理解

「……仲良さそうだな? 初対面かと思ってたよー」


 ごとり、と料理が二人の目の前に置かれる。

 それは注文の品。しばらく笑い合っていた二人の意識はそこに注がれ、特にゼファーは今にも顔を突っ込まんばかりに前のめりで。

「初対面だよ。なんだろうね。この男とは、何故か上手くやっていける気がしている。不思議な感覚だ」

「食っていいか?」

「構わない。冷める前に美味しく頂くのも礼儀だろう。──お釣りは?」

「あいよー。金貨ポンと出される上に急に二倍とか、悪い事じゃないけどさー。昼時にいきなりやるのは勘弁してくれよー?」

 どふ。

 結構な手応えの財布が、料理の横に雑に投げられた。

 レウィンはそれに目を向けながら、中身を改める様子も無く、まずはまだ湯気の昇る料理に手を付けていく。

 細かく切られた獣の肉。見た所は豚の肉か。それと野菜がまとめて火を通された、シンプルな肉野菜炒め。

 ところどころの焦げ跡は、好みが出る程度だろうか。香辛料の香りは湯気に乗り、空腹を思い出した体に食欲を溢れさせてくる。

「──いただきます」

 はくり。

 フォークで野菜をかき集め、ひとくち。

 ふむ、と小さく頷きながら、ふたくち。

 無言のまま、或いは小さな声を漏らしながら、はくはくと口に運ばれる。

 ……背中越しに見てもわかる程に「美味しい」という声が聞こえてきそうな姿に、カウンターで皿洗いに戻った少女の口も、ほんの少しだけほころんで。

「変なヤツとか言って悪かったなー。……良いヤツに格上げだー」

「? ああ、気にして居なかったから構わない」

 一往復の会話。

 それからすぐに食事に戻る。無言。ただ手は止まらない。

 反面、がっつくように料理を口に押し込んでいたゼファーは、もう既に食べ終わっていたようで。

「ふぃ……物足りねぇけど、久々にまともなもん食ったぜ。さんきゅ」

「──例は彼女に言ってくれ。僕は正当な対価を払っただけだ」

「レイラ」

「ん」

 食器が擦れ合う音の中で、確かに少女の声を聞いた。

 口元を拭きながら顔を上げる青年に、にま、と口角を上げつつ、彼女は言葉を繰り返す。

「冒険者協会併設『小鳩亭』のレイラ。私の名前だー。顔と名前を売っておけば、常連になってもらいやすいからなー。思い出した頃に金を落としていってくれよー?」

 ……商魂というべきか。初めから名乗らなかったのは、興味が無かったが故なのか。

 少し遅れて皿を空にしたレウィンは、カウンター越しにそれを渡し、小さく笑いながら。


「ご馳走様。美味しかったよ。──贔屓にさせてもらう」

「おうさ、覚えておくぜー。新人冒険者のレウィン」

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