第5話 追憶4
自失する俺を置き去りにして、判別式は着々と進んでいく。ジュピターの【爆炎の魔術師】の印象が強すぎて他のスキルを全く聞いていなかったが、どうやら幼馴染のカトレアは【癒し手】を授かったらしい。やけに嬉しそうにそう言ってた。
【癒し手】のような回復系のスキルは珍しい。彼女は貴族の出ではないが、実力主義のこの国では職に困ることはないだろう。
(困るのは、俺の方だよな...スキルが使えない。じゃ話にならない)
「ジェームズ?」
(【共鳴者】がどんなスキルであれ、早くものにないと...徹底した実力主義で成り上がってきたアトラス家に、無能の座る椅子があるとは考えにくい)
「ジェームズ!」
「!あぁ、母さん、どうしたの?」
「どうしたの。じゃないわ。式はもう終わり。私達も帰る準備をしないと」
まじか。考えることに夢中で判別式が終わったことにまるで気がつかなかった。
「母さん、帰る前にカトレアと話して来ていいかな」
「えぇ、もちろんよ。」
「ありがとう、ちょっと行ってくるよ」
そう言って俺は今にも帰ろうとしているカトレアに話しかけた。
「カトレア」
「!お父さん、お母さん、ちょっと待っててね。ジェームズが来たみたい」
「帰ろうとしてたのに、悪いな。」
「ううん!そんなの全然大丈夫よ!それより、どうかしたの?」
「スキル、【癒し手】だったんだろ?ちゃんと祝えてなかったから」
「そんなこと...ジュピターに比べたら全然よ」
「それを言うなら、俺はカトレアに比べたら全然だぞ」
「...ちょっと、それ言われたら話しづらくなるんだけど?」
「ハハハごめんごめん、ちょっと意地悪だったな」
「もう...でも、その様子だと大丈夫そうね」
「うん?というと?」
「ジュピターのスキルが分かった時のあんた、死ぬ直前みたいな顔してたのよ?」
「...そんなに?」
「そんなに」
どうやら、カトレアにも心配をかけていたようだ。
「あたしのスキル分かった時だって、ずーっと上の空で...そりゃ、ジュピターは凄いけど、比べることなんてないわ」
「...でもなぁ」
「それに!まだ使い方分からないんでしょ?エノク司教も知らなかったみたいだし、もしかしたら伝説級のスキルよりもっと凄いスキルかもしれないじゃない!」
(本当に、本当にいいやつだよなカトレアは...)
からかうような発言も多いが、こういう時の彼女は本当に心強い。この底抜けた明るさには何度も救われてきた。
「いや!お前、それは大きく出すぎだろ!」
「えぇー?そんなことないわよ!兄弟じゃない!どっちか片方だけ凄いなんて、有り得ないわ!」
(ありがとう、カトレア。お前のおかげで前に進めそうだ)
「ジェームズ」
「!親父が呼んでる、カトレア、また今度な」
「えぇ!また今度ね!」
カトレアの言葉を受けて、俺は少し前向きになれた。
(そうだ。使えないなら、使えるようになればいい。大丈夫、時間はある!)
そう、思っていたが...
――5日後
「ジェームズ、今日限りでお前をアトラス家から勘当する。今後、私の許可なくアトラスの姓を名乗ることは許されず、同様にアトラス領の敷居を跨ぐことも許されん」
「...え?」
この親父の鶴の一声で、俺の人生の転落劇が始まった。
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