第C話 こみゅにてぃ~とう~くそにーとぉ!
――
窓の外は、すっかり真っ暗になっていた。当初考えていた予定よりも帰る時間が随分遅くなってしまったな。
まったく。
これもアリスと美由宇のせいだ。あの2人が私たちを足止めしたせいで、帰る時間が遅くなったのだ。
タイミングが悪いことこの上ない。こういう時に限って、ほーんと勘弁して欲しい。
……あ。
美由宇は、顔を見せると同時に、アリスに捕まったから影響は無かった。
よし。アリス
ん……いや待って?
そもそも私たちを引き止めたのはアリスだから、GJ取り消しだ。むしろマイナスだった。
それにしても、アリスの思う私の秘密が、女の子好きって。何それ。
私は、そんなつまらない理由で、長い時間悩まされていたのかと思うと、本当に頭に来る。本当に本当に無駄な時間を過ごしてしまった。
だってさ、自信満々に、アリスから私の秘密を知っているなんて言われたら、彼女の生みの親、ドクター姫宮から何か吹き込まれたって思うじゃない?
いや、違うな。
厳密に言えば、吹き込まれていた訳ではない。
――胡桃沢あかねは女好き。
……と言うことをドクター姫宮は、アリスの脳内、CPU、中央演算処理装置に、前もってインプットしていたと言うことか。バカらしい。
だってさ、女好きとか言ったら、アリスだって同じじゃ無い?
アリスだって、美由宇、つまり女の子のことが好きじゃないか。むしろアリスの方が、あからさまに女好きだろう。それとも、人間とロボは別とでも言いたいのだろうか。
と言うわけで、アンドロイド審査会の刑執行予定時刻まで、あと6時間を切ってしまった訳だけれども。
うん。予定時刻。
あくまでも刑執行は予定で確定ではない。
予定は未定。
これからの博士との交渉次第で、何とかなる……かもしれない。いや、何とかしてみせる。
――とうっ!!
私の
「ふはあああ……あっかねちーん、つかれたにぇ~。ふにゅう。」
「全くもう、ロボなんだから疲れとか無縁でしょ? ほら、スカートめくれてるよ? パンツ丸見えだよ はしたない。しっかりしなさい!」
「ふへぇぇ~……あかねちんが
ベッドに倒れ込んでいるみかんを抱き起こそうとした瞬間、みかんの方が先にパッと起き上がった。……と、思いきや、再びパタリとベッドに倒れこむ。
まったく、今の自分の状況がわかっているのかしら。
「こ、お、らっ! 時間無いんだから! 早くクソニートに電話してよ!」
「ほいほい。全くあかねちんは、ロボ使いが荒いなあ……」
ロボ使いって、人のことを猛獣使いみたいに言わないでよね。まあ、ある意味、みかんは色んな意味で猛獣だけれど。
みかんはブツブツ言いながら、半ばやけくそ気味に、「よっこらしょ」と立ち上がり、右手を前に出す。
年寄りくさいなあ、まったくもう。そもそも居なくなるかもしれないのは、みかんなんだからね。他人事みたいに振る舞わないでよね。私ばかり騒いでバカみたいじゃないの。
みかんは、面倒くさいのを隠そうともせずに、右の手のひらを上にして腕を伸ばし、床と平行となるところまであげて呪文を唱える。
――こみゅにてぃ~とう~くそにーとぉ!
――とるるるるぅ~
――とるるるるぅ~
みかんの呪文と共に、電話の呼び出し音が部屋中に鳴り響く。
電話の発信先にクソニートとか、いくらなんでも繋がらないでしょ。流石に、お掛けになった電話番号は現在使われておりません。案件でしかない。
――とるるるるぅ~
――とるるるるぅ~
――がちゃ。
『なんだ?』
つながったーっ!
発信先、クソニートでつながったーっ!!
そうなの?
そう言うものなの……?
これで私の中に「クソニート=素人童貞=新戸博士」と言う式が出来上がり、そして確定したのだった。
みかんの手のひらの上に、白衣姿の博士が登場する。クソニートと呼び出したことで、博士に繋がったことに関して みかんは、特に驚いていなかった。で……むしろ、別のことに震えおののいていた。
「は、はかせが、最初のコールで、おんぼろグレースウェットを着ていない……だと?!」
『おんぼろは余計だっ! あのスウェットは落ち着くんだよ!」
「え、あんなん燃やすごみでしかないやん」
「放っとけ! まあ良い。私は今、機嫌が良いのだ。ふふふふふ、随分前から、お前が電話してくるのは、お見通しだった。しかも用件までお見通し、だ。』
「なななななな、なん、だと……?」
博士の言葉に、再びたじろぐみかん。
言われてみれば、今まで2回ほど私の目の前で、みかんから博士に電話をしてもらったことがある。電話をしてもらったと言うか、電話されちゃったと言うか、何とも微妙なところだけれど。
つまり、その2回とも私の意に反して、みかんが強引にかけた電話だった訳だ。それは、博士も同じく私が居るのが想定外だったみたいで、受電する準備をする間もなくスウェット姿のボサボサ頭 (後ろ姿)で登場することになったのだった。
だから博士は、みかんの隣に私が居ることを知らなかったことで慌てふためき、電話を強制的に節電すると言うフローに入る。
そして、白衣に着替え、髪を整え、ペリキュアのお面をつけ、みかんに電話をコールバックする流れが通常、お約束だった。
なのに。
今回は、最初から白衣姿で、髪形は七三分け、そして、ペリキュアのお面をつけた状態で登場したのだ。
その白衣は、彼としては正装で、準備万端である状態での受電だった。
『はーちゃん、可愛かっただろう……?』
「……へ?」
はーちゃん……あの、アンドロイド審査会5人衆のうちの1人。羊っ娘のことを言っているのか。
博士は、まるで羊っ娘が自分の恋人の様に、ドヤ顔で私たちに向けて両手を腰に当て自慢する。
いやそれマジで、キモい、ウザい、そして残念でしかない。
『お前らの用件は、どうせアン審の刑執行についてだろう。だとしたら刑執行は確定案件で今更どうにもならん』
言い切った。
アン審って、アンドロイド審査会の略か。読み方は、安心と一緒だけれど、意味は真逆だ。全然安心じゃあない。
それに、みかんの生みの親のくせに、しゃあしゃあと、どうにもならんとか言って、言い切っちゃって、それでも、みかんの親かっ!
子供を守ってこその親だろう!
「まー。そゅことになるよにぇ。てへぺろ」
怒っている私とは対照的に、みかんは至って冷静だった。まあ、本来ロボと言うのは感情をもたないのが普通だろうから、これは仕方のないことなのかもしれないのだけれど。
そもそも、みかんは今、そこに居る博士に作られたのだ。当然、博士と同じ思考を持っていることも不思議ではない。
――でも。
それでも、みかんを守るために必死な私は、博士に向けてケンカ腰で詰め寄るのだった。
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