誰何

「極論を言えば……そうだな。大砲を徹底的に小型化したもの、と言うのか」

「火薬も無し。砲弾も無し。小型化し過ぎて威力も足りん。撃ち出す為の機構は納得できたが、しかしこれが何の役に立つ?」

「無いよりマシ、だろう? それに、この規格で火薬を採用し、弾頭を作る事さえできれば──まさしく革命が起きると思わないか?」

「ふん。……期待はしないでもない。鍛造に時間を寄越せ。ここまで精密かつ小型で複雑となると、各部の調整も短期間では成らん」

「初めからそのつもりだよ。ああ──コンセプトと大まかな形状こそ伝えたけど、」

「核が無い。抜けている。俺の勘がそう言った。全てを明かす気はない、という事か?」

「まだ早い、という事だよ。先も言ったが、これはこの国にとっては先鋭すぎる。革命が起きる程の発想が、それこそ僕の手を離れたらどうなるか」

「…………得心はいかんが興味はある。良いだろう──乗ってやるとも」






「済みましたか?」

 店を出て、すぐの声。

 くるりと青年は振り返り、知った顔と声で一安心。

「済んだよ。ありがとう、クラウ。目的は浮かんだばかりだったけど、それは即座に果たされた」

「お気に召したようで、何よりです。バロンはぶっきらぼうですが、少しでも信用ならないと見ると一言も口を開きません。彼も、貴方の事を気に入ったんだと思いますよ?」

「気に入られてるのかなあれは……」

 嘆息。人の心は読み難い、と零すレウィン。

 反面、その表情を読む気も無く、ゼファーからは不満が漏れ始める。

「……腹減った。雇い主さんよ。飯」

「ん?」

「おや──時間を忘れてしまいましたね。失敬」

「ん……。確かに昼までは用意するとは僕が言ったな。しかし──んん」

 遠目に雑踏を眺めながら。

 人通りに欠ける付近を流し見て。

 少し前の、人に揉まれた現実を思い出し。

 ……青年は自分の足で歩く事を放棄。懐から金貨を一枚引っ張り出し、軽くゼファーに投げ渡す。

 やや逸れた方向に飛んだソレを、しかし彼は難なく受け止め。

「なんだこりゃ。解散か?」

「それを給金としたいならね。──やや約束を違える形にはなるけど、君に昼食の調達をお願いしたい。僕より君の方が、この街を歩くのは向いていそうだ」

「……へぇ」

 にやり。

 釣り上がった口の端に、僅かに恐怖を覚えたのは、

「──使い切るぜ、これ」

 ……どうやら間違いとは言い切れないようだ。

 手に金貨を握り締め、ゼファーは軽く喧騒へと足を突っ込んでいく。

 数秒それを見送り、雑踏に紛れて姿が見えなくなるまで待ち──一息。

「クラウ」

「はい?」

 生まれたいくつかの疑問を。

 青年は、麗人に叩きつける。



僕を・・どこまで知っている・・・・・・・・・

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