第2話 最後のおっぱい充電

 ――2330ふたさんさんまる


 一通りノートにメッセージを書いた後、表紙に太い赤マジックで大きく『必読!!』と書いて目立つように机の上に置く。


 ここまですれば、嫌でもノートが目に付くことだろう。私のことだから、不審に思いながらもノートの内容を読むはずだ。


 24時まであと30分しかない。


 なのに、この状況なのに、みかんは呑気に布団の中に潜り込んだ。


「さてさて、あかねちん寝よーぜっ! ぜっ!」

「え、流石に早くない?! もっとゆっくり話そうよ。最後の夜じゃない、むしろ眠りたくないよ!」


「そんなこと言うなし。いーからいーから。てへぺろ」

「あ、そっか! 最後のおっぱい充電を堪能したいんだ! ほんともう、えろいんだからー!」


「えへへ、ま、そんなところかにゃ。だから、ほら。こっちこっち! はよ近こう寄れ! てへぺろ」

「もう、しょうがないんだからー」


 みかんは、私の方を見てクイクイッと手招きをする。狭いシングルベッドに、みかんと2人で寝るのは今日で最後になるのかな……そう思うと感慨深くて、また泣けてくる。


 私は、みかんの手招きに応える形で、ベッドに潜り、みかんに対して背を向けた。みかんが後ろから私の胸を揉むことで充電を行う仕様だ。そして、それが、おっぱい充電たる由縁なのだ。


「ちがうちがう! こっち!」

「えっ?!」


 みかんは、後ろから私の肩を引っ張り、自分の方に私の身体を向ける。


 どう言うこと?

 いつの間に、おっぱい充電の仕様が変わったのかしら?


「ほら、今さら、おっぱい充電をする必要なんてないのだよ。今からするのは、僕たちの心の充電だよ! ぎゅーっ! ほら、あかねちんもっ、ぎゅーっ!」

「!! ……もう、ばかっ!!」


 みかんは、私のことをギュッと抱きしめた。そして、みかんも私の頭をキツくキツく自分の胸に押し付ける。


 ――ドクッドクッ


 みかんの柔らかくて豊満な胸から聞こえる鼓動。


 みかんは、これ以上ないってくらい私のことをキツくキツく抱きしめてくれて、私の顔は、みかんの胸の谷間に深く埋もれてしまった。


 けれど、もっと欲しい! って言うくらい私も、みかんのことを抱きしめた。それはもう、みかんの腰の骨が折れてしまうくらいの勢いで。


「ふああ! あかねちんって細いくせに意外とチカラあるよね! 僕の腰の骨が折れちまうぜ。愛が重いよ重すぎるよ。てへぺろ」

「うるさい! 骨折れちゃえ! 折れて、ここから動けなくなっちゃえ! ずっと、ここに居ればいいんだ!」


「あ、そーだねー。あははは!」


 みかんはカラっと爽やかに大きな声で笑う。私は、みかんの胸に顔を埋めているから見えないけれど、きっと、今、みかんは、あの太陽の輝きのような笑顔を見せていることだろう。


 それはもう、眩しすぎて見えないくらいに。


 はあ、今何時なのだろう。

 気になるけれど、怖くて時計を見ることが出来ない。


「みかんー。居なくなっちゃうなんてやだよう。ふええーんっ!」

「おいおい完璧パーペキ女子のあかねちんが、そんなこと言っちゃだめだおー。それに僕のパジャマが、あかねちんの涙でぐっしょぐしょだお。これじゃあ、乳首が透けちまうぜ。」


「だってー。だってー」


 駄々っ子のように、みかんに甘えまくる私。


 だって、さ。

 最初から、みかんと会うことが無かったら、当然、みかんが居なくても大丈夫なのだ。だって出会ってないのだから当然だ。けれど、みかんと私は出会ってしまったのだ。可愛くてお茶目な妹と出会ってしまったのだ。


 ――今更、無かった事になんて出来ない。


 ここまで大事に思う人なんて、今まで生きていて居なかった。それに、掛け替えの無い存在なんて言葉、私には無縁だと思っていた。そう、無縁だと決め込んでいた。


「あかねちん、短い間だったけれど、僕は幸せだったよ。あかねちんと出会えてよかった。あかねちんの双子の妹になれてよかった。あかねちんのことを抱きしめられてよかった。あかねちん……」

「やめて悲しくなっちゃうじゃない! 私だって、みかんに負けないくらい幸せだったんだからね! こんなの生まれて初めてだよ。みかん、大好きだよ!」


「へへっ! なんか照れるぜ! 僕も、あかねちんのこと宇宙で一番好きだぜっ!」

「私もっ! ……ありがと。なんか恋人同士みたいだね」


「へへへ」


 みかんは照れくさそうに笑う。

 けれど、みかんとだったら、本当に本気で一生一緒に添い遂げられると思う。結婚なんてしなくたっていい。みかんと一生いられるなら何もいらない。


「はあ、なんか、みかんの胸落ち着くなあ……」

「僕も、あかねちんの頭を撫でてると落ち着くや。でも、ね。」

「ん?」


 一拍おいて、みかんは優しく呟いた。


「……えあみゅーでん」


 ――ごめんね、それと、ばいばい。

 ――ゆっくりおやすみ。


 ――僕の大好きなあかねちん。


 みかんの胸の中で、私の意識がどんどん薄れ落ちていく。


 だめ、だめ!

 寝ちゃだめだ私!


 こんな時に寝るとかありえないでしょ!


 みかんのことを引き止めなきゃいけないんだから!


 起きろ、私!

 寝るな!


 私の大事で可愛い妹を守るんだ!


 ――私の、私の可愛い


 ――い、もう……と。

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