第71話 サイ、女王に呼び出される
タースベレデの王都に着いてすぐ、サイは街の中心街にある王都でも一、二という高級な宿屋の一室に放り込まれ、そのまま放置された。
いや、放置されたというのは正しくない。部屋の外には数名の兵士が入れ代わり立ち代わり昼夜を問わずずっと立番をしていて、サイ自身は一切の外出を禁じられた。要は体のいい軟禁だ。
口実を作ってどうにか外に出ようとしたものの、買い物に行きたいと言えば雑貨商が御用聞きに訪れ、服を買いたいと言えば仕立て屋が出張してくる。
支払いはすべてミスターゴールド持ちと言われてはさすがに文句も言いにくい。
考えたあげく、「観光したい」と言ったところ、エンジュが直接やって来て、少しは大人しくしろと叱られた。
「サイは特例で審査もなしに入国されたのですから、多少はわきまえてください」
「いや、でも、こうして僕を閉じ込めておく理由くらい説明して欲しい――」
「うるさいですよ。そもそも、こんな高級な部屋、普通は国賓しか泊まれないんですからね。三、四日外出できないくらいなんですか。我慢なさい」
と、終始こういった様子で、まったく取り付く島もない。
だが、さすがに子供を閉じ込めておくことに良心の呵責を感じたのか、カダムかエンジュのどちらかが、日に一度は顔を見せてくれるようになった。
「まあ、これもあと数日の辛抱だ」
ある晩カダムが言った。
「まあ、詳しいことは言えねえが、色々調べがあってな。これは決まりなんで省略できねえ」
そう言ってカダムはポリポリと頬をかいた。
「調べるって、何を?」
「そりゃあ、お前さんをだよ」
「僕が? 何か疑われてるの?」
「まあ、俺も魔道士との付き合いは少なくないが、多重魔方陣の使い手なんて聞いたこともねえ。その上数百以上の術式を同時発動だろ。まずはその真偽からきっちり調べられた。俺もエンジュも事情聴取を受けたんだぜ」
「え! ゴメン。迷惑を――」
「あー、気にするな。これも任務の一環だしな。それに、俺たちも一緒に組むなら変な……おっと、悪い、これ以上言えねえ。まあもう少し待ちな。悪いようにはしねえから」
最後は何だか歯切れ悪く話を打ち切ると部屋を出ていった。
そして翌日。なんと王宮からの使者が部屋にやって来た。
「女王陛下がお呼びです」
騎士の儀礼服をきた女性使者が深々と礼をした後、凜とした立ち姿で口上を述べた。
「は?」
「私とご一緒にお越しください」
「僕が? ですか?」
「あの……サイ・ヒエダ様でございますよね?」
どう見ても子供のサイを上から下までまじまじと見つめ、女性使者はここで初めてわずかに心配そうな表情を浮かべた。
「え、ええ」
「では間違いございません。さあ、お急ぎください」
促されるままに部屋を出て、まるで抱えあげられるように馬車に乗せられた。
馬車の扉に描かれているのはタースベレデ王家の紋章。その下にぶっちがいの剣が王家の紋を支えるように添えられている所をみると、恐らく王直騎士団のシンボルマークなのだろう。
だが、この馬車はハブストルから王都まで乗せられたような一般的な馬車とはずいぶん違う。第一に車体の色がつや消しの砂色で、車体の幅が狭い。車輪は大きくゴツゴツしていて、しかも車輪と車体の間に自動車のショックアブソーバーのようなごついバネと太い軸がついている。御者の席には分厚い装甲板もついていて、馬車を引く馬の体にも鎧が巻かれている。座席数は御者を入れてもわずか四つで、すべて前を向いているのが珍しい。
「これって、もしかして」
「はい、当騎士団の戦闘馬車です」
「あー」
何となく納得した。王直騎士団にかつて在席したと言われる雷の魔女。彼女は恐らく、理彩と同じ科学文明の世界出身だ。だとすれば、あの世界にあったオフロード用自動車の概念を持ち込んだとしてもおかしくはない。
「でも、これに乗せられると言うことは……」
「はい、郊外の演習場に」
サイはため息をついた。どうやら腕試しをさせられるらしい。
「では参ります」
隣の席に乗り込んだ使者がサイの体にシートベルトをかける。
「揺れますからご注意下さい」
次の瞬間、馬車は猛スピードで走り始めた。
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