第16話 交差
マーリンとの会話から数時間が経ち、俺は未だに山道を駆けていた。途中で休憩と称した乗っ取り(アルザードによる)が何度かあったが、俺はこの厳しい道のりに屈することなく走り続けた。そして──
「あれが、ベイリオン、か....!」
ファーナム王国首都ベイリオン。流石の威容だ。それを確認すると同時に、フウゥと深呼吸する。
息も絶え絶えで、もうずっと肺が焼き切れるような感覚に襲われ続けた。久々の深呼吸に体中の血液が沸き立つようだ。
『しかし、大したもんだぜ、坊主。発破をかけることはあっても、制止するようなことにはならねぇと踏んでたんだが...いい意味で予想を裏切られた!お前の根性は中々のもんだ!』
まさかアルザードが褒めるなんて。だが今の俺の体力には頭の中とはいえ、言葉を返す余力すら残されていないようだった。
『...本当にやり切るとはな...これなら、ひょっとすると“リオン”がこっちに付くことだって...』
(リオン?誰だよそれ?賛成派の“勇者”か?)
『...は?お前、今の聞こえてたのか?』
(?マーリンもお前も変な事言うな、同調したら心の声が聞こえるって言ったのはお前じゃないか)
『...いや、そういうことじゃねぇんだが...まぁ、いいわ。予想よりずっと成長が早ぇってことだしな』
(なんだよ、煮え切らないやつだな)
なんだか釈然としないが、ベイリオンへ辿り着いても、アルザードはこのことについて話すことはなかった。
────その頃、ベイリオンでは
「団長!!前にも言ったけど、盗賊の退治依頼なんて木っ端依頼、俺がやるべきだろ!」
「...それ、言ってて恥ずかしくないの、レーム」
「...俺は団長と話してるんだ。お前は口出すなよ、チビ女」
「はぁ!?レーム、言ったらいけないこと言ったわね!」
「...騒々しいぞ、二人とも」
ピシャリ、と喧騒が鳴り止む。鶴の一声とはまさにこのことだろう。
「「いや、ラフタル(レーム)が!!」」
「「...」」
「「合わせんな(ないでよ)!!」」
「はぁ...もういい、君たちといると退屈はしないが、おちおち紅茶を嗜むことすらままならんな...」
そう言ってこめかみを抑える、美しい銀髪を腰まで伸ばした妙齢の女性─アンネローゼ
これは、彼女が運営するBランク冒険者クラン“銀氷の穿ち手”の団長執務室での日常の一幕だった。
「それで?レーム、君は私が盗賊退治の依頼を請け負うことに、不服を感じていると、そういうことだね?」
「!あぁ!団長、ベイリオンに5人しかいないAランク冒険者の貴方には、もっと相応しい依頼がある筈だ!それが、日がなDランクの木っ端依頼に注力しているだなんて...!ハッキリ言って時間の無駄です!もし、クランの体裁を保つためと言うのなら、俺が全て引き受けます!」
「ちょっとレーム!団長には団長の考えがあるのよ!それをそんなにべもなく...」
「いや、いいんだ、ラフタル。」
「団長...」
「君の言いたいことはわかった。」
「...!じゃあ!」
「だが、ラフタルの言うように、私には私の“野望”がある。それ故簡単に曲げることはできない。─だからこそ、レーム、君を信じるために一つ賭けをしよう。」
「賭け、ですか」
「あぁ、そうだ。君は今から1時間以内にこの“銀氷の穿ち手”に相応しい加入者を見つける。もし、時間内に見つけることが出来なければ、私の勝ち。この話はなかったことにする。」
「!それは...」
団長の新入りに対するハードルの高さは周知の事実だった。実際、過去に何度も多くの加入希望者をふるいにかけてきた。つまり、団長はこう言いたいのだ。団長である私に口出しできるほど、お前は成長したのか、と─
(上等だ...!絶対見つけてやる!!)
レームは団長の難題に人知れず闘志を燃やすのだった。
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