第17.6話 御前会議、荒れに荒れる
翌日、緊急に招集された御前会議は最初から荒れ模様だった。
議題はタースベレデに対して行った宣戦布告の経過報告だった。
「内務卿、状況を」
王に報告を求められた内務卿は額に流れる脂汗を拭いながら渋々といった様子で立ち上がる。
「現在、国境地帯には我が軍の兵三万が布陣しております。
「どうした? 続けたまえ、内務卿」
「はあ」
「周辺の村々からの徴発は難航しております。どこも蓄えは乏しく、追加の兵糧は……」
「国内からの手配が難しければ、国外から仕入れれば良かろう。外務卿」
「不可能ですな」
会議の冒頭からずっと渋面を浮かべていた外務卿はその一言で切って捨てた。
「敵国タースベレデは当然ですが、大陸南部の商人自治区ペンダスが一切の協力を拒否しました」
「なぜだ?」
「あそこは、かつてタースベレデの王子が遊学しておられた場所ですぞ。有力な商人は完全に押さえられております」
「だったら、別の国に協力を依頼すれば良かろう!」
内務卿が口を挟むが外務卿の渋面は一向に晴れない。
「一体どこに! ですかな? 大陸東岸のウィーバは以前から不干渉を貫いておりますし、あてにしていた北東の島嶼国家ファルメンまでもが昨夏の不作を理由に食料の提供を拒否して参りました。唯一の希望がオラスピアでしたが……」
「そうだ。あそこは古代魔法を復活させて麦の増産に成功したではないか。多少の余裕だってあるだろう? なに、即位したての小娘など、軍船を向かわせて少し脅してやれば」
「内務卿、貴殿は本当に外交の才能が皆無でありますな。あの若き女王は民衆を率い、みずから剣を取って独裁者から父王の国を取り戻した武王ですぞ。半端な武力をちらつかせての脅しなど、それこそ鼻で笑われてしまいます。それにあの国には黒の大魔道士がいるではありませんか」
「で、では、マヤピスが……」
「マヤピスはオラスピアと永久友好条約を結んでいます。それに内務卿、オラスピアの黒の魔道士の本名をご存知ですかな?」
「そんなものなんの関係が——」
「アバン・ユウキ・タトゥーラ・マヤピス。伝説の魔道士ル・グオラ・マヤピスから図書館都市の叡智を受け継いだとされる人間ですぞ」
外務卿は心底馬鹿にした口調で内務卿を睨めつけると王に向き直った。
「私は当初より今回の宣戦布告には強く反対して参りました。お話しした通り、諸外国の協力は難しく、もとより
王は無言のまま外務卿に着席を促した。
「して、内務卿、アルトカルの説得はできぬのか?」
「はぁ」
内務卿の顔色がますます悪くなる。
「天候改変術式顕現のカギとなります魔道士見習いですが——」
「その話は朕も聞き及んでいる。貴殿が申しておった異民族の若者だな」
「はあ、それがそのぅ……」
内務卿の顔色は悪いを通り越してもはやどす黒い。
「先日、死亡が確認されました」
「貴殿の進言が成就したわけだな。で、それがどうしたというのだ」
「はあ、実を申しますと、術式の行使にはその男が持つ特別な能力が不可欠ということでして……」
王はピクリと眉を動かした。
「先日の貴殿の説明とはだいぶ異なるな」
苛立たしげに人差し指で机を叩きながら、王は内務卿をにらみつける。
「確か貴殿は、その若者を見せしめに処分すれば、アルトカルは恐れをなして大人しくなると述べていたのではなかったか? 結論から簡潔に述べよ。アルトカルが協力を拒否したのは貴殿の横槍が原因か?」
でっぷり太った内務卿は、もはや自分の体重を支え切れないほどガクガクと足を震わせていた。
「結果的にはそのように……」
王はため息をつくと、壁際に控える騎士にあごをしゃくる。
「内務卿を牢に」
「陛下!お待ちください! 今一度! 今一度私めに機会を!」
「機会はもうない」
王は無表情に吐き捨てると、身振りで内務卿を連れて行くように騎士に命じる。
「さて、この結末をどう……外務卿」
「アルトカルを説得する。それが叶わなければ、戦わずしてタースベレデに膝をつく。これしかございませんでしょう」
「そうか」
王は小さくため息をつくと立ち上がった。
「アルトカルの説得には朕が赴こう。貴殿はタースベレデに使者を使わして、まずは交渉の窓口を設けよ」
「は!」
外務卿は声と共に素早く立ち上がった。
「もう一つ、しばらくの間、貴殿には内務卿を兼任してもらう。この戦にカタがつくまで内政を掌握せよ」
「心得ました」
外務卿はそれだけ短く答えると、足早に部屋を出ていった。
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いつも応援ありがとうございます。
リクエストがありましたのでサンデッカの悪い奴ら(笑)の顛末を少し挟みます。
ザマアと言うには少し規模の大き過ぎる話になっちゃってます。
後で動かすかも知れませんので、話数は小数点以下で刻んでおきます。
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