第10話 覚悟 中編

「そうそう!お母さんのお料理、すっごく美味しいんだから!食べないなんてもったいないよ!」


イザベラさんの言葉に便乗するように、メリッサがそう言う。彼女たちの言葉に、意思の強さを感じた俺は言われるままに食べ始めた。


(!これは...)


「どうだい?あたしの料理は。これでも料理の腕には自信があるんだよ!」


俺は料理の善し悪しを語れるほど舌が肥えているわけではないが、それでもこの料理がまずい。と言われる場面など想像できないぐらい満足の行く味だった。


「はい!こんなに美味しい料理、初めてです!」


「まぁ!調子のいいこと言うじゃない!おかわりもいっぱいあるから、たんとお食べ!」


「いいんですか!」


「えぇー!いいなー!あたしもおかわりー!」


「ちょっとメリッサ!ちゃんとお兄さんの分は残しとくんだよ!」


「分かってるって!」


(仲のいい家族だな...そういえば、親父とちゃんと話したこと、なかったっけ)


親父は常に忙しかったし、話す機会といえば鍛錬を見てくれている時ぐらいだった。

母さんも母さんで、スキルの唯一性から屋敷にいることはあまりなかった。


こういう家族らしい団欒は俺の経験には、ない。そして、もう経験する資格さえ失った


「あれ、お兄さんどうしたの?」


「へ?」


「涙、出てるよ?」


そう言われて初めて、自分が泣いていることに気づいた。


(あれ?なんでだよ...今まで気にしたことなかったろ。俺...)


きっと、心優しい2人に影響されたんだろう。気恥ずかしくなった俺は話を変えるように


「そういえば、なんで俺を助けてくれたんだ?あんな朝早くにさ」


そう、言った。


どう返事されるかはどうでもよかった。ただ話題を変えたいだけだった。なのに─


「あぁー!そんなこと!昨日ね、お父さんが夜遅くにお仕事で出かけちゃったの!お父さん、困ってる人を見過ごせない人だから、それでまた馬車出したんだろうって!」


「だから、いつ帰って来てもお迎えできるように、発着場で待つことにしたの!そしたら、お兄さんが倒れてて、そんなことしてる場合じゃないー!って!」


─俺の中で、何かが繋がる音がした。それは、決して繋がってはいけない点と点だった。


間を置かずに、それは強い衝撃となって俺を飲み込んだ。


「でもおかしいのよね...ベイリオンまでって言ってたから早朝には帰って来てるはずなのに、まだ帰って来ないの。もしかして─あれ?お兄さんどうしたの?さっきよりずっと顔色悪いけど...ねぇ、本当に大丈夫?」


(え?待てよ?これってつまり俺のせい?俺だよな。だって俺以外いなかったよな?ベイリオン行きって俺じゃんあの馬車俺のために出て、俺のせい、で、死んだ???)


「こりゃまずいね...体に悪いものなんて入れて入れてないはずなんだけど...」


「ちょっと、お兄さ─キャッ!」


メリッサの言葉を待たずに俺は走り出した。


『あーあー、逃げるのかよ?』


アルザードの声だ。


(あの場にいたら、きっとダメだった。俺はあの場所にいる資格はないし、償わなければ、心が持ちそうになかった。)


まるで言い訳だ、と自分でもそう思った。いや、実際言い訳だった。


『それで森まで走って来たのか...それで?遺品でも持って帰ろうって算段か?言っちゃ悪いが遺品はもう賊の手の中だろうな』


(関係ない。だったら探し出して、取り返す)


『お前に、そんな力はないがな』


(関係ない!死んでも取り返すんだ!!いるんだろ!?お前ら“勇者”の中に索敵に秀でたやつが!!)


『...まーいるっちゃいるけどよ』


(だったら問題ないだろ!?そいつの力で、絶対に...!)


『...なぁ、なんでそんなに必死なんだよ。別にお前のせいじゃねぇだろ、あれは』


(俺のせいなんだよ!あの盗賊は、俺を狙ってたんだぞ!?)


そう、紛れもなく俺のせいだ。今なら分かるが、親父はこうなる事を分かっていた。アトラス家の出来損ないが、追放される。噂にならない方が難しい。その上、大金を持たされ、一人で行動しているとなれば、日陰者たちにとっては格好の的に違いない。


だから親父は「ここを出たらファーナムに向かえ」って俺に言ったんだろう。俺がその通りに行動するなら、アトラス領から出ているファーナム王国首都ベイリオンへの直通竜車に乗るはずだからだ。金貨5枚もあれば余裕で乗車できる上にB級以上の冒険者パーティの護衛も付いているのだ。山賊がどうこうできるわけもない。

それを、俺はくだらない意地で遠回りし、結果的にあのおっさんを、犠牲にしてしまった。


『...それで、気負ってんのか。...いいぜ。なら、適役は俺じゃねぇな。索敵と闇討ちに定評のある─あん?事実だろ、水差すなよ。まーとにかくそいつに代わるわ。それで現実、見ろよ』


アルザードはそう言って話を終えた。


『...初めて話すな。アルザードはああ言っていたが、私は闇討ちが得意なのではなく、効率的な方法を選択しているだけだ。』


『誤解も解けたところで、手短に自己紹介をさせてもらおうか。私はヘリワード・ホークアイ。かつては“弓の勇者”と呼ばれていたよ』

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