第3話 追憶2

「ジェームズ・アトラス、前へ」


「っ、はい!!」


スキル【鑑定士】の神官に呼ばれ、教会の身廊を進んでいく。


15歳になると誰もがスキルを授かるが、授かった本人にはなんとなく“授かった”感覚があるだけで、どんなスキルを授かっているのか判別がつかない。


その為、1年に一度、主に四神教の神官(四神教の神官は皆スキル【鑑定士】持ちであるため)が、各地の教会を周り、それに合わせて”授かった“感覚の少年少女がスキルを鑑定してもらうために教会を訪れる。


毎年恒例のこの行事を、今では“判別式”と呼んで四神教にとっても重要なイベントになっていた。


アトラス領で最も大きな教会で開かれた今回の判別式は、大勢の領民達に見守られながらの開催となった。


大勢の視線に晒される経験は家のパーティなどである程度耐性が付いていたが、今回ばかりは落ち着けそうにない。だがそれも仕方がないことだと思う。ずっと、ずっとこの瞬間を想って来た。


(安心しろ...確かに”授かった“感覚はあるから、大丈夫、母さんが言ってた通り、大丈夫なんだよ...!)


不安の種は、“授かった”感覚を感じてスキルを使おうとした時のことだ。


――スキルが明確になるまでは決して使おうとするな。

と、親父に念を押されていたが、我慢出来ずに使おうとしたことがある。


その時、何の手応えもなかったことがずっと心に残っていた。


それが今、はっきりする。


それが悪い形でない。と言い切ることが出来たらどれだけよかっただろう。頭にあるのはもし、”ハズレスキル“だったら?という仮定。もしそうだったら

今度は母さんにも失望されるかもしれない――


「ジェームズ・アトラス、頭を下げ、火と土と、水と風を恵んでくださった大いなる神々に、崇敬なさい」


そんなことを考えていると、とうとう運命の瞬間が訪れた。司教が俺の頭に手を向ける。鑑定に必要な工程らしいその緩慢な動きがもどかしくて仕方がなかった。そして――


「これは...スキル【共鳴者】...だと?聞いたこともないぞ...」


(俺もだよ!!!)


判別式を通して数多のスキルの知識を持つ四神教司教

でさえ知らないスキル。謎に包まれたスキルに司教や領民だけでなく、アトラス家の面々や幼馴染も困惑していた。


「聞いたこともない、とはどういうことだ。エノク司教。」


困惑から立ち直った親父が司教に尋ねた。


(ん?司教って...まさか、あのエノク司教だったのか...超有名人じゃないか...)


エノク司教、四神教を代表する4人の司教の内の1人。


確か、そのスキルは【聖眼】。【鑑定士】の上位互換とも言えるスキルで、見つめた物の詳細を知覚し、決して忘れることはなく、さらに人々の虚言や過去に犯した罪も看破してしまうという。


そんな人のことさえ、認識できなかったとは。

どうやら自分のことでいっぱいいっぱいだった俺は、自分を鑑定してくれる司教の名前さえ確認していなかったらしい。謎スキルとはいえ、とりあえずスキルが判明した俺はある程度冷静さを取り戻し、そんなことを考えていた。


「言葉の通りだとも。アトラス公よ」


「ほう...?つまり、貴方の見聞を持ってしても判別がつかない、と?にわかに信じ難いことだ」


「私は多くを知っているが、決して全知ではない。だが、これで私の知識はより正確になるだろう。【共鳴者】...なるほど、覚えておこう」


「ならば、所有者本人に聞くほかない、か」


この流れはまずい。俺にはこのスキルの使い方がまるで分からないのだ。


「やむを得ん...ジェームズ」


「!は、はいっ!」


「この場でのスキルの使用を、許可する」


想定していた通り、告げられたのは俺にとって歓迎しがたい要求だった。

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