第5話 サルベージ
寂しそうに帰って行く萌ちゃんの背中を見ながら考える。
やっぱり萌ちゃんも胡桃沢みかんのことを知らなかった。けれど、飛田万里さんは知っていた。からの、飛田万里さんから私へ怒涛の双子の妹はどこだ攻撃。
これで、朝、必読ノートに私の筆跡で書いてあった胡桃沢みかんの存在の真実味が増した。だけれど考えれば考えるほどわからない。
必読ノートには、とても綺麗で可愛い女の子と書いてあった。それと、「私の家にアンドロイドのみかんが、現れました」とも。
アンドロイドって何?
新しいスマホでも買った自慢でもしたいのか?
必読ノートの文脈を読む限り、そのアンドロイドが綺麗で可愛い女の子であると読み取れた。スマホのゲームでも始めたのかしら?
全くわからない。私の脳内で強い拒絶反応が現れる。頭が痛い。頭が割れるように痛い。
誰?
胡桃沢みかん……誰なの?
考えれば考えるほど頭の中が、グルグルグルグルこんがらがって気持ち悪くなる。
私は、頭を抱えて地面に膝をつき崩れ落ちた。
「飛田万里さん、本当にわからないの! 胡桃沢みかんって誰っ? 誰なの?! 誰なの……? うう……」
胡桃沢みかんのことを考えれば考えるほど頭が混乱していく。壊れていく。まるで真っ暗闇の迷路の中で、出口を探し彷徨っているようだ。
今日起きている不思議な出来事の連続に、私の頭が、心がついていかなくて、胸の動悸が高まり息苦しくなっていった。
「にゃにゃ……っ! これは重症にゃ。自分の妹を忘れるにゃんて有り得ないことにゃ!!」
――胡桃沢あかね。
――ざまあないですの。
地面にひれ伏す私の背後から、また、一人の女の子が私に向かって歩み寄る。
この娘は最近、私のクラスS組に転校してきた。
確か、
「……姫宮さん」
そう。
姫宮さんは、最近私のクラスに来た転校生。姫宮さんのフルネームは、ミドルネームもあって長すぎて覚えられていないけれど、覚えるのを諦めたけれど、確かフランスからの帰国子女だった様な気がする。
それにしても、それほど親しくない女の子から、私のことをフルネーム呼び捨てで、しかも、ざまあないとか酷すぎないか。
そして、姫宮さんは私の両腕を掴み言ったのだ。
「ふふっ。私のことを姫宮さんと呼ぶなんて笑わせますの。あなた、本当にアンドロイド審査会に、記憶を抹消されたみたいですわね」
「記憶を……抹消? アンドロイド審査会?」
また出てきた。
アンドロイド審査会。これも必読ノートに書いてあったキーワードだ。
わからない……わからない。
私が頭をブンブンと振っていると、姫宮さんは優しく手を差し伸べる。
「いいから、顔をお上げなさいですの」
「……え?」
私は、姫宮さんの言葉に逆らう気力もなく顔を上げた。すると、姫宮さんは右手の人差し指を、私の額に向けて、ちょんと小突いて呟いたのだ。
――サルベージ
姫宮さんの口から発せられた意味不明の言葉と共に、私の目の前が真っ暗になった……
――
んん……。
そっと目を開けると、白い天井、蛍光灯がぼやっと現れた。
ここ、どこ……?
視界が少しずつ開けてきて、私はベッドに横たわっていることを認識した。そして、横に目を向けると、白いカーテンが直角に閉められていて、個室状態になっていた。
……え、なにっ?
ここ保健室?
ついさっきまで私の部屋で、みかんと一緒に寝ていたはずなのに。まさか、アンドロイド審査会の刑執行から逃れるために、みかんの呪文で瞬間移動でもしたのかな。
と、言うことは、みかんが、ここに居る?!
みかん……!
――まったく、世話が焼けますの。
聞こえてきたのは、私の期待した みかんのてへぺろトークでは無く、落ち着いた女の子の声だった。
声がした方向に目を向けると、マリーが隣の丸椅子に腰かけ、小説に視線を落としながら、私の方を見ずに呟いた。
「マリーちゃん!」
「ふふっ。私への呼び方が、姫宮さんから、マリーちゃんに変わったと言うことは、無事、記憶が戻ったみたいですわね」
「みかん! みかんはどこ?!! そもそも私は何故ここに居るの?!」
「そんな一辺に質問されても困りますの。まずは落ち着きなさいな」
ガバッと起き上がる私の肩を、マリーは、そっと両手で押さえてベッドに再び寝かしつける。
そうか。
みかんは、暴行罪とやらでアンドロイド審査会に強制送還されてしまったのか。
どうやら、私はみかんの去り際を見ることなく意識を失ってしまったらしい。こんな大事な時に気を失うなんて、自分の不甲斐なさに嫌気が差してくる。
あれ?
でも、刑の執行は、みかんと、アリス、それから、マリーも対象のはず。
なのに、マリーは何故、人間界にいるのだ……?
マリーは私の動揺した様子を察したようで、ニヤッと口角を上げ意地悪く笑った。
「まず、胡桃沢みかんは、アンドロイド審査会によって、滞りなく刑が執行されて、めでたく強制送還されましたわ」
「……!! じゃあ、何で、あなたがここに居るの?! あなただって暴行罪の被疑者のはず!」
「そ、それは、もちろん私が潔白だからですわ!」
「そんな! あなたが、みかんのことを
「そんなこと知りませんの。アンドロイド審査会が私のことを潔白だと、正しく明確に判断しただけですわ」
アンドロイド審査会の刑の判定基準は、データによりシステマチックに決められると聞いた。なのに、何故マリーは刑を逃れているのか全く理解が出来ない。
マリーが無罪なら、みかんも無罪じゃないか。これは間違いなく
「みかん……」
「あ。そうそう、その犯罪者、胡桃沢みかんから手紙を預かっていますの。はいどうぞ。……ふふっ。これで私の用件は終わりましたの。それでは、ごきげんよう」
マリーは、唇を噛みしめて複雑な表情をしている私に対して、薄ら笑いを浮かべ封筒を手渡しカーテンの隙間から去って行った。
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