初めての手紙

 描いた人生はまだ溜まることを知らない。従順な希望がひょいとやってのけてしまうから。

 俺が送った最初の一通は、ブランクを挟んだことが目に見えて分かる辿々しいものだった。


 君はまず図書館に行く。

 本は借りてもいいが、ほどほどに。

 そして公園へ行く。花を摘んでも、本を読んでも、好きなことをして構わない。

 日が暮れたら帰ること。以上


 自分に何か欠陥があるのだ。そう思い、願ってしまいたいほどに拙い文章。

 ーー自分の作品をこの状態で世に出すことになるかもしれない

 危機感を覚えた俺は、希望の人生作りに真剣に取り組むことを決心した。


 1週間ぶりに家にきた希望は、もう我が物顔でソファを占領している。

 俺がアイスココアを持っていくと、ひょいと飛び起きてパソコンに何かを打ち込み始めた。

 『ここ1週間の人生、つまんない。別に大それたことがしたいとは言わないけど、もうちょっとなんかないの?』


 ーー確かに面白味はないかもしれない。

 俺が書くのはいかにも普通の生活。特に何か起こすことはないし、何かに巻き込まれることには滅多にならないだろう。

 でも、意義はあると思う。

 何か大きな出来事を望んで生きることも否定はしない。

 それは、たとえば人生の大逆転劇で。何かを変えようと奮起して生きる人生。でも、


 「それだけじゃないんだよ、人生って」


 俺はそう呟いた。

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