第27話 ペンギン仕掛けの目覚まし時計4
1 ぬいぐるみ
「それ、誰にもらったの?」
と母親が尋ねる。
「ひろったの」
と少女が答える。
「可愛いね、そんなに汚れてないね」
「うん、家に連れて帰る」
「そう、そうか、うん、分かった。拾ったからって、粗末にしちゃダメよ」
「そまつ?」
「そう、大事にしてあげてねっていう意味よ」
「わかってる」
母親は思う。
普通に産まれて、普通に育ててきた、つもりだ。
然し、普通の子と少し違うところがある。
特に大きな違いがあるという訳ではないが、とにかく独り言が多い。
この公営住宅に移り住んで、この街で此の子を産み、育ててきた。
周りに同い年の子が少ないという事もあるのだろうが、一人で遊ぶ事が多い。
ただ、少し違うと母親が思うことは、公園で遊んでいる時も、部屋の中で遊んでいる時も、まるで誰かと話しているように遊んでいる。
公園の中には少女以外に誰もいないし、部屋を覗いてみた時も、そう、誰もいる筈がない。
最近になって、一番驚いたことは、誕生日のプレゼントに新しい服を買ってあげた数日前のことだ。
買い物に行くから、一人で留守番していてね、と言って家を出た。
帰ってくると、少女は誕生日のお祝いに買ってもらった新しい服を綺麗に着こなしていた。
更に、服を出された後の箱がキチンと閉まっており、可愛い絵柄のついた包装紙も綺麗に畳まれていたことだ。
いったい誰が? 不思議に思うよりも恐怖を感じた。
「そのお洋服、どうやって着たの?」
母親は恐る恐る聞いてみると、
「綺麗なお姉ちゃんが着せてくれたの」
と、もうすぐ3歳になる少女が言う。
母親は戦慄した。
確かに鍵をかけ忘れて外へ出た。
然し、誰が? 盗まれた物もない、少女が傷つけられた訳でもない。
今、思い出しても鳥肌が立つ。
兎に角この事は忘れよう、そして次からは必ず鍵は閉め忘れのないようにしよう、それ以外に対処の方法を見つけられなかった。
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