俺の手紙
今、俺と彼女の前にはコーヒーが置いてある。
やっと見つけた探し人は、あの場で話をしようとした。だが、生憎俺はそこまで鈍い人間じゃない。
全席に声をかけてまわる変人の相手は、うんともすんとも言わない女。きっと怪しいサイトかなにかでの待ち合わせだと思われているんだろう。周囲から冷たい視線を注がれているのが嫌でもわかる。
俺は、すぐにでも別のカフェに移動しようとした。
しかし彼女にそれを伝えると、首を横に振る。そして心なしか、徐々に顔色が悪くなっていった。移動したくない理由があるのだろうが、断固として教えてくれない。
そこで仕方なく、代案として俺の家を挙げるとあっさりとついてきた。
もともと連れてくる気なんてなかったし、普段呼ぶ人もいない。そんな俺の家に、お茶菓子のストックなんてあるはずもなく、いつの日か伊吹が置いていったチョコレートを出した。飲み物は、普段からストックしてあるコーヒーを。
顔色はカフェにいた時より、いくらかマシになっていた。
『あなたは?』
俺が話しやすいようにと渡したパソコンに、彼女はカタカタと打ち込む。
「カフェでも言ったけど、俺は東堂光。 怪訝そうな顔してるけど、俺で間違ってない。 話すのは初めてだよね、小玉さん。」
ーー俺の目に映るのは、高校で一度すれ違ったことのある下級生の顔だった
『私が探していたのは、あなたじゃない』
彼女は、怪訝そうな顔で俺を見る。
「君が人生を書いて欲しかったのは、多分俺の親父。有名な小説家だったんだ。」
話の深まる頃、二人の飲み物はもうすっかり冷めきっていた。
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