第7話 真実
自称ではあるが、勇者と呼ばれる人物が、俺と同じスキルを持っているというのか。
いつまでもこのじめったい森にいる訳にもいかないので、月明かりを頼りに移動しながらこの自称“勇者”と話をする。
(勇者って...ちょっと信じ難いんだが)
『んーまぁ無理もねぇか。つか、勇者つっても、“元”だけどな』
(元?勇者は職業みたいなもんだって?ますます胡散臭くなってきたぞ)
『いや、そういう訳じゃねぇよ。“俺の世界”は“魔王”に滅ぼされたからな。要は死人なんだよ。俺らは』
(俺“ら”って...まさか、俺はやっぱり死んでるってオチか?)
『お前じゃねぇさ。これは、まぁ【共鳴者】について説明すればお前も理解できる』
俺は黙って説明を促す
『さっきも言ったように、【共鳴者】は対象となる特定の存在と同調するスキルだ。俺の場合は“竜種”だった』
──“竜種”
数ある魔物の中でも頂点に君臨する魔物。
下級種であるレッドワイバーンでさえも、討伐にはAランク冒険者3人以上か、一個師団以上の軍隊の出動が必要とされる、正に種として最強の生物。それ故に数も非常に少ないが。
(そんな魔物と、同調ってことは味方にできたのか?)
だとしたら、強力なスキルなんて一言で済ませれるレベルではない
『味方につける、か。あながち間違いじゃねえが正解でもねぇな。』
(じゃあ、何が正解なんだ?)
『【共鳴者】の能力は対象と同調、つまり心を通わすことが出来る。だが、それだけじゃない。【共鳴者】の真の力は、完全に同調した存在となら、能力までも同調することができるんだ』
(それは、あんたの場合なら、竜と同じ力を得るってことか?)
ダメだ、理解を超越した力に目眩がしてきた
『その通り!竜と同調した俺は竜の力を得る。そして、俺と同調した竜は俺の力を得る。これで俺と竜は一心同体になる!』
そんな力、物語の魔王ですら持っていなかった。あまりにも理不尽すぎる
(確かにそんな力があるんなら、“勇者”になれるのも当然だよな...ん?待てよ、確か“勇者”はスキル【勇者】を授かったから“勇者”になるんじゃ?)
『そうだ。お前の考えは正しい。だが、スキル【勇者】は特別でな。【勇者】ってのは世界の終わりが近づいた時、その時世界で最も強い人間に神が与えるスキルなんだよ』
それは、初耳だ。有名な勇者伝説は、判別式で【勇者】と判明した少年が聖剣と四人の仲間と共に魔王を倒すまでの物語だった。
『俺の世界でもそうだった。あれはな、本物の“勇者”が出てきた時に、人間が“勇者”を礼賛するよう仕向けるために、神が用意したカバーストーリーなんだよ』
(なんで、そんなことを...)
『そりゃ、“勇者”が出てきたってことは、もうすぐ世界が滅びるってことだからな』
(でも、“勇者”なんだろ!?最強なんじゃないのかよ!)
『あくまで人間に限った話だ。俺は“俺たち”の中でも相当強えー方だと思うが、実際世界を滅ぼす“魔王”には、まるで歯が立たなかったよ』
そう話すアルザードの声色はどこか諦観しているように思えた。
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