第3話 ロボ命第一
なに、うそっ?!
みかん以外にもロボが居るなんて聞いてないよ。だけれど、みかん以外にロボが居ないとも聞いていない。
よく考えてみれば、みかんと言うアンドロイドが実在するのだから、みかん以外にもアンドロイドが居ても何ら不思議ではない。
子供の居ない家庭にロボを提供するビジネスを開始することが目的、それがみかんの存在意義。
じゃあ、マリーの存在意義は何?
みかんにケンカを売るっている時点で、みかん……いや、博士の意志とは相反すると考えた方が自然よね。
みかんは、私が考えていることを読み取ったかのように言う。
「ちな、あかねちん。前にも言ったけれど、僕は対家庭向けのロボで、戦闘仕様にはなっていないのだ。だから、あまり攻撃呪文は得意じゃないのだよ」
「それって、マリーは戦闘用ロボってこと?」
「わからん。けれど確実に言えることは、僕にケンカを売ってきている時点で、少なくとも鞠が対家庭用ではないと言うこと。てへぺろ」
間違いない。
みかんの言うことは最もだ。マリーが対家庭用ロボなのだったら、もう少し友好的な態度で振る舞うだろう。
「と言う訳で、あかねちん。僕にもしものことがあったら後は頼むよ。例えどんなことがあっても、あかねちんのことは僕が絶対に守るから」
「後は頼む……って、そんな遺言みたいなこと言うのやめてよね!」
みかんの抑揚の無い言葉に、思わず私は悲鳴に似た声をあげる。
抑揚の無い言葉……その言葉使いが返って、現実味、説得力を強くして、私にこれ以上無いほどの悲壮感を与えるのだ。
焦れたマリーは、腕を組み明らかにイライラした様子で私たちを非難する。
「あのー。そろそろよろしいですの? 待ちくたびれましたの。美少女戦士の変身シーンを大人しく待っている敵役の気持ちが、良くわかりますの」
みかんが言うには、マリーもロボだと言う、しかも戦闘仕様のロボかもしれないと。
見た目からは、とても戦闘用とは思えない。細い身体にスラっと伸びた手足。短いスカートが余計に足を長く見せている。
だがしかし、彼女はロボ。身体の線なんて関係ないのだろう。
そして、戦闘機能が無いみかんは、マリーから一方的に攻撃を受けることになる。一糸纏わぬ姿、丸裸で銃口に向かっているのと変わらない。みかんに並外れた防御機能があることを切に願うばかりだ。
それに、この異空間では呪文耐性のある美由宇の援護も期待できない。大ピンチじゃないか。一体、私はどうすれば良いのだ。
今、みかんは、マリーの攻撃による周囲のダメージを予見して異空間に来ているみたいだけれど死んでしまったら意味がない。人命……いや、ロボ命第一だ。
どうにかマリーと話し合いで何とかならないのかな。あまり私は、ネゴシエーションは得意では無いけれど、やるだけやってみるか。
まずは探りを入れてみよう。
「マリーさん。みかんとは、どんな関係……?」
「……敵対関係」
「ひえっ!!」
――一言!
しかも、簡潔かつ、明瞭な回答!
今回に限って、語尾に「ですの」がついていない。本気のヤツだ。
「あはは……てへぺろ」
苦笑いする みかん。
ネゴシエーションどころか、逆に緊張感が増してしまった。しまった。これではネゴシエーター失格だわ。
ここで何とか持ち直すことは出来ないものか。とりあえず探りをいれてみるか。
「敵対関係って、みかんは貴女のことは知らないみたいだけれど」
「知る訳が無いですわ。だって私は昨日完成した出来立てほやほやの〝胡桃沢みかんを倒すためだけに作られた″ 戦闘型アンドロイドですもの」
「!!!!」
なんと、対みかん用のロボ、しかも戦闘型だったなんて!
最悪の答えだ。
もう絶望的じゃないか……!
私は、みかんの腕に縋りついた。
「みかん! 逃げよう! 遠くに逃げよう!」
「あはは……あかねちん? 一時の気の迷いで不用意なことを言ってはダメだよ。仮にここで逃げたとしても、いつかは必ず鞠と戦わなきゃいけないのだよ。てへぺろ」
「だって! ここで一回逃げて時間が稼げたら、博士に戦闘機能を搭載してもらうことだって出来るかもしれないじゃない!」
「だから、ダメだってば。これでも僕は
「だって……!」
みかんの絞りだしたてへぺろが切なくて悲しくて、涙が止まらない。
嫌だよ。
みかんが居なくなるなんて、絶対に嫌だよ。
逃げようよ。
マリーの目の届かないところまで逃げようよ。
世界の果てでも、宇宙でも、異次元でも、みかんと一緒だったら、どこへでも行くよ。
そんな私たちのやり取りを黙って見ていたマリーは、私たちに向かって叫んだ。
「だーかーらー! 二人で盛り上がっていないで、さっさと終わらせますの! 私も貴女たちの茶番を気長に待ってあげるなんて、お人好しにも程がありますの。」
「ごめんごめん。準備オーケーだよ、鞠ちゃん。てへぺろ」
「だから、鞠じゃなくて、マリーですの!」
「わかったよ。鞠ちゃん、てへぺろ」
「しつこいですの!」
みかんは、マリーに向かって斜に構える。
いつに無く目が真剣だ。
それはそうか。
戦闘ロボとの対戦は初めてだろうし、ロボながらにも不安があるのだろう。
「じゃあ、おいでよ。かもん。てへぺろ」
みかんはマリーに向かって左の手のひら前に出して握り、人差し指を差して、クイクイッと前後に指を動かした。
「ば、ばかにしないで! ですの! 言われなくてもいきますのっ!」
マリーは、右手をあげて、そのまま下に振り下ろした。
――あぶない!
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