出会いの手紙

 可能性が頭に浮かんだ俺は、カフェの中を探すことにした。座っている人に片っ端から声をかける。返答があったら、お礼を言って次の席へ。多くの人が、俺に不審な目を向けたが、そんなことは気にならないほど、俺の気持ちは昂っていた。

 ーーなんでこんな単純なことに気がつかなかったんだろう。

 もしかしたら帰ってしまったかもしれない、そもそも来ていないのかもしれない。

 でも、きっといる。俺はそう思った。

 

 もう大体の席を回っただろうか。次はあそこだ。

 バケットハットをかぶった人が、窓際で本を読んでいる。

「あの、すみません」

 声をかけると、その人は本から顔を上げて、俺に目をうつした。二人じっと見つめ合う時間が過ぎる。不思議と嫌な感じはせず、いつまででもこのままいられる気がした。

 とはいえ、ずっと見つめあっている状況に気恥ずかしさを感じ始める。

 先に折れたのは俺だった。

「あの……」

 頭を掻きながらそう言うと、相手は隣に置いてあったリュックサックをガサゴソと探り始める。その行為で、相手が探し人だと確信を持った俺は名前を聞いた。

 その人はこくりと頷いて、取り出したノートに、手紙と同じ筆跡で名前を書いていく。下には控えめに、初めましてとも。

 それに応えるように、俺は改めて自己紹介をした。

 

 「初めまして、東堂光と言います。父の代理で来ました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る