進歩へと

 あまりに寒くて、途方に暮れている。冬の寒さと、異常気象の危険な霧。浮遊するガラスをたっぷり含んだ空気が柔肌を満遍なく傷つける。足首を風が撫でる。赤い手を擦り合わせる。雨の跡がくっきり残ったアスファルトがてらてら翳って、曇り空は空々しい。

 寒さは眠気を引き連れる。まだ覚醒しない目の奥に、見たことのある光景が映っては消える。瞼を開けては映り込み、閉じて開いては別の光景に変わる。耳にまで幻覚が押し寄せるようだ。「さっき何か言った?」「……いいえ何も」嘘にしてしまった感情の原本をいまだ持ち歩いている。私は、過去の私を捨てきれていない。

 脚は回転する車輪のように一定の速度を刻む。歩行者のほとんどいない白線の外を、行先不明の車たちが通り過ぎる。私もまた行先不明の通行人なのだろう。向かう先がどこであれ、なんであれ、彼らも私も共犯だ。こんなちっぽけな箱庭で、どこかに行く必要なんてない。

 窓から人影が見下ろす。その様もぼんやりとしか見えない。一日中晴れない霧に覆われて、街は澱んでいて、呼吸するたびガラス片が肺に刺さる。暗くて寒くて痛い。靴がザリザリと地面を踏みしめる。

 適応、なんてクソくらえだ。傷を負っても好きにやりたい。

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