第2話 私はロボ子
キモい。キモすぎる。
大体、何で私の名前を知っているのか。
そんな私の疑問に、しれっと答える美少女ロボ。
「博士が近所の人に聞き込みしたらしいよ? 内緒だけど。てへぺろ。」
「口軽いな! って、キモい! やめて!」
キモい。
良く変質者として捕まらなかったな。いや、むしろ逮捕してくれたら良かったのに。
だって、おっさんが女子高生のこと近所の人に聞きまくるとか一歩間違えたら犯罪だよ。ストーカーと変わらないし、気持ち悪すぎて寒気がする。
「理由はともかくとして経緯はわかったわ。それだったら、昼間に玄関から堂々と来ればいいんじゃない?」
「いやー。私のバッテリー切れまであと1時間で、朝まで待っていられなかったんですよ」
「バッテリー切れ?」
「そうそう。だから仕方なく、窓から入ったの。てへぺろ。部屋の窓ガラス割られちゃうとか、あかねちゃんも災難だったね。本当に酷いことするよねー。あはは」
悪びれも無くロボは笑う。
あはは。と棒読みで笑う。
ロボが無表情で居ればいるほど、私の怒りが大きくなっていくのがわかる。
「災難って、窓ガラス割ったのは、アナタじゃない! どうしてくれるのよ?!」
「あ、直せるよ。ちょっと待ってて」
ロボは、割れた窓ガラスの隙間から飛び出して行った。やはりロボだから、故障した物を修復する機能とかあるのだろうか。
それに今、当たり前のように窓から出て行ったけれど、人間だったら5階から飛び降りたら死ぬよね。やっぱりロボなんだな。
「よいしょ。お待たせー」
割れた窓から入ってくる美少女。とても異様な光景だ。
美少女ロボの小さくて整った顔立ち、くびれた腰、長い脚。完璧なプロポーションと言っていい。
と、ロボは窓ガラスに向き直り、ガムテープで段ボールを手際よく窓に貼り付けだす。
って、ちょっと何をしている!
何をっ!!
「ぴー………っと。できたー。やったね完璧ちゃん! おけまる~」
「ちょっと!! 何がおけまるよ! アナタの窓ガラスを直すって、ダンボールを窓枠に貼り付けるってこと?! ありえなくない?!」
「あれれ? お気に召さないですかー。レトロな感じで良いと思ったんだけどなあ……ふにゅう」
全く反省している素振りがない。
ロボは貼ったばかりのダンボールを渋々と剥がしだす。
私からしたら、ダンボールを窓枠に貼り付けることが、割れたガラスを直すことになると言う発想自体が驚きだ。最先端なのか時代遅れなのか彼女の思考が理解できない。
……とは言っても、ガラスが割れたままでは、温度的にも防犯的にも問題があって眠るに眠れない。
仕方がない。
今日はダンボールで我慢して、明日の朝一番で業者さんに来てもらおう。
「じゃあ、ダンボールで良い……」
「しょうがないなあ……
「え、え?! 何?!」
ロボは呪文らしき言葉を叫んで、ガラスの破片に向かって指を差した。
指の先から青白い光が発射されガラス片全体を包み込むと、割れた窓枠に向かって浮かび上がった。そして青白い光に包まれた破片達はパズルのピースを揃えるかの如く一欠片ずつ、次々にカチャ、カチャと組み合わさっていく。
そして、窓ガラスが瞬く間に元通りになった。
す、すごい!
彼女は超能力でも使えるのだろうか。
「これで良い? てへぺろ」
「出来るなら最初からやってよ!!」
「ガッカリさせた後に喜ばせるテクニックは女子に有効だって博士が言ってた。てへぺろ」
ロボは悪びれずに言い切った。可愛気が無いとはこのことだ。
「割れた窓は元に戻したし、もう文句は無いよねー? あはは」
「文句あるわよ! そもそも窓割って部屋に押し入っている時点でおかしいから!」
このロボに常識が通じないことは十分に分かった。それに言葉使いも幼稚だし、精神レベルは小学生だな。ロボを作った博士の程度が見て取れる。
「何か他に質問ある? てへぺろ」
「あなたの名前は?」
「ロボ子だよ。いえーい。てへぺろ」
「安易! そのままじゃない!」
ロボ子って!
こんな適当でいい加減な名前があって良いものか。苦労して作った末のロボの名前がロボ子って!
確かにインパクトがあって、一度聞いたら忘れられない名前だけれど、美少女ロボにはそぐわない。そしてロボは、中腰になって困惑している私の顔を下から覗き込んだ。
「ああ、信じた? ロボ子は嘘。私の名前は、みかん。よろしくね、あ、か、ねちゃん。てへぺろ」
「嘘とか私のことバカにしてるの?! ふざけるなー!」
はあ。すっかり騙されてしまった。
ロボは無表情と言うこともあって、本当と嘘の区別がつかないのだ。ポーカーフェイスと言うやつか。
そもそもロボに表情を作る機能自体が搭載されていない可能性だってある。表情で自然な感情を表すには相当な技術が必要なはず。こう考えると無表情なのも納得できる。
さて、このふざけた状況をどうしたものか。このまま家に居座られるなんて冗談じゃない。
なんて、私がどう思ったところで、こんなこと両親が許す訳が無いし、許して欲しくもない。私たちと、見ず知らずのロボとが一緒に生活するなんて有り得ない。
ロボを作った童貞クソニート。
私のことを、たまたま気に入ったと言うだけのふざけた理由で、私の家に住み着くなんてことが許される訳が無い。
そんなことより、依然として親が起きてくる気配がないな。
あのガラスが割れる大きな音がしているのだから、いくら何でも非常事態に気づいていることだろう。
あ。
もしかして、こいつが両親に何かした?!
「あなたお母さんに何かしたっ?!」
「何もしてないよー。この部屋をバリアで囲んで防音にしたから、気づいてないんじゃないかなあ。すごいでしょ~。アタイ。」
「バリア?! 防音?!」
「でもねー。さすがに長時間バリア張っていると、私のバッテリー消費量が激しくなるから、バリア解除しておこう。
ロボは呪文を叫んだ。
周りの風景は全然変わっていないけれどバリア、防音が解除されたと言うことだろうか。
「あなた、ギャル語の使い方を覚えたいって言っていたけれど、私ギャル語なんて話さないから意味ないんじゃない?」
「うーん……最近の女子高生は細かいことを気にするんだね」
「うるさい! 細かくなんてない!」
「あはは。私は、女子高生、つまり あかねちゃんの生活をリサーチできればいいんだよ。てへぺろ。」
「な、なんてことを!」
このロボの余裕は何なのだろうか。
言動に抑揚がないと言うこともあって彼女が何を考えているのか全く分からない。
生まれてから、この16年間3人家族で過ごしてきたし、ペットを飼うならともかくとして、ロボと一緒に生活する必要性なんて全くない。
それにロボとの共同生活が世間に広まったらマスコミだって動くだろうし、平穏な日常生活をぶち壊されてしまうに違いない。それは断固として阻止しなければならない。
私が途方に暮れていると……
――トントン
――トントン
ドアをノックする音が聞こえた。
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