第12話 Big Eye Tuna
涼太は、今夜も夜遅くにアパートにたどり着くと、昨日届いた目覚まし時計を見てみる。
動いていない、そして、一切の気配が消えている。
昨日の夜の出来事は幻?だったのか?
しかし、涼太は昨晩の出来事をはっきりと思い出せる。
涼太は、兎も角も冷蔵庫の扉を開け、冷凍室から氷を取り出して、金色のお椀の上に、言われた通りに3個、乗せた。
そして店からこっそり持って帰った刺身用の鮮魚を細く切ってお椀に乗せてみた。
「・・・・・・・・。」
何の反応も見られない。
涼太は、キッチンに向かい、今度は自分用の食事の用意をする。
と言っても賄い用に取り置きされた魚のあら炊きを鍋に入れて温めるだけ。
そしてフランスパン。
和洋折衷と言えば聞こえはいいが、涼太はアメリカで暫く暮らしているうちに、どんな組み合わせでも食べれるようになって来ている。
あら炊きがいい具合に温められた頃に、突然、背後から大きな声が聞こえる。
「何んなんこれ! めっちゃうまいやん。こんな美味いもん、世の中にあるん!」
涼太は振り向くと、ぺペンギンが刺身にかぶりついている。
「美味い、っすか」
「何んなん?この美味さ。ここは天国か!エデンの園がやって来たんか!」
「気に入ってもらえて良かったっす」
涼太はシラスと言われて、かなり悩んだが、姿がペンギンそっくりなので鮮魚であればなんとかなると判断したが、上々の出来、正解であったようだ。
「これ、何んていう名前の魚なん?」
そう言われて涼太はぺペンギンを見ると、目が潤んでいる。
普段の3倍くらいの大きさに見開かれた両目は、キラキラと輝いている様にも見えた。
「え、あの、っすね、これ、ビッグ アイ ツナ って言って、日本語で目ばちマグロ、っす」
「マグロちゃん、最高やん、こんな美味しい子が海で泳いでんねんなぁ」
「これからも、いろんな鮮魚、持って帰るよ」
「いろんな?」
既にぺペンギンは、遥か彼方をみているような虚な目になっており焦点が合っていない。
「じゃ、今度から、シラスじゃなくてもいいっすか?」
「それ、何なん? 何んの事?」
ぺペンギンは、夢ごごちから覚める様子もなく、氷を抱きしめたまま、嘴で氷にキスを繰り返している。
そんなぺペンギンを見ていると、結構可愛い生き物なんだ、と涼太は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます