く事で搭乗できる。
前原は自身をむき出しにしてエクソスケルトンの外部カメラに頼らず、直接玲人を視認して戦闘を続行しようとした。
前原は玲人が降伏を勧めた際、ある予想をした。玲人は必ず、目の前に居るだろうと。そしてその読みは的中した。
前原の目視でも玲人が装着するスーツの迷彩機能による透明な輪郭が見えた。前原は、エクソスケルトンを操作し両腕で玲人をしっかりホールドした。ホールドした瞬間に迷彩機能は不具合が生じた為か、消失し黒いスーツ姿の玲人が現れた。
「今だ!! 伊藤さん! 垣内さん! 攻撃、お願いします!」
『了解!』
『玲ちゃん! 覚悟してね!』
前原はこのポイントにて3か所から同時に玲人を仕掛ける算段だった。
玲人の攻撃により後方に下げさせられ、捕獲役になった為、前原は攻撃出来なかったが仕方の無い事だった。
“ダダダダダダダダ!!”
エクソスケルトンの両腕に確保された玲人は志穂の操る3体の“犬”と伊藤からの攻撃をる。“犬”からは軽機関銃からの一斉射撃を、伊藤からはスナイパーライフルに於ける狙撃を受けた。
本来なら此処で玲人はペイントだらけになっている筈だった。いや、至近距離の為、いくら防弾性能のあるスーツを着用しても、重傷は避けられない無い状況だった。
しかし、そうはならなかった。ペイント弾は弾け派手な蛍光色を撒き散らしている。
ただしそれは……空中で。
玲人の周りに、薄く白い光を放つ球状の“壁”の様なモノが出来ており、その“壁”にべったりペイントが付着していた。
「……何だよ……これ……」
前原が目の前の様子を見て言葉を失う。
『……昨日坂井少尉が言われていた“壁”って奴だろう……対戦車ロケット弾を凌いだという……凄まじすぎる……』
『ああああこがれのバリヤー来たー!!』
伊藤と志穂は感嘆の声を上げた。それに対し玲人は無言で両手首のリストバンドと腰の収納部より大量のタングステンニードルを空中に浮かし、玲人の頭上に輪の様に円形に整列させた。
「なんだ、何が始まるんだ?」
『針?』
『天使の輪っかみたいだね……』
『……此方からも攻撃させて貰います』
玲人は静かにそう言って、頭上に並べたタングステンニードルを発射した。
“ガガガガン!”
3体の“犬”はカメラと全ての関節部を貫かれ、ほぼ同時に操作不能になり転がった。
『うわ! またやられちゃったよ!』
そんな志穂の叫びを聞く前に伊藤は再度、狙撃銃を構え反撃していた。
“ダーン!”
伊藤の発射したペイント弾は玲人の胸部に当たる筈だった。しかしペイント弾は玲人が展開する“壁”に阻まれ玲人自身に届かない。
(あの壁は玲人君が攻撃中でも常時展開されるのか……B級のSF映画では敵艦攻撃中はバリアを消してたんで、試してみたが所詮はフィクションだな……)
そんな事を狙撃銃のスコープ越しに玲人を観察しながら伊藤は考えていたが、ある事に気が付いて戦慄した。玲人がこっちを見ているのだ。
(……バカな……有効射程の短いペイント弾の為、実戦より近づいての射撃とはいえ目視できる距離では無い筈……気のせい……)
“ガキン!”
伊藤が思慮している際に、小さな衝撃音がしてスコープ越しの視界が消失した。伊藤が狙撃銃を見てみると……光学スコープのレンズの真芯に5cm程度の銀色の針が刺さっていた。
「気の、せいじゃなかったな……隻眼……噂通りじゃない……噂以上の怪物だな……」
伊藤はこの時点で、ペイント弾の使用を諦め、対軽装甲車にも使われる強力な大口径のスナイパーライフルの使用を決めた。
「なんてこった……同時攻撃も、通じねーのか!」
前原が思わず呻(うめ)く。
「だが、模擬戦は終わっていない……このまま拘束したまま捕縛して終わらせて貰う!」
前原はエクソスケルトンの両腕を操作して玲人を強く拘束しようとした。
しかし、エクソスケルトンの両腕が玲人の膂力に押し負け、左右に徐々に広がりだした。
「……エクソスケルトンの腕力は車を簡単に圧潰出来るのに! 何で押し負けてんだ!」
遂に玲人はエクソスケルトンの手を大きく広げさせた。エクソスケルトンの腕は人間の胴体より太いが、それを細い玲人の腕が押し返している。何とも現実離れした光景だった。
玲人はエクソスケルトンの両手を突き放す形で拘束から逃れた。そしてそのまま大きくバク転して、前原のエクソスケルトンから距離を取った。
「今度はこちらのターンです」
玲人は残っていたタングステンニードルを前方に一列に配置させ、一斉に発射した。100本近いニードルはエクソスケルトンの両手両足関節の金属ケーブルに突き刺さった。
“ガガガガン!”
金属製のフレキシブルチューブに構わず突き刺さったタングステンニードルはエクソスケルトンの動力や信号を伝える各種ケーブルを破壊し、エクソスケルトンは完全に動作不良に陥った。
「参ったな……エクソスケルトンが此処までしてやられるとは……」
「前原兵長……自分の勝ちで良いですか」
「沙希はこの時点で負けを認めたんだろう」
「……ええ。エクソスケルトンのケーブルを切断した時点で負けを認められました」
「……だったら、俺は此処より先で抗う!」
そう言って前原は腰に携帯していた小銃を玲人に向ける。入っているのは実弾だ。
「見事な覚悟です、前原兵長」
「君には通用しないだろう。だが、だからと言ってここで諦める選択は俺はしない!」
そう言って前原は発砲した。
”ダン!”
しかし前原の予想通り小銃の弾は玲人の眼前で停止していた。
「お返しします」
玲人は安全の為、敢えて前原に伝えてから停止した弾を高速移動させた。その弾は発射された小銃に跳ね返り、小銃を弾き飛ばしたのだった。
そしてほぼ同時に玲人は沙希から貰ったペイント弾を発射し、前原の左胸に命中させた。前原に着弾直前に動きを緩和させ衝撃を緩和してから着弾させたのだった。
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