第4話 追憶3

「!正気かアトラス公!“ダブリス村の悪夢”を知らぬわけではなかろう!」


俺にスキルを使用するよう促した親父に、エノク司教がそう言った。


(“ダブリス村の悪夢”...スキルを発現した少年が親の目を盗んでスキルを使用して、結果的に村が滅びることになったっていう、昔の事件だよな...)


正直例外な気もするが、その事件が警句として語り継がれ、判別式を迎えていない者がスキルを使用してはいけない。というのが一般常識になっていた。


「もちろんだとも。ただ、この場には“私”がいる。悪夢の二の舞にはならんよ」


「アトラス公...貴公の武勲は聞き及んでいるが、その傲慢はいずれ身を滅ぼすぞ...」


「実にありがたい忠告だ。本来なら、聞き入れぬ手はないのだがね。だが、【聖眼】でさえ知り得なかった未知のスキル【共鳴者】。その力を知りたいと思うのはアトラス家の当主として、当然の発想だ」


(要は、俺のスキルが使い物になるのか、ならないのかが気になるってことか。)


だとしたら残念ながら答えは後者だろう。この会話の最中に何回も使おうとしたが、使える気配すらしない。

「さあ、ジェームズ。スキルを使いなさい」


やべぇ


「父上、その...使い方が分かりません!」


「...なに?」


「あ!実を言いますと、既に何回も使おうとしているのですが、全く手応えがないというか...」


「...」


やばい、怖くて親父の顔が直視できねぇ!


これでまた失望されるかもしれない。なんて、そう考えてしまうと、興奮気味だった思考が落ち着き始め、俺ははっきりと現状を理解した。


(そうだ...使えないってやばい...冷静に考えたら、使えないスキルなんて”ハズレスキル“もいいとこじゃいか)


「ジェームズ、お前...スキルが使えないと?本気でそう言っているのか...?」


「は、はい...

スキルは本来なんとなく使い方がわかるものだという。俺には全くそんな感覚はないが、親父や母さんも、判別式を迎えるまで使いはしなかったが、使い方は感覚で掴んでいたらしい。


「...まあ、いい。このことは帰ってから考えよう。判別式は終わっていない。後がつかえているからな」


この場ではどうにもならないと思ったのか、親父はすぐに引き下がった。


「聖なる場での喧騒を詫びよう。エノク司教、貴方にも悪いことをしたな」


「いや、取り乱したのは私も同じだ。貴公だけではない。私も己の未熟さを思い知ったよ。さて、」


「判別式の続きを執り行おう。ジュピター・アトラス、前へ」


「はい」


(そうか...次はジュピターか...)


俺と瓜二つの容姿で俺よりはるかに優れた才能を持つジュピター。あいつがどんなスキルを授かるのか、俺は気になって仕方がなかった。


「これは...なんと、【爆炎の魔術師】か。これほどのスキルを見たのは久しぶりだな」


──【爆炎の魔術師】

有名な系統スキル【魔術師】カテゴリの一つだ。火、土、水、風の四属性の魔術にそれぞれ対応する【魔術師】スキルがあり、【爆炎の魔術師】は火属性に対応する【魔術師】スキルの最上位スキルだったはずだ。


(そんな、伝説級のスキルを、ジュピターが...?)


ガラガラと、足元からなにかが崩れ去っていく感覚がする。きっとその瞬間、俺はジュピターに完全に敗北を認めてしまった。

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