回想の手紙 2

 部屋は、数ヶ月持ち主がいないとは思えない程に綺麗だった。だからこそ、違和感を覚える。

 ーー入ったこと知ったら怒るだろうな。

 希望は、部屋に入るとすぐ本棚に駆け寄った。本は好きらしい。

 そして全体に目を通すと、本棚から何冊かを引き抜いて俺の前に並べ始めた。並べ終わった本の共通することは、

 同じ著者の小説……?

 「ああ、これは母親の趣味。多分、親父は読んだことないよ。人の書いた本は読まない人だったから」

 俺の言葉を聞いた後、希望は少し考える素振りを見せて宙に指を走らせた。

 何か言いたいことがある

 そう読み取った俺は、居間にパソコンを取りに行こうとした。しかしそれを制して、希望は小脇に抱えていたポーチの中からノートとペンを取り出す。しばらく何かを書くと、それを差し出した。

 『書くのは面倒で好きじゃない。待ってもらわないと話せないのがもどかしいし、対等でいられない自分が悔しい。

 でも、本の中なら、みんな一緒だから』

 読み終わって顔をあげると、目を細めて微笑んでいる希望が目に写った。

 俺が、不恰好に見えたからかもしれない。ただの情けかもしれない。

 でも、弱いところに触れたら、自分の弱さを見せる。

 そんな彼女の笑顔は美しく見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る