第203話 サイ、密談す
フォルナリーナとスリアン、セラヤの三人が思いがけない女子会に花を咲かせているちょうど同じ時刻、サイはユウキと共に正体不明の潜水艦の甲板によじ登り、開け放ったハッチを睨みつけていた。
「な、あそこで話題にしなかった訳がわかっただろう?」
「これ、どう見ても水密ハッチですよね……」
「なあ、俺の専門は建築で、
「僕だって
「軍艦に乗る高校生……それも十分レアだが。で、どうだ?」
「ええ、僕が見た自衛隊の潜水艦にくらべるとかなり小ぶりだし、艦橋も低いし、なんだか妙に平べったいですね。ハッチの厚みからみても、それほど深く潜れるようには見えません」
「と、なると、本格的な潜水艦ではなくて、密輸や密入国専用の半潜水船なんだろうな。船体をぎりぎり海面下に隠して監視の目をあざむくような構造なんだ……と?」
ユウキは半分ひとりごとのようにつぶやきかけ、ふと、何かに気付いたように振り返ってサイの全身を上から下まで眺め回す。
「……高校生?」
「あっ!」
サイは失言を突っ込まれ、故郷から幼馴染みと共に王都に登ったところから、女神に放り込まれた異世界日本でのあれこれ、そして再び帰還してからこれまでの出来事を洗いざらい話す羽目になった。
とはいえ、理彩の
半潜水艇のほの暗い操舵室で二人。薄く目をつぶり、腕組みをしてじっとサイの話を聞いていたユウキは、長い一人語りが終わると深くため息をついて頷いた。
「さもありなん……って感じだな」
「さもあり……?」
「ああ、俺は、君のその幼い見た目と、時々のぞく妙に老成した雰囲気とのギャップを正直不気味に感じてた。でも、今の話で理解できたよ、それだけ修羅場を経験していればね」
「理解できた……って、自分で言うのも何ですが、荒唐無稽な話ですよ? どうしてそんなにあっさり信じるんですか?」
目を丸くするサイに向かって、ユウキはニヤリと口角を上げて面白そうに問う。
「じゃあ逆に聞こうか。君は、異世界から突然迎えに来たお姫様にさらわれて、気がつくと魔法使いになって国を取り返す手伝いをする羽目になりましたよって言って信じるかい?」
「それって?」
「そう、俺」
「魔道士ユウキ、ご自身のことなんですか!? 何ですかそのラノベ」
「だろ? 自分がまるで小説みたいなあり得ない展開を散々実感してるんだ。他人の体験を簡単に否定なんてできないよ」
あっさりとそう結論づけると、ユウキは改めて操舵室を見渡し、この世界の技術レベルをはるかに超えた異様な眺めに小さくため息を漏らす。
「それよりこれだよ。ここは操舵手の席だと思うけど、目の前のこれ。見た目は単なるガラス板だが、これ、どう考えてもディスプレイだろう?」
「そう、見えますね」
「だとすると、この船の動力は、この世界で一般的な風や人力なんかじゃない。
そこで言葉を切ってコンソールをパシンと叩く。だが、サイの方はユウキの言い分に違和感があった。
「ですが魔道士ユウキ、図書館都市マヤピスの地下に隠されたあれはどうなんです?」
「アーカイブのことか? それとも、医療施設のことかな?」
「どっちもですよ。あれこそ、オーバーテクノロジーってやつじゃないですか。あっちが良くてこっちが悪いというのは……」
「ああ、そう言えばそれも頭が痛いんだよなぁ」
ユウキは困り果てたようにゴシゴシとあごをこする。
「君は科学文明について理解があるからこの際ぶっちゃけるけど、この世界はそもそもおかしいんだよ。アーカイブに限らず、その鎧や短剣みたいな再現不可能なオーパーツがゴロゴロ転がっている一方で、人の暮らしは地球でいう中世から近世レベルにとどまっている。この世界にオーパーツをもたらした連中はそうとうな規模で最新テクノロジーをこの地に持ち込んだはずなのに、今や誰もそのことを覚えていないんだ。変だよね」
「そういえば、以前魔道士学校の校長に聞きました。魔道士ユウキは超古代の灌漑システムを復活させた、と。それがオラスピアの躍進の弾みになったと」
「ああ、〝農夫〟の遺跡だね」
ユウキはすっと視線をそらし、どこか懐かしい景色を見るような遠い目つきになった。
「そう、忘れ去られ、国境の砂漠に埋もれてたんだ。あれだけの農産自動化システムが放棄されたのも変だし、おそらく数世紀は放置されていたシステムがあっさり動いたときにはもっと驚いたよ」
次々に聞きたいことが増えてサイは困惑するが、ユウキは構わず話を続ける。
「俺は、この世界は何者かに〝創られた〟のではないかと考えている」
「え!?」
「いや、〝創られた〟という言い方じゃしっくりしないな。うん、この方がいい。ここは何らかのテストをするために用意された〝実験場〟なんだ」
サイは空いた口が塞がらなくなった。
「い、一体、誰が、何のために!?」
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