第17話 威容

“銀氷の穿ち手”での一幕と時を同じくして、ジェームズはついにベイリオンへと足を踏み入れた。そして目に入る光景、圧巻。

道行く人々の活気に満ち溢れた様相に、俺はただただ圧倒されていた。


(これは、すごいな)


俺は決して、田舎町からはるばるここまでやって来た、というわけではない。

むしろ、アトラス領はクラール帝国の中でも屈指の大都市だった。それでもこのベイリオンと比べると、やはりどこか寂れた雰囲気だったと言わざるを得ないだろう。


『確かにすげー熱気だな。ここまでの都市は俺の世界にもそうそうなかったぜ』


(そうだな、クラールとファーナム、違うのは環境、か)


立地も違えば置かれた状況も違う。同じく繁栄を手にした大国とは言え、日々寒さと魔族の攻撃に備える生活を送るクラール国民と、穏やかな気候と多くの国との貿易により豊かな生活を送るファーナム国民とでは、明らかに文化の成り立ちが違う。

だから俺のこの驚愕は、ちょっとしたカルチャーショックみたいなものだろう。


『なるほどな、だが活気のある街を拠点にするのは得策だぜ。得られる情報の数も増えるからな』


(もちろん分かってる。だからこの街で冒険者登録を済ませに来たんだ)


そうは言うものの、もともとは観光のつもりだった。昨日までのうだつの上がらない俺でも、この光景を見れば少しは心変わりしただろうか。


(とは言え、これだけの人だかりだと冒険者ギルドを探すのも一苦労だな...)


人混みを抜け、少し開けた道端で俺はそう思った。


『ん?おい坊主、お前まさかこのまま冒険者ギルド探しに乗り出すつもりか?』


(そのつもりだが...なんだよ一体)


要領を得ない発言だ。まるで、信じられない。とでも言いたげだが、何がいけないと言うのか


『いやお前、自分が今の今まで全力疾走してたことを忘れたのか?お前の身体はもうとっくに限界を迎えてる。道端でぶっ倒れるよか宿のベッドで気絶した方が体力も回復するだろ』


言われてみれば確かにその通りだ。というか、なんで俺はあれだけ走り回ったことを考慮しなかった?走り過ぎて判断能力も曖昧になっているというのか?

いや、今の俺は明らかに疲労を感じていない。これは興奮して疲労を感じていないだけなのか...どちらにせよアルザードの言葉は正論だ。今疲労を感じていないだけで、俺の身体はいつ倒れてもおかしくないだろう


(...その通りだな。ならまずは適当な宿を探すか)


考えることをやめた俺はアルザードにそう言うと、再び人混みに溶け込んだ



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