第8話 宿命

(少し話しただけだけど、なんとなくあんたなら悔しがりそうなもんだけどな)


それを聞いたアルザードは、多分笑ったと思う


『ハッ、まぁ、そうだな。最初は、悔しかったぜ。でもよ、時間が経てばそういう思いも風化しちまうんだよ』


(...時間が経つ?あの世にも時間があるのか)


『あの世のことは知らねえ、俺たち“勇者”は死後もずっと神の元で世界を見せられるんだよ。まるで当てつけのように、“魔王”によって滅ぼされる世界をな』


(...それは、気の毒、だな)


『いや、もう何万回も見せられた。慣れたよ。お前は知らないかもしれないが、世界ってのは似たようなのが無数にあってな、神ってのは上手いこと全ての世界を運営してるんだが、時々、神の管轄外の世界から“ナニカ”が世界を食い荒らしに来るんだ』

『俺らはそれを、“魔王”と呼んでる』

『畳み掛けるようで悪いが、お前の魔力的にそろそろ時間切れだ。残酷なことに、お前の今いる世界に“魔王”が接近している。もうそろ“勇者”が出てくるだろうからお前もそいつと一緒に“魔王”をなんとかしてほしい』

(いや、ちょっと待て!ちょっと待て!いきなりそんなこと言われてもどうしろってんだ!第一、俺の【共鳴者】の同調相手も見つかってな─あ、)

『やっと気づいたか!そうだ!お前のやることは、とりあえず“勇者”が現れ次第そいつと接触!そんでそれまでは徹底的に身体を鍛えろ!安心しろ、“俺たち”が付いてる!お前を最短ルートで及第点まで持ってく!』

(いや、待って!)

『じゃあな坊主!時間切れだ!魔力も伸ばせよ!スキルには必要不可欠だからな!』

(だから、待てってー!!)


俺の心の声は、虚しく散った


(どうやって帰ればいいんだよ...)


途方に暮れながらもとりあえず、山道を進んだ


──あれから4時間


(やっっっと着いたー!!!)


がむしゃらに歩き続けて、ようやく馬車の発着場に到着した。もう、とっくに夜は明けていた


(そういえば、あのおっさん、殺されたん、だよな...俺のせいで)


俺があんな夜遅くに頼んだりしなければ、おっさんは死なずにすんだはずだ


(遺品...拾って来たらよかった...)


昨夜から後悔してばかりだ。


(今からでも、拾いに行くか?きっと家族もいたはずだし、せめて、それぐらいはしないと)


そう思って一歩を踏み出そうとしたその時、世界が、歪んだ


(あ、れ?)


いや、世界が歪んだんじゃない、俺が倒れたのか


(はは、たった一夜の疲労でこのザマか。こんなやつが世界を救うだなんて夢物語もいいとこだろ。アルザード)


思い返すのは、アルザードとのやり取り。


多分、俺の【共鳴者】は“魔王”に滅ぼされた世界の“勇者”と同調している。使いこなせば、幾万の“勇者”の力を得られる、間違いなく最強のスキル。

でも──

(知りたくなかったよ...世界が滅ぶ、なんて知りたく、なかった!)


それは、あまりに重すぎる事実。とてもじゃないが、おっさん一人の死に嘆いている俺が授かっていい代物ではない。


(世界を救わなきゃいけない、なんて、俺には重すぎるよ...)


それも、相手はアルザードがまるで歯が立たなかった神さえ恐れる“魔王”

もしかしたら、幾万の“勇者”全ての力を束ねても、敵わないかもしれないバケモノ


(そんなのと戦わされるって、どんなハズレスキルだよ...)


身体中から力が抜けていくのを感じながら、俺はそんな感想しか抱けなかった

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