第13話 Ranking 3rd
涼太は、今夜も包丁一筋で頑張っている。
と言っても、刺身などの鮮魚など飾り包丁が必要な時が、そうそうある訳でもない。そんな時は、焼き魚の料理なども担当する。
焼き魚のメニューは、塩焼き、味噌焼き、味醂焼き、である。
塩焼きの塩加減は世界共通のようで、日本で覚えてきた塩加減でいけた。
味噌焼き、味醂焼き、については、この店のナンバー1の副板長が、その味を調整してくれて漬け込んでいてくれているので、そのまま焼けばいい。
焼き加減も日本で覚えてきた通りでなんとかなっている。
天麩羅は、最初に試された時にダメ出しをされた。
板長、副板長に、熱々の天ぷらを出したところ、涼太としては揚げ加減、衣の乗せ方、自信があった。
しかし、目の前の二人の板前は首を縦に振らなかった。
涼太としては、未だに合点がいかない。
そんな思いをしながら働いている時にナンバー2の板前に、
「なぁ、杉浦よう、そろそろ味付けも覚えてくれないとなぁ」
などと言われる。
本人がそう思っていなくとも、取りようによっては嫌味に聞こえる。
しかも、涼太自信が悩んでいる、その一番言って欲しく無いところを突かれると怒りにも似た感情が湧いてくる。
仕事を終えて部屋に戻ると、ぺペンギンが目覚まし時計の前で待っていた。
涼太は、軽く挨拶をすると、予め細く切っておいた鮮魚をお椀に乗せ、氷を冷凍室から取り出して、これも隣のお椀に置いた。
「マグロか? 今夜もマグロか? ツナちゃんか?」
と言いながら、ぺペンギンは目を潤ませている。
そんなぺペンギンを無視して、ソファーベッドに尻餅をつく様にどさりと座ると、忙しくなる前に買っておいたジャンクフードを袋から取り出した。
室温になったホットドッグを取り出して、飲み残した炭酸の抜けているコーラを飲む。
「くそ」
と思わず声になる。
「どうしたんや?」
「ほっといてくれ」
「何があったん?」
「いいから、ほっといてくれ」
「お前、どうせ職場で、嫌味の一つでも言われたんちゃうんか?」
「黙れ!」
暫くの間、沈黙が続いたが、ぺペンギンから声をかけた。
「せやなぁ、この国で言うたら、キリストさんの話でもしたろか?」
「黙れって言ってるのが聞こえないのかよ!」
涼太は感情を抑えきれずに食べかけのホットドッグを目覚まし時計、いや、ぺペンギンに向かって投げつけた。
ぺペンギンは辛うじてホットドッグを避けると続けた。
「敵を愛せよ、って言葉の意味教えたろか?」
「この野郎!」
そう言うと涼太は、まだホットドッグの残っている袋を振り上げた。
「敵を愛する、って出来る訳ないやん。じゃ、これってどういう意味なんやろ?」
そう言いながら、ぺペンギンはファイティングポーズをとっていた。
涼太は振り上げた袋をぺペンギンに向かって叩きつけた。
その瞬間、あろうことかぺペンギンが消えた。
いや、ぺペンギンが消えた様に見えただけだった。
一瞬の出来事であった。
どうやって飛んできたのかは分からない。
袋を叩きつけた瞬間に涼太の目の前、鼻先にぺペンギンの姿が見えた。
刹那、ぺペンギンは空中で3回転したかと思うと、その小さな翼から放たれた右フックが涼太の顎を捉え、涼太はソファーベッドから崩れ落ちた。
「このドアホが! ええか、よう聞き晒せ、人はな、ノックダウンを喰らった時に、マットに沈められた時に、どうするかは二つに一つの道しかないんじゃ! しまった、やられた。って思て最後のゴングの音を倒れたままで聞くんか、それか、次は立ち上がったら、どうやって戦うかを考えて10カウントが数え終わられる前に再び立ち上がるか、選ぶ道は其の二つに一つしか無いんじゃ、このボケ! 分かったら、ワイが10カウント数えたるさかい、数え終わるまでに立ち上がって、かかって来んかい。せやけど、最初に言うといたる、相手はワイやない、嫌味を言うた奴でもない、嫌な思いをさせられた其の言葉でもない。相手はお前自身じゃ、このボケナス! 戦いの場所は、目の前にあるんやない、いつでもお前の心の中にあるんじゃ!覚えとけ!カスが!」
「・・・・・・・・。」
「言い忘れとったけど、こう見えてもワイ、宇宙ボクシング、ジュベニール級、星間ランキング3位まで行った事があるんや。痛かったやろ、でもな、今のお前には丁度ええ痛さやったんちゃうか?」
「・・・・・・・・。」
「あと、その言葉使い、直せ。目上の者んには、ちゃんと敬語使え」
「目上の者? 小さい」
「お前、もういっぺん殴ったろか!」
訳注:私達は、ジュベニール(juvenile)の日本語訳としてチャイルドよりも幼いという0歳児を含めた幼児に分類していますが、ネイティブな英語をお使いになられる方にとっては如何でしょうか? 本文の和訳としては、幼稚、とか、お子ちゃま、みたいな訳が、きっと合うと思っております。
織風 。
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