商店街
二人揃って、協会を出るまでの見送りまで貰ってから。
日が昇り、喧騒が溢れ出した大通りへと踏み出して。
「目的はあるんだけど……ゼファー。この辺り、詳しいかい?」
「ぜんぜんまったくこれっぽっちも。むしろ、お前こそ知らねぇの?」
「残念ながら全くだよ。土地勘については、……似たり寄ったりみたいだね」
東の国。
よく整えられた、道の真ん中。
ともすれば、雑踏に飲み込まれそうな。しかしそれは、ゼファーの威圧感によって──本人は無自覚の様だが、獣じみた剣呑な目付きや剣柄を常に確かめる右手は、間違いなく臨戦を維持する戦士のそれである──むしろ人混みが分かれていってしまっている。
ふむ、と一息。情報収集という意味では失策かもしれない、と状況を改め、レウィンはふらりと歩き出す。
「おいおい、どこ行くんだよ」
「目的はあるんだよ。人が多く流れる方へ行けば大体は当たるだろう。雑貨店、或いは冒険者が欲しがる道具屋、そのあたりか」
説明をしながら足は緩めない。
ただ歩幅か、ゼファーが追いつくまでに時間はかからず。むしろ追いついてから足を止め、また歩き出しを繰り返している。
面倒そうな顔を隠そうともしないが、青年はそれに気付かない振りか──或いは、本当に気が付いていないのか。
「後ろ暗い所にはもう向かいたくないからね。綺麗な所には、いつも綺麗な物が集まるんだ。まずは、人の流れに身を任せてみよう」
てくてく、という足と。
どかどか、という歩幅。
対象的に見えて、あまりに噛み合わない足取りは、しかしそれでもお互いを振り切る事はしないまま、向かうは東の国の東南の辺り。
誰もが一度は足を運ぶ、国内最大規模の商店街である。
「使い捨ての剣なんて言うんじゃねぇ! 武器は二本で使い回すもんだ!! ローテも初期投資もこっち来い新人冒険者!!」
「いや、武器は殆ど使える腕が無くて──」
「基礎は良い体だな! だが鍛えるだけの素材が無ぇ、肉食え肉!」
「モノ食える金なんざ無かったんだよこちとら!」
「なんか見ない格好だね? こっち来な、服ならいくらでも見立ててやるから!」
「既に足りているからお断りさせて──」
「なんだその目はァ! 闘るか!?」
「殺ったらぁ!!」
「やるな! ゼファー、売られた喧嘩を買うんじゃない!!」
人目も気にせず地に膝を付き。
さらに両手で地面を掴み。
必死に呼吸を整える、異邦の青年。
「……商魂たくましいのと勧誘がやかましいのと血の気が多いのを一緒に相手するのは流石に初めてだよ……」
「あーその……すまん」
「油断していた僕も悪かったから何も言えない……」
商店街へ踏み込み、三十分も経っていないだろうか。
人に揉まれ、呼びかけに答え、既に疲労困憊である様子。
「そうだよな──人は多いんだ。人が集まるなら当たり前だった。君にもいくつか、構えておいて貰わないといけなかったな」
「……いや、つい」
ふぅ、とようやく上体を起こし。
目的を取り返そう。一言そう呟いて。
「道具屋、らしき所とか……見つかるかなこれは。先に人に捕まりそうで、満足に進まない気がしてきたぞ……」
「歩き慣れていない様子ですね、異邦の方よ。──このくらい、この辺りでは日常ですよ?」
そんな二人に。
明確に話しかける声が、ひとりぶん。
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